月影のブランコ
寒空の中を私は帰宅する。
「今日は満月か…」
少し感慨にふけりながら、私は、そろそろコートが必要になるな、と思う。そんな時、ふと視界の隅に揺れ動く影が映ったのに私は気付いた。
気になった私は、そちらへ目を向けるとどこは公園だった。そして、先ほど私の視界に入った影は、どうやら秋風に吹かれて一人でに揺れ動くブランコだった。私は、その規則正しく揺れるブランコを見て、ふと思った。
「ああ、まるで…」
「ただいまー。」
後ろ手に玄関のドアを閉めながら、私の帰宅を家に響かせる。
「おかえりー」
すると、無邪気に私を出迎えに来てくれた娘の姿がリビングから現れた。私は、再び「ただいま。」と、優しく娘にささやきかけ、そのまま娘を抱きかかえてリビングへ向かった。娘は、抱きかかえられたのが心底うれしいのか、甲高い笑い声を発しながら私の肩をジタバタと叩いた。
リビングに入ると、私はソファーに腰を落とし、肩に乗せていた娘を隣に下した。娘は、もう少し肩に乗っていたかったのか、少しムッとした表情を見せたが、さんなムッとしたことがおかしくなってまた笑顔になった。
「今日はどうだった。」
娘に今日の出来事について尋ねる。
「今日はねー、ミーちゃんたちといっぱい遊んだよ。」
「そっか―。それはよかったなー。」
「うんっ!」
「何して遊んだんだ。」
「んっとね、お絵かき!」
娘は終始ご機嫌だった。
「お絵かきかー。いいね。」
娘の笑顔に見とれていると、キッチンから「先にお風呂入っちゃってー。」と、妻の声が聞こえてきた。
「はーい。」
私は、妻に返事を返し、「じゃあ、お父さんお風呂言ってくるねー。」と娘に告げ、リビングを後にした。
「行ってらっしゃーい。」
後ろから娘の無邪気な声が聞こえた。
私は、寝室のクローゼットにスーツをかけると、そのまま風呂場へ向かい、シャツとネクタイをネットに入れて下着とともに洗濯機に放り込んだ。そして、「寒い寒い。」と、湯船へ直行した。
「ふぅー。」
あまりの気持ち良さに息が漏れる。
「さてと、明日からのスケジュールでも確認するかな。
私は、毎日風呂の中で後日のスケジュール確認をすることが日課となっていた。
「えっと、明日は六時に起床、八時半に出勤、十八時半に帰宅、午前零時に就寝。あさっては、六時に起床、八時半に出勤、十八時に帰宅、午前零時に就寝。その次の日も同じで、週末と。」
一折確認を終える。
「はぁー。」
不意にため息が漏れた。そして、帰宅途中で見かけた公園のブランコが思い出された。
「ああ、まるで…」
月明かりに照らされながら、秋風に吹かれ、規則正しく揺れる影。あれはまるで…
「ああ、まるであれは私の未来だ。」