The word chain story
社会に大きな影響力を持つようになったSNS。
政府はその監視と脅威査定を目的とした情報自衛隊内の秘密部署「備品管理部」ーー通称「備管別」を組織。
生真面目な少尉。どこか今時な軍曹。紅一点のニ曹。女性人格の人工知能OS・小石。
彼らは電網脅威と日夜戦い続けていた。
ひょんなことからデート中の少尉とニ曹の車を人工知能OS・小石が操る猫型偵察端末で尾行することになった軍曹と技術士官の杜若。
自らの車で少尉達の車に追いついた杜若は、レーザー振動探査型の盗聴装置を起動させる。
そうとは知らない少尉とニ曹は車中で独特な会話世界を構築しつつあったーー。
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少尉「怪我の具合は?もうすっかりいいのか?」
ニ曹「九割がた、と言う所でしょうか。角度や曲げ方で引きつるようなことがあります」
少尉「あの状況では無理をさせてすまなかった。充分な戦力も優位性もなく、強引に事を進めた私の責任だ」
ニ曹「いえ。戦傷は武門の誉れです」
少尉「武門、か……。ご家族は心配なさらなかったか?」
ニ曹「心配はしてくれましたが……家族が聞かされているのはカバーストーリーなので。心配の種類が違います」
少尉「施設を速度マッハ22の小隕石が直撃、と聞かされても大丈夫か?くらいしか心配のしようがないな」
ニ曹「でも、それでいいと思います。万が一にも、今回の敵との戦いなどには家族を巻き込みたくはないですし」
少尉「……そうだな」
ニ曹「ショ……加藤さんのご家族は何か仰ってましたか?」
少尉「無事を確認するメールがあって軽傷だと返信したら安心してはくれたようだ」
ニ曹「お兄様から?」
少尉「ああ」
ニ曹「ご家族は仲が良い方ですか?」
少尉「どうかな。悪い、とは思わんが」
ニ曹「少し立ち入った質問をしても?」
少尉「構わない」
ニ曹「加藤さんが小さい頃、家族で車で遠出したりする場面ってありましたよね?」
少尉「そうだな。農園経営者の両親だから家族全員揃って出掛ける場面はそう多くはなかったが」
ニ曹「その時、しりとりしてました?」
少尉「しりとり?」
ニ曹「私の持論なんですが。遠出の車内で家族全員でしりとりをするお家は、かなり家庭内が円満だと言っていいと思うんです」
少尉「していたな」
ニ曹「やっぱり」
少尉「ニ……仲本さんの家もしていたろう?」
ニ曹「はい。しかもかなり最近まで。最近は流石に普通のしりとりじゃなくて、ジャンルで縛ったりしながら」
少尉「食べ物、とか海の生き物、とか?」
ニ曹「ええ。縛り方によっては大人がやっても面白いんですよ。詰まる所、ボキャブラリーのストック量の勝負ですから」
少尉「中学生位の時に兄との間で『しりとり昔話』が流行ってな」
ニ曹「しりとり……昔話?」
少尉「ああ。多分我が家独自のブームだ。つまり、しりとりで昔話を創って行くんだ」
ニ曹「??……しりとりで、昔話を創るんですか?」
少尉「実際にやってみた方が分かりやすいか」
ニ曹「お願いします」
少尉「では私から。『昔々あるところに』。ニ……仲本さん、『に』から始まる次のセンテンスを」
ニ曹「ああ、成る程。えーと『に』ですね。に……忍者の村がありました。で、ショ……加藤さんが『た』ですね?」
少尉「高い山の上にあるその村は」
ニ曹「わ……悪い奴らを人知れず倒す」
少尉「いいぞ。……凄腕の正義の忍者達の村でした。ある日」
ニ曹「ひ、ですね」
少尉「語尾が同じ字にならないようにするのが続くコツだ」
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一方その頃、杜若の車内ーー
杜若「……」
軍曹「……」
杜若「なんと言うか……想像の斜め上な会話ですね」
軍曹「…………………」
杜若「軍曹。気持ち悪いんで笑うなら声出して笑ってください」
軍曹「ヒィ……ww。ヤバイ……ww。マジで……ww」
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杜若「あ、高速を降りますね。やはり倉敷インターチェンジだ。軍曹?大丈夫ですか?」
軍曹「……www……www……」
杜若「結局一時間弱、しりとり昔話でしたねぇ」
軍曹「忍者が、忍者がwww……バルチック艦隊と腕相撲ってwww……」
杜若「確かに。アホらしくも破壊力ある遊びですね」
軍曹「それをwww……あの二人が……アホらしさからはwww……真逆のww……バルチック艦隊ww」
杜若「……」(こりゃ軍曹は暫く使い物になんないなぁ……)
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少尉「程なく着くが、直近の開演は何時だろう」
ニ曹「初回はもう始まってますから、二回目の12時10分の回ですかね」
少尉「取り敢えず席を抑えて、一時間どうするか。早目に食事にしてもいいし、ショッピングモールを見て回ってもいいが」
ニ曹「食事にしませんか?私、お腹空いちゃいました」
少尉「一時間だとショッピングモールの中で?」
ニ曹「いえ。うどん屋さんに行きましょう。ちょっと出たり入ったりにはなりますが」
少尉「ニ……仲本さんお勧めの店、というわけか?」
ニ曹「ええ。大丈夫です。場所は近くですので。ナビしますね」
少尉「任せる」
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杜若「なんだかんだで中々にイイ雰囲気ですね、あのお二人。多分、階級で呼ばないようにしてるんでしょうけど、度々呼びそうになってたり。どこかぎこちないですが。なんていうか……」
軍曹「正義の忍者ww……腕相撲ww……」
杜若「盗聴は僕主導だから強く言えないですけど、ウケ過ぎですよ」