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朽約束 ―くちやくそく―

作者: ころく

 夏の夕暮れ。茜色の公園。幼い頃の三人。

 子供には広く見える公園の真ん中で、三人の幼い子供は歌を歌う。


『ゆーびきーりげーんまーん』


 些細な事で喧嘩をした。理由は忘れた。それくらい些細な事。

 服には所々土が付いて汚れている。


『うーそつーいたーら』


 懐かしい記憶。昔の思い出。これが夢だとすぐわかった。

 他の子供達は家に帰って、三人だけの公園。


『はーりせーんぼーんのーます』


 喧嘩をした後の、仲直りの印。

 三人が互いの小指を絡ませて円を作り、歌を歌う。


『ゆーびきった!』


 約束をした、三人で。

 幼い頃の何気ない約束。


『これでさんにんは、ずっとなかよし! やくそくだからね!』


 笑って、黒髪の子が言った。

 それに俺ともう一人も笑って答えた。


『うん! さんにんはいつもいっしょだ!』


 そう、笑ってた。この時は皆、笑ってたんだ。

 三人揃って、楽しくて、嬉しくて、笑ってたんだ。


『あははははははっ』


 笑い声。聞こえる、笑い声。

 意識が覚醒していき、夢が覚めていくのがわかる。

 夢から覚めさせられるのはこれで何度目か。

 懐かしい子供の頃の夢。出来るならこのままずっと見ていたい。

 この楽しかった頃に戻れるなら、戻りたいと。

 誰もが一度は願うであろう願いを想いながら、俺はまた目を覚ます。




    ◇   ◇   ◇




 閉じていた瞼を開き、夢の中に入っていた意識が現実に戻る。

 少し怠く感じる身体を起こし、汗で濡れた額を手の甲で拭う。


「あつ……」


 思わず漏らした言葉。

 机に伏して寝ていたため、腕が痺れていた。

 場所は学校の教室。今はもう放課後で他に生徒はいない。

 時計を見ると、針は綺麗な縦線を作っていた。


「六時か」


 窓から外を眺めると、空は青色と茜色のグラデーションが出来ていた。

 夕方とはいえ、真夏の教室は暑い。ワイシャツの胸元を掴んで手で扇ぐ。

 一応窓は開けてあるが本日は無風に近く、天然の扇風機は期待出来ない。

 外の校庭からは部活に励む生徒の声が聞こえてくるが、教室はまるで別空間の様に静か。

 昼間は活気があって騒がしいだけに、ギャップで不思議な感覚になる。


「あ、カゲマサ起きてる」


 俺の名前が呼ばれ、声のした教室のドアの方を向く。

 そこには焦茶色の髪をうなじ辺りで束ね、小さなおさげを作った髪型の女生徒が居た。


「居ないと思ったら……どこに行ってたんだよ?」

「ちょっとお花を摘みに……」

「何がお花を摘みに、だ。回りくどい言い方しないで便所で大きいのしてたって言えよ」


 上品ぶって口元を手で隠し、おほほと作った笑いをする女生徒。

 そいつに呆れた眼差しを送りながら、俺は机に頬杖する。


「んなっ! デリカシーが無いわね、カゲマサは!」

「デリカシーを気にするたまかよ、キクノは」

「それに大きい方じゃないし、小さい方だし! それにアイドルはうんちしないし!」

「人が一応気を遣ってやったのに、お前がうんちとか言うな。あと誰がアイドルだ」


 プンスカと頬を膨らませてアホな事を言っているのは、小さい頃から幼馴染のキクノ。

 ご覧の通り、少しおつむが足りない。ように見えるが、成績は俺より上だってから腹が立つ。


「ユメははまだ来ないのか?」

「うん、まだ来てないよ」

「用事あるって言ってたけど……なんの用事か知ってるか?」

「んーん、私は聞いてないけど。カゲマサは?」

「俺も知らん」


 頬杖をやめて椅子の背もたれに寄り掛かる。

