どうしてこうなった…5
「さて、どうしてここに連れてこられたか…わかるか。瑞樹」
学園に着いてそうそう学園の長である柊 黒江に耳を引っ張られながら学園長室に連れてこられたのである。
何か悪いことをしたのかと頭を抱えていると黒江が端末を投げてくる。
そこに映っていたのは綾人にも見せられた瑞樹(女の子バージョン)の記事だった。
「そこに映っているの、瑞樹だろ」
いきなりの直球で思いっきり噴き出す。
「人の趣味をとやかく言うつもりはないが―」
「僕の趣味なわけないでしょ!」
全力で否定する。
この人に危ない趣味の持ち主だなんて思われたくない…。
「わかっている。どうせ楓辺りだろう。それに呼んだ理由はそれじゃないからな」
そういうと先ほどまでのふざけた雰囲気から一転して真面目な顔になる。
「瑞樹、もう大丈夫なのか?」
「大丈夫…じゃない。あの時はそれ以上に必死だっただけで」
黒江は瑞樹に過去助けてもらったことがあるので瑞樹の事情を知っている。
そのために人前で魔術を使うことに恐怖を覚えて科学魔術で自らの力を隠していることも知っていた。
その瑞樹がデパートという大勢の人が見ている場所で魔術を使ったのだ。克服したのかと思い黒江は瑞樹に聞いたのだった。
「そうか。しかしこの記事もなかなか面白いことを書いてあるな。極秘組織の一人?そんなわけないだろうに」
「仕方ないです。当たり前ですけどデータベースに載ってないんですから」
「だからと言ってここまで大きな話になってしまうと少々面倒だな」
そういうと黒江は少しだけ思案顔になる。
しかしすぐに元の顔に戻りにやりと笑う。
「データベースに載ってないんから話が膨らんでしまうのならデータベースに載せてしまえばいいわけだ。つまり…」
黒江が瑞樹の方を見る。
背中に嫌な汗が流れるのを感じ逃げる体勢を取る。
「お前が―」
「失礼しましった!?」
反転し全力で走り扉を開けようとしたが扉が開かずぶつかりそうになった。
何度ドアノブを回しても向こう側から何か強い力で押さえつけられているようで開かない。
黒江は何事もなかったかのように続けて言った。
「お前がこの子になってここの生徒になればいいわけだ」
まさか本気でそんなことをするわけがない。
「あはは、冗談ですよね?」
「冗談?本気だぞ。」
そういって黒江は新品の生徒用端末を一つ取り出しパソコンに繋げ操作する。
何度かモニターと端末を確認して端末をパソコンから外し瑞樹に投げる。
画面を見てみるとそこには「鹿島 瑞姫」と書かれた生徒証明画面があった。写真はネットに上がっていたやつだが…
それにしてもホント僕とは思えないくらい美人だ
「ってそうじゃない!何でこんなものを」
「だから言っただろ。ここの生徒になればいいと」
「男としての僕はどうすればいいんですか!」
仮に女の子瑞姫ちゃんとして通うとしてその間男の子瑞樹はどうなるのか。
当たり前だが瑞樹の身体は一つしかないのでどちらかがいればどちらかはいない。
「そうだな…留学ということにしておこう。幸い瑞樹の成績は悪いわけじゃないからな」
さらっと話を進めていく黒江。
クラスはそのまま、制服は3日以内に手配、先生方には話をしておく…
瑞樹の話を了承を得ないまま話は進み本当に学園の生徒として登録されてしまった。
「つ、疲れた~」
お昼休みになりどうにか質問攻めも落ち着いた瑞樹は突っ伏していた。
転校生はいつもこんな質問攻めに遭ってるのかと思うと同情するしかなかった。
ひとまずお昼にするため持ってきたお弁当を鞄から出す。
可愛い女の子ぽいお弁当箱である。
楓が「せっかくだから細かいところまで女の子らしく」と言って簡素なお弁当箱から変わったのである。
「なんだ、随分と可愛い弁当だな」
綾人がこちらに近づいてきて言った。
ほかのクラスメイトは少しだけ距離を感じたが綾人はそんなことなく男の瑞樹に接するように話しかけてきた。
それでも僕の方は初めて話しかけられたというのを装って返事を返す。
「そういう獅子原くんはよく食べるね」
「これぐらい食べないとすぐに腹が減るからな。あと俺のことは綾人でいいよ」
そういいながら机にパンを広げる綾人。
「っとそういやまだ名前しか言ってなかったな。獅子原綾人、いつでも彼女募集中のイケメン科学魔術師だ」
訂正、この男下心が透けて見えるわ。
ひとまず綾人の言葉をスルーしながらお弁当を食べる。
しかし先ほどから刺さる視線が気になって仕方がない。
それもそのはず。教室の出入り口には先輩、後輩が瑞姫を一目見ようと殺到しているのである。
(平常心、平常心…)
廊下にいる人達をいないものだと思い込みお弁当を食べていく。
そんな中再び廊下が騒がしくなる。
「お、おいあの一年って」
「あぁ、間違いない。学園に二人しかいないAランクの一人、紗倉 栞だ」
「おいおいマジかよ、こんなところで見れるなんて」
瑞姫もまだ見たことがないのでどんな子なのかと顔を上げ教室の出入り口を見る。
「えっ…」
そこにいたのはあの時デパートで助けた少女だった。