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幼なじみが犬になったら、モテ期がきた件  作者: KUMANOMORI
2章 蒔かれたよ、変の種

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穂波の、内臓捕獲計画


「今朝の集会の前に会ったあの子も、前に俺が髪をアレンジさせてもらった子で。また君の髪を触りたいなって言ったら、喜んでくれたんだ。比較的親しく話をすることも増えたし、今度は休みの日に遊びに行こうという話になっていたかな。彼女は、昨日の帰りに俺が本田さんといるところを見たらしくて。何で他の子と帰るの!て怒られたんだ。そして、他の子の髪を触るなんて、最低、と言われてレバーをドスン……」

「だんだん話が見えてきたね」

「うん……」

 穂波君を取り巻く変な状況の全体像が見えてきた。

 ようするに、自業自得だということが。


「ひょっとして、穂波君。今朝みたいなやり取りって今まで何度もある?」

 わたしがそう尋ねると穂波君は目を丸くする。

「すごいな、何で分かるの?2年生になってからだと、もう今朝ので30回目くらいかな」

「……」

 予想よりも遙かに大きな数字にコメントを失う。

「なんか、不潔だね」

 とまほりが呟く。


 それはあまりにもひどいけれど、言わんとしていることは分かる気がする。

「多分俺は、女子に嫌われているんだと思うんだ。バスケ部でも女子部の先輩が俺のことたまに睨んでいるし」

それはたぶん……高塚先輩だろうな。

「穂波君は多分、嫌われてるんじゃないと思うよ」

「え?」

「好かれすぎて、厄介なことになってるんだと思うな」

 この場合、恋愛事に鈍いわたしでもさすがに分かる。

「みんな、髪をアレンジしてもらって、穂波君のこと好きになっちゃったんじゃないかな」

「好き?でも、みんな顔を赤くして怒っていたし、話かけてもそっけなくなったよ」

「穂波君、女心分かってなさすぎだよ!ドッキドキだから、顔が赤くなるし上手く話も出来なくなるんだよ!」

 にわかにいきり立って、まほりが身を乗り出す。

「まほりもそんな経験が?」

 わたしが聞くとまほりは頬をぽっと赤らめる。

「わたしは、黒魔術研究会の極黒謎男先生にメロメロだもん~」

「あ、そう。うん、そっち系の人ね」

 話が大幅にずれそうなので、あまり深入りはしない。


「けど、まほりが言ってたの、そんなには外れてないかも。穂波君って髪の毛の触り方優しいし、アレンジしてもらっている間に好きになっちゃうっていうのも分からなくないもん」

 幸太郎基準で男子を見ているせいか、穂波君の所作ひとつひとつが新鮮な面はたしかにある。

「本田さんは?」

 一般論を言ったつもりが、思いがけない突っ込みが入る。

「え?わたし?」

「本田さんは好きになってくれる?」

 穂波君は柔らかい表情で、でも、どこか強引さがある雰囲気をかもしながら聞いてくる。

「わたしそういうの鈍いからな。恋愛でっていうなら、正直ね、あんまり興味ないし」

「そう」

「でも、もしもわたしが穂波君のこと好きで、他の女の子の髪の毛を触っているの見たら、いい気はしないかも。ま、経験あるわけじゃないし、漫画とかドラマレベルの感覚で話してるけど」

「じゃあ、逆に、もしも俺に好きな人がいたなら、その人以外にはしないほうが良いってことなのかな」

「そうだね、たぶん」

 穂波君って意識していないだけで、髪の毛を使ってナンパしているようなものだし。

 その数が今年度になって、30回なら、どんだけのナンパ師なんだよって話だ。


「そっか。それだったら、本田さん。気が向いたときでいいから俺に髪の毛をアレンジさせて欲しいんだ。出来れば服も含めてトータルコーディネートまで。いや、食事から、ひいては内臓のコーディネートまで」

「え、内臓!?いや、穂波君。変だよ。だって好きな人にしかしないって――」

「好きだよ、本田さん」

「な……」

「椎名さんも、話を聞いてくれてありがとう。明日お礼にお弁当作ってくるから、食べてくれないかな」

「オッケー。イカ入れてねイカ。イカ天でも、するめでも、イカ飯でも可」

「うん、分かった。本田さんはどんなのが良い?ハムでハートマーク作って、お花畑サラダ作ってもいいかな?」

「ミサ、ハム好きだよ。ミサはハムで出来てるといっていい」

「そう。なら良かった。可愛いお弁当が出来る」


 何これ、今とんでもないことをさらっと言われた気がするのに、何でもないように会話が流れていく。

 でも、ああそっか。友達として好きってことなのかも。

 好きだなんて言われたことなかったから、つい焦っちゃったけ――

「本田さんが俺のお弁当食べて、内臓からぎゅっと捕獲して、俺のこと好きになってくれると嬉しいな。そうすれば、一緒に手を繋いで帰れるし」

「は、はい?」

 内臓から捕獲されるの、わたし?

「乙女っぽい願いだね」

「ああ、同じ部活の奴と約束しているから、行かないとだ」

 穂波君は腕時計を確認すると、ため息をつきつつ席を立つ。

「名残惜しいけど、またね、本田さん。また明日会えるの楽しみにしてるよ」

 穂波君はわたしににっこりと笑いかけ、去っていった。

 その背後に、お花畑が見えたような気がした。

「ミサ、モッテモテだね。おまじない効いたのかな」

「そ、そんなバカな……。おまじないははね返されたんじゃなかったの?」

「あはは」

 明らかな棒読みでまほりは笑う。

「まほりぃ」

 まさかこんなかたちで、人生初めての告白をされるとは思わなかった。

 ん……初めて、だよね。


 金の――――。

 また今朝の嫌な予感がして考えるのを中断した。

 何だろう、ものすごく嫌な予感がする。



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