 俺とキクノが放課後なのに帰りもせず教室に残っていたのには理由があった。

 もう一人の幼馴染であるユメに、放課後に用事がある為、終わるまで待っていて欲しいと頼まれた。

 俺はいつも三人で登下校しているし、別段断る理由も無かったのでこうして待っている。


「いつもの如く、担任に手伝いされてんじゃねぇの? あいつ学級委員だから」

「そうかもね。でも、いつもだったら理由を言っていくのにね」

「言い忘れる時もあるだろ。明日から念願の夏休みだし、一学期の締めで何かしらやる事あんじゃねぇの?」


 まだ少し眠気が残り、天井に向けて欠伸あくびする。

 特に隠しもせず、大きく開ける口。


「……あーぁ、昔に戻りてぇなぁ」


 ぽつりと、零す。

 さっき寝ていた時に見た夢を思い出して、思わず口にした。

 子供の頃を、無邪気に走り回って遊んでいた昔を思い出して。


「いきなり何、カゲマサ。おじいちゃんみたいな事言い出してさ」

「……いやさ」


 キクノを見もせず、天井を眺めたまま言葉を返す。


「明日から夏休みって言っても、俺たちは高校三年。受験の為に勉強しなきゃなんないだろ?」

「そうだね。私も夏休みは夏期講習に行く予定だし」

「学校で勉強、家に帰っても勉強。そして夏休みでも勉強。勉強勉強勉強、勉強ばっかで嫌になっちまう」

「しょうがないよ、受験生なんだし。一応この学校も進学校だしね、そりゃ勉強漬けになるよ」


 小さな溜め息一つ、キクノは漏らしながら肩を竦める。

 しょうがないと言いつつも、キクノも勉強漬けの日々にストレスを感じているようだ。


「でも、受験が終わって大学に合格したら遊びまくれるんだしさ。今は我慢して頑張るしかないよ」

「けどなんかさ……疲れるよ。親からさり気なくプレッシャーかけられるしさ。時々、なんもかもブン投げたくなる」

「もしかして、この間の期末テスト……良くなかったの?」

「……少し点数は上がったけど順位は下がった。皆頑張ってんだなぁ」

「少しでも点数が上がったならいいじゃない」

「俺の親は点数じゃなく順位にも拘るようで。小言を言われて困ったもんです」


 再び机に頬杖を立てて、半目で何も書かれていない黒板を見つめる。


「だとしても、昔に戻りたいって言うには若すぎるんじゃない?」

「ちょっと懐かしくなったんだよ、昔が」


 くすくすと小さく笑うキクノ。

 勉強、テスト、受験。色んなのが押し込まれて、息が詰まりそうだった。

 そんな時に昔の夢を見たら、センチメンタルにもなってしまう。


「……そいやさ、キクノ。聞いたか、あの噂」

「あの噂? あぁ、『旧校舎の家庭科室のなき声』でしょ?」

「そうそう、夜中に声が聞こえるってやつ」

「泣き声なのか鳴き声なのか解らない、不気味な声がするって」


 ふと、今学校で噂になっている話を思い出した。

 夏休み直前、夏真っ盛り。この時期になるとこの手の噂は必ず出てくる。


「あれさ、見たんだってよ」

「み、見た……?」

「二年の奴が夜中学校に忍び込んで、噂を確かめに行ったら……見たんだと」


 声を低くして、ゆっくりと話す。

 シンと静かな教室、他に誰もいない廊下。放課後の学校。それだけでもう雰囲気が出る。


「な、なな、なにを?」

「なき声の正体」


 キクノの声は若干裏返り、口元も少し引きつっている。


「廊下を歩いていたら本当に不気味な声が聞こえてきて、意を決して家庭科室のドアを開けたんだってさ」

「……っ」

「そしたら中には黒い物体だ蠢いて、不気味な声もそれから聞こえてきてて……明かりを点けてみるとそこにはぁぁ!」

「ひぃ……!」


 ガタン、とわざと机にぶつかって音をたてながら声を大きくする。


