どうしてこうなった…2
人通りの少ないところで飛行魔術を解除して地面に降り立つ。
そうして一度だけ深呼吸をして歩き出し自宅へ向かう。
玄関を開けると雑に脱がれた靴が真っ先に目につく。
こんな雑な靴の脱ぎ方をする家族はただ一人しかいない。
「楓!靴くらい整えてぬぎな―」
「うっさい!!今いいところなんだから静かにして!!」
リビングのドアを開け顔だけ出して怒鳴ってきた少女。
これが僕の妹、「涼風 楓」。
髪が短くボーイッシュな女の子って感じで自分の世界に入ってるときに声を掛けるとこんな感じに怒る。
ため息をつきながら靴を脱ぎ自分と妹の靴をそろえてリビングに向かう。
リビングに入るとテレビに穴が開くんじゃないかと思うくらい見ている妹の姿があった。
そんな妹を放置して飲み物を取りに行く。
戻ると自分の世界から戻ってきた妹がこちらを見ていた。
「わかってます、ありますよ」
そういって左手に持っていたコップを差し出す。
楓はそれを受け取り一気に飲み干すと瑞樹にコップを渡す。
「おかわり!」
「どれだけのど乾いてたの!?」
自分の分を机の上に置き楓の分のお代わりを注ぎに行く。
お代わりを楓に渡し少し様子をうかがう。
先ほどまで自分の世界に入っていたおかげか今は随分機嫌がよく見えた。
瑞樹は鞄から先ほど綾人から貰ったチラシを出し話を切り出す。
「楓、お願いがあるんだけど…」
「却下」
即答だった。
「ちょっと待ってまだ何も言ってない!」
「それならその今取り出したチラシは何かな?」
あまりのスピードに反応が出来ずチラシを奪われてしまう。
「はぁ~、またケーキ?今度は何?個数限定だから一緒に来てほしいとか言うんじゃ…」
「えっと、その…」
そうじゃなくてと言葉を続けようとした瞬間、楓から魔力が溢れだす。
「信じられない!!!買って来いってこと!?私ケーキやだっていつも言ってるじゃん!」
溢れだした魔力の影響で霜が降りる。
これはまずい。
楓は科学魔術を主体として戦う科学魔術士だが唯一例外がある。
それが氷雪系の魔術である。
デバイスを用いること無く発動することが出来る魔術だがあまりに強すぎるため感情が昂ぶり魔力が溢れ出てしまうとその魔力だけで周りの温度が下がってしまうのである。
どうにか落ち着かせようと考えるが何か言ったところで火に油だろう。
今はただ耐えるしかないと決めて覚悟した瞬間、楓から溢れ出ていた魔力が落ち着いていく。
ゆっくりと顔を上げるとすごく悪い顔をした楓。
その顔を見た瞬間にヤバいと思ったがデバイスを抜いた楓の方が一手早かった。
「そっか、男だってばれなきゃいいんだよ」
そういってデバイスに魔力を通し魔術を発動。
瞬間、黄金のリングが形成され手足を拘束する。
「ちょっと待って、言ってる意味が分からないんだけど」
「だから、お兄が男だってばれなければケーキ買えるよね?」
なるほど、確かに自分が男だとばれなければケーキフェアにも参加できるだろう。
しかし瑞樹は過去に何度か間違われたことがあるが男である。
さらに最近は女に見られないように服装も結構男っぽいものを着ているようにしているのだ。
私服で行ったところで入り口で帰されるだろう。
「無理があるって、それに服は全部男物だよ」
「なにいってんの?誰がそのまま行けばいいなんて言った?どこからどう見ても女の子に見えるようにして、あ・げ・る♪」
本気だ、本当に僕を女装させる眼だ。
拘束魔術を破るため腕と足に魔力を集める。
魔術だけが魔力の使い方じゃない。集めた魔力を爆発させることで魔術を吹き飛ばすくらいはできる。
拘束魔術を吹き飛ばし立ち上がろうとしたが再び拘束魔術によって手足を縛られてしまう。
「あたしに科学魔術使わせておいて逃げられると思ったの?」
科学魔術のメリット、高速発動は保有魔力や魔力制御によってさらに速度を上げることが出来る。
楓の場合、保有魔力が大きいため意識して集めなくても簡単にデバイスに魔力を流すことが出来るため一般的な科学魔術師の約二分の一の速度で発動できるのだ。
「さーて、覚悟してね。お兄」
瑞樹は最後まで抵抗したが結局、楓の科学魔術を破ることが出来ず楓の部屋まで引きずられていった。
その後聞こえてきたのは楓の楽しそうな声と瑞樹の悲鳴だった。