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幼なじみが犬になったら、モテ期がきた件  作者: KUMANOMORI
2章 蒔かれたよ、変の種
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夢うつつ


 ●魔法2日目(先勝)



 どこからか祭囃子が聞こえる。

 足元からカランコロンと下駄の音がして、わたしは自分の居場所を思い出す。

 そうそう、人いきれの中、慣れない下駄をはいて窮屈な浴衣を着て、ゆき姉ちゃんに手を引かれていたのだ。

 お小遣いをもらってゆき姉ちゃんと二人、夏祭りにやって来た。

 道々、ゆき姉ちゃんは知り合いに会うたび立ち話をするので、退屈したわたしは、その間、屋台を冷やかして時間をつぶしていた。

 亀すくい屋の前で亀をひとしきり眺めて、さてゆき姉ちゃんはどうしたかな、と見てみるとさっきゆき姉とその友達が話していた場所には誰も居なくなっていた。

 あせって辺りを見まわしても、どこにも見当たらないので、ゆき姉ちゃん!と名前を呼びながら、探し回った。

 何度も大人とぶつかったあと、一人の少年にぶつかった。

 目が明るく光る少年だ。

 わたしと同い年くらい?

 少年はお母さんと思われる女性に手を引かれていた。


「どうしたの?」

 と少年に尋ねられ、

「お姉ちゃんとはぐれちゃった」

 とわたしは答える。

「あら、それは大変」

 少年のお母さんはそう言ってから、

「それじゃあ、一緒に捜してあげようか。ね?」

 少年に笑いかける。

 少年は元気にうなずくと、

「はい」

 とわたしの前に手を差し出してくる。

 わたしはわけも分からずその手と少年の顔とを交互に見る。

 わたしのそんな様子を見て、少年のお母さんは言う。

「またはぐれちゃうと困るでしょう?みんなで手を繋いで行こう」

 そして、柔らかく笑う。

その優しい笑顔につられ、わたしは自然と目の前の少年の手を取った。

少年はにっこり笑い、ぎゅっと手を握ってみせる。

応えた方がいいのかな、と思ってわたしもぎゅっとする。

 すると、少年はくすくすっと笑った。

少年は、人の波に押され、繋いだ手が離れそうになったときも、

「悪の手先の襲撃だー、はなれると悪に染まるぞ!はなれるなあー」と声をあげながら、ぎゅっとわたしの手を引っ張って遊ぶ。

 変なの、と思いながらも、少年が始終、あまりにも楽しそうにしているので、わたしも何だか楽しくなる。


3人でゆき姉ちゃんを見つけたときには、その子とわたしはすっかり仲良くなっていた。


ゆき姉ちゃんと合流して、親子と別れる間際、少年は少し名残惜しそうにして、

「またなー」

とぶんぶん手を振った。

わたしもお姉ちゃんに手を引かれながら、肩越しに手を振り返す。

またねー、と。

『うっふ~ん、うっふ~ん、うっふ~ん』

そのとき、だみ声が反響する。

少年の顔や周りの情景がぐにゃんと歪む。

『起きて~ん、うっふ~ん、起きて~ん、うっふ~ん』

夢か現かとまどろんでいた頭は、すっかり現に叩きだされる。

わたしは、枕もとのそれをぱしんと叩く。

『いやんっ!』

という音声を最後に、それは止まる。

瞼を開け見ると、枕元に、化粧の濃い、カクテルドレス姿の全長15センチくらいのおじさんが倒れていた。

ゆき姉ちゃんの前の彼氏がくれた、趣味の悪い目覚まし時計だ。

いいかげん捨てなさい、と姉ちゃんには言われるけれど、この気持ち悪さのおかげで良く起きれるので、未だに使っている。

でも、剃り残しの口ひげにあごひげ、ドレスの下からはみ出たすね毛ぼーぼーの足、胸元からのぞくもじゃもじゃの胸毛……ひととおり確認すると、確かにちょっと悲しい容姿しているのは否定できない。

しかし、毛が多いな。

わたしはおじさんを立て直すと、ベッドの上で体を起こした。


 夢の余韻がまだ頭の上にふよふよ浮かんでいるかのような浮遊感がある。

 随分懐かしいものを見てしまった。

 あの少年のまたなー、の後に「また」はすぐ来た。

 翌日、我が家の戸を叩き、引越しのご挨拶に来たからだ。

 そのときには、お父さんもお兄さんも連れ立って。

「おれ、ヨコボリコータローって言うんだ。よろしくなー!」



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