「発情した二匹の黒猫がいたんだと」

「……へ?」

「つまり正体は、交尾中の猫の鳴き声だったわけ」

「~~~~~ッ!!」


 キクノの顔はみるみる赤くなっていき、耳まで真っ赤に。


「あほ! ばか! セクハラ!」

「あぶぉ!」


 キクノが飲んでいたペットボトルを投げられ、顔面にヒット。しかもキャップの部分が当たって地味に痛い。

 キクノが顔真っ赤になったのは怖がってたのが恥ずかしくなったからなのか、それともオチのせいなのか。それとも両方か。


「カッちゃん、キクノ、おまたせ」


 二人でいつもの如く馬鹿をやっていると、聞きなれた声。

 キクノとの会話を中断させて教室のドアの方を見る。

 背中まで伸びた長い黒髪で、ヘアピンを付けた女生徒がそこに居た。

 どうやら待ち人であるもう一人の幼馴染、ユメがようやく来たようだ。


「おーう、やっと来たか」

「意外と時間掛ったね、ユメ」

「うん、ごめんね、長く待たせて」


 ユメは小走りでキクノの所まで移動する。


「はい、預かってた鞄。また先生の手伝い?」

「えっ? う、うん。そんな感じかな。鞄ありがと」


 ユメは答えながら、キクノから鞄を受け取る

 ただどこか落ち着かない様子で、いつもとは違う感じがした。


「とにかく早く帰るか、校門閉められるぞ」

「そうだねー。お腹も空いたし」


 机に掛けていた自分の鞄を持ち、席から立ち上がる。

 廊下に出るとやはり他の生徒は帰宅して居なく、がらんと静か。

 外から聞こえてくるひぐらしの鳴き声が妙に大きく聞こえる。

 学校から出て家に向かう帰路。空は夕焼けで真っ赤になっていた。


「はぁ、明日から夏休みかぁ」

「どうしたの、カッちゃん? 溜め息なんて吐いて。夏休み嬉しくないの?」


 おもむろに肩を落とす俺に、隣を歩くユメは顔を覗く様にして聞いてきた。


「嬉しさよりも憂鬱さが勝るよ。夏休みったって、結局はお盆以外はほとんど学校に行くんだし」

「夏期講習あるからね。今年受験だから勉強しないと」

「昼は夏期講習、帰ってから家で復習予習。いつもと変わらない訳で。夏休みってなんだっけ?」

「受験は夏にどれだけ頑張ったかで決まるって言うよ?」

「でもさー……さすがに疲れるよ」


 空を見上げるとカラスが数羽。鳴きながら飛んでいた。カラス達も巣へ帰る時間なんだろうか。

 今私の願い事が叶うなら、翼が欲しい。そして、どっかに飛んでいきたい。


「三人一緒の大学に行くんでしょ?」

「そうだけどさ、やっぱネガティブにもなるって」

「三人はずっと一緒だって、約束……」

「ん? なんだ?」

「……なんでもない」

「いやまぁ、愚痴って悪かった。俺だってお前らと同じ大学行きたいし、勉強頑張るって。一応成績は上がってきてるしな」

「……うん!」


 一瞬、ユメは暗い顔をしたかと思えば、すぐにいつもの調子に戻った。

 なにか気に障る事でも言ったのかと思ったが、すぐ元に戻ったから気にしないでいいか。


「そうだよ! カゲマサはこの中で一番頭悪いんだから、倍は頑張らないと!」

「くそ、俺より成績が良いからって……キクノは知識があっても、それを使う知恵がないくせに」

「あ、なんか今バカにされた! 私よりバカにバカにされた!」

「バカにされるようなバカだろ、お前は」

「バカって言った方がバカなんだぞバーカ!」

「知ってるか? 『ごはんですよ』ってご飯じゃないんだぞ?」

「えぇ!? うっそ、それ本当!?」

「やっぱ馬鹿じゃねぇか」


 こんな馬鹿よりも成績が低い俺って……涙がホロリと落ちそうになる。


「ふふっ」

「なにがおかしいんだよ、ユメ?」

「二人っていつも仲が良いなって思って」


 ユメは口を手で押さえながら笑い、楽しