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幼なじみが犬になったら、モテ期がきた件  作者: KUMANOMORI
1章 恋なんて、夏 
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巨乳と光の襲来


 今日の補習は出来の悪すぎる確認テストで幕を閉じ、本当なら休みのはずの明日もわたしは再テストのために登校することになった。

バスケ部の練習があるからどのみち登校はする予定だったけど、テストのために登校するのと部活のために登校するのじゃモチベーションが大分違う。


「はあああ」

 ため息と言うより嘆き声をあげながら、2年生用の玄関に繫がる階段をおりる。

まほりとは教室で別れた。ラクロス部の練習に途中参加するらしい。

ちなみにまほりは、しっかりと確認テストに合格していた。

わたしと話をしていたのに、及第点をとって補習を免れちゃうなんて、大分要領が良いよね。


 そんなわけで大分落ち込みながら玄関で上履きと外履きとを履きかえていたら、

「お!ミサキ発見」能天気な声が背後から飛んできた。

 うわあ、めんどくさ、と咄嗟に思った。

 振り返るとやっぱりそこにいたのは、うるさい幼なじみだった。

「よ。一緒に帰ろーぜ」

 幸太郎は横に並んでくると、上履きを半ば強引に下駄箱へ詰め込み、スニーカーに履きかえた。

「はあ、元気だね。コータローも明日補習なのに」

 幸太郎とは小さい頃からの仲だけど、出会ってこの方、自分は幸太郎より賢い子だと思っていた。けれど、こうやって同じように補習受けて同じように再テストする羽目になっていると、実は大差ないのかもしれない。

ていうか寧ろ、真面目にやっているのに成績が悪いわけだから、わたしの方が脳みそイカレてるのかも知れない。

そう思うと、ホント、やってやれない……。



「夏休みなのに補習はダルイ。すげーダルイ。けど」

 幸太郎はそこまで言って、わたしの顔をうかがう。

「何?見すぎ、気持ち悪い」

「ちょっと見てただけで、何倍返しだよ、それ!まあ、良いや。帰ろうぜー」

 つま先を弾いて靴を整えている幸太郎をみて、わたしも靴を履きかえた。

 幸太郎が1年生に人気があったなんて初耳だったなあ、とそのときぼんやり思った。

 可愛いって人気だというけど、どのへんが良いっていうんだろう。



 顔?見飽きてるし、全然良いと思えない。

 性格?奇行に走る能天気バカだし、ないな。

 雰囲気?やかましいし落ち着きがない、却下。

 そこまで考えて、わたしの脳みそは考え事に飽きてしまった。


 そんなわけで、幸太郎の人気の秘密なんて頭の外にすっかり放り出して、わたしは幸太郎と帰ることにした。

道すがら、なんと言うことない話をして帰った。

もっとも、幼なじみで、しかも小学校の6年間、中学校の3年間、高校の1、2年と同じクラスのわたしたちに、未だ開拓されていない話題があるとも思えないけど。 

「今週の土日、この地域の夏祭りあるじゃん。あれ親父が実行委員会入ってるから、手伝えっていわれてさー、ちょーダルイ」

 幸太郎のお父さんはこの地域の少年野球チームの監督をしているから、その縁から実行委員として地域の行事に参加している。もうわたしが知る限り大分前から。

「毎年大変だよねー、手伝い行ってあげればいいのに」

 幸太郎はお父さんについてよく夏祭りなんかの手伝いに行っていて、昔はわたしも幸太郎について遊びに行ったことがある。

 幸太郎のお父さんはこっそりラムネやヨーヨーをくれたり、櫓太鼓を特別に叩かせてくれたり、内緒のサービスをしてくれたから、とんでもなく楽しかった記憶がある。

「じゃーさ、ミサキも来る?」

「え、何で?」

「あーいうの、基本子どもとか父さん母さんの年代の人ばっかで俺ら位の年代いないじゃん。つまんねーんだもん」

「正直言って良い?」

「なんだよ」

「面倒くさい」

「ははっ。だよなー」

 ほんの一瞬だけだけど、幸太郎が寂しそうな顔をした気がした。

「じゃあ、椎名と遊びに来れば」

「うん、そうする」

 わたしがそう言うと、幸太郎は首を横に振る。

「い、いや!そーじゃねーの、なあミサ――――」

「あ、戸田さんだ」


 


「はあー」

 何だか知らないけど、幸太郎はわざとらしく溜息をつく。

「お出かけ?」

 わたしは戸田さんに声をかける。戸田さんは白いレースのワンピースに黒いカーディガンを羽織る私服姿だった。

 高校生にしては少し大人っぽい顔立ちの戸田さんにはとっても似合っている。

「うん、まあね……」

 歯切れの悪い返事をしてお茶を濁し、逆に、

「本田さんと横堀君は部活?」と聞き返してくる。

 今度はわたしが歯切れ悪くなる番だった。

「うん、まーね」

「ミサキかっこつけんなよー。俺らは補習だよ、ホシュー。バカだもーん」

 さっきまでわたしが悩んでいたことをズバッとつく発言をする。

「い、一緒にしないでよね。少なくともちょっとはわたしのが頭良いから」

「富士山を『富士さん』っていう親戚のおじさんだと思ってた奴がー?」

 幸太郎はニヤニヤ笑う。

 あーもう!これだから幼なじみって嫌!

「それ以上言ったら、おばさんにあることないこと言って、当分夕飯抜きにしてもらうからね!ふん、腹ペコの夕べを過ごせば良いさ!」

 対抗する台詞のレベルが低いのが何とももどかしい。

「げっ、マジで!?」

「うちに来ても恵んであげないからね!」

「そんなあー」

「ふふっ仲良いね」

 戸田さんはくすくす笑う。

 そのくすくすっと肩を振るわせる仕草で、わたしはとんでもないことに気づいてしまった。


――――ゆっさゆっさ。

ものすごい重量の物体が、上下に揺れる。


 わたしは思わず自分の胸元を見る。

 戸田さんと並ぶとその存在感に圧倒されて、えぐれているようにすら見える。

 戸田さんが百名山であるならば、わたしは盆地でしょうか、せめて丘くらいにはなるのでしょうか、という感じだ。


 そう戸田さんは巨乳だ。

 バカな男子、幸太郎とか幸太郎とかがクラスで騒いでいたから、気にはなっていたけど、ここまでとは思わなかった。

 今は体のラインの出るワンピースを見ているから、余計にその胸元が強調されている感じだ。

 幸太郎の眼差しがものすごーく率直にそっちに向かっている。

 少々失礼な視線、どころじゃなく、大分失礼な視線だ。

 つっこみを入れたい左手がうずうずしたけれど、戸田さんに悪いのでやめた。

 代わりに、その左手で幸太郎の鼻を摘んで引っ張ることにした。


「いでででで!あにすんだよ!」

「何もしてない、何もしてないよ」

 と笑顔のまま指に少し力を入れる。

「してる!すごいひどいことしてるって!」

「えー?」

 また少しだけぎゅうっと力を加える。

「いでえ!ギブギブ!軟骨っ、軟骨折れるから!」

 早々にギブアップを告げられてしまったので、わたしは仕方なく鼻から手を離した。

「ふふふっ」

 わたし達のやり取りを見て戸田さんは始終笑っていた。一見しとやかだけど、実はドSかもしれない。

「ミサキ、俺に何の恨みがあんだよ。戸田も笑うなって!」

 鼻を丁寧にこすりながら、半分涙目で幸太郎は言う。

「二人って、じゃれている子犬の兄弟みたいだね。見てるとほっこりするあたりが」

「へー痛がってる俺を見てそう思う?」

「ふふっ」

 戸田さんは笑みを浮かべる。

 笑って細められた目が異様に光っていてちょっと怖かった。

「戸田さん、ちょっと怖いよ……」

「え?そんなことないよー」と言いつつ、またふふっと笑う。

 戸田さんってどこか、つかみどころがない気がする、とわたしは思った。


「じゃあ、わたしもうそろそろ行くね」

 ひとしきり笑うと戸田さんはそう言って去っていった。

後姿を見送っていたら、幸太郎が言う。

「邪魔が入ったな」

「邪魔なんて失礼な」

 というかそんなこと思ってないでしょ、胸見てたでしょーが!と心の中で突っ込む。

「まあ、邪魔ってのは悪い言い方わりーけど。タイミングがなー最悪」

「どういうこと?」

 わたしが聞き返すと、幸太郎は改まった顔をする。何だろ、らしくないな。

「そうそう、それで話の途中だったけどさ、ミサキ――」

 こっちに向き直る幸太郎の頭の上から、白い一本の線が立ち上っている。

「あ、飛行機雲!」

 土手の向こう側に広がる開けた夕焼け空に、白くくっきりと一本の線が引かれている。

わたしが声をあげると、幸太郎はずっこける。

「コータロー、ノリが古いよ」

「ミサキこそ、わざとやってんだろ?」

 目を細めてじとーっと睨んでくる。

「え?何を?」

 わたしがそう返すと、表情を緩め、

「ま、いいや。今度こそ!」

 と言う。何やら一人で意気込んでいて、正直うざったい。

「話の続きってのは、祭りのこと。あのさ、やっぱミサキ夏祭り来いよ」

「その話まだ続いてたの?」

「続いてたの!」

「まほりと来ればって言って、終わらなかったっけ?」

 わたしがそう言うと、幸太郎は頭をくしくし掻く。

 それから幸太郎は真っ直ぐにわたしの顔を見る。

 その視線の意図が分からなかったけれど、つられるようにしてわたしも見つめ返す。

「あれはほんの手違いってやつで、本当は、椎名とじゃなくて俺と――――」


 俺と――――?


 その言葉の続きは――――強い閃光で遮られてしまった。


 「え?」

 ピカピカッとものすごい明度の光がわたし達を取り囲み、明滅した。

 わたしはあまりの光の強さに、目を眩ませ、足元を覚束なくする。

 一体何が起こっているのか状況がまったく飲み込めず、頭の中は、一種のパニック状態だった。

 光の中で上下左右も曖昧になり、次第に体の重心が確かでなくなる。

 ふらっとよろめいた体の感覚があった。

 同時に、

「ミサキ、危ねぇ!」と言う幸太郎の声が飛んできた。

 誰かに抱きかかえられる感覚と、手の甲の痛みを最後に、わたしは意識を手放してしまったのだ。

 



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