えぐられて
食事もたけなわになって来た頃、
「もっと食べてよ、本田さん。何だったら俺があーんしても良いよ」
と穂波君が、自分の分のおかずを差し出そうとしてくる。
「け、結構です」
「じゃあわたしがあーんしよっか。ミサ、あーん?」
まほりが穂波君の言葉にのっかり、ブルーベリーゼリーを差し出してくるが、その目が半開きで恐ろしいことになっている。
もはや気力で起きている感じだ。
「まほり、少し寝てから部活戻ったほうが良いんじゃないかな……」
ただ、折角なのでブルーベリーゼリーは一口もらう。
「そうだねー」
と言いながら、目をあけたまま魂が抜けるようにして眠ってしまう。
「ま、まほり……こわいな」
わたしは、まほりの指からスプーンを離すと、ケースの中にしまう。
「パンチ効いてますね、さすが椎名さんだ」
火恩寺君がまほりを尊敬の眼差しで見ている。
「コンパクトに眠れていいね」
穂波君も、微笑ましいものを見るかのようにしてまほりを見る。
そんな様子を見ていると、まるで、家族でピクニックに来たような錯覚をする。
何日か前には、こんな風になるとは思いもしなかった。
わたしは穂波君を同じ部活のメンバーだと知らなくて、火恩寺君のことを忘れていたんだから。
そんなやり取りをしていると、近づいてくる靴音がして、
「本田さん。ここにいたんだねー」
背後から声がかかる。
「うん?」
振り返ると、そこには戸田さんがいた。
「どうしたの?ひょっとして、わたしのこと捜してた?」
「そうなの。ちょっとだけ、本田さんに相談があって」
わたしが尋ねると、戸田さんは少し沈んだ顔つきでそう言った。
「相談?いいよ?」
『……』
戸田さんは、周りの面々を見渡すと、
「少し、来てもらってもいいかな?二人きりで話したいの」
そう言う。
他の人には聞かれたくないことなのかな。
「分かった。いいよ」
と返事すると、
「穂波君、火恩寺君、まほりをお願いしてもいいかな?」
二人の声をかけた。
「分かった。部活に間に合うように起こせばいいんだよね」
「了解しました姐御、しかしお気をつけて」
「ありがとう」
『ミサキ。俺も一緒に行く』
「え?」
テーブルの上から飛び降りると、幸太郎はわたしの足もとにやって来る。
「戸田さん、犬が付いて来たいみたいなんだけど……」
「ワンちゃんなら、いいよ。それじゃ行こう?」
戸田さんは幸太郎を一瞥すると、わたしを促すようにして歩き始めた。
戸田さんについていくと、実技棟の廊下へと入っていくことになった。
生物室や化学実験室、物理実験室、それぞれの準備室のある1階の階段から、2階へと上がっていく。実技棟では多くの文化部が活動しているはずだ。
いつもこの辺りを通ると、上の階から軽音部のギターやベースの音と、吹奏楽部の金管や木管の音が混じって聞こえるのだ。
今も個別練習の音が少しだけ漏れ聞こえている。
階段を上がり終わり、家庭科室や茶室などの並ぶ廊下を少し行ったところで、戸田さんはある教室の戸を開けた。
そして資料室、とかかれたその部屋の中へと促す。
「お先にどうぞ、本田さん」
「うん」
促されるまま中に入ると、幸太郎を通し、戸田さんは最後に中に入ってきた。
そして、戸田さんは戸を閉めると、後ろ手で鍵をかける。
『え!?』
「え!?」
どうして鍵をかけるの、と思う間もなく、
「ごめんね、本田さん……」
素早く間合いをつめてきた戸田さんに、みぞおちをぐいっとえぐられた。
「ぐ、ぐぇっ!」
うそ、今日のわたし、こんなのばっか……。
涙に曇る視界を置き去りにして、わたしは本日二度目の気絶をした。
『ミサキ!』
そんな幸太郎の呼び声を聞きながら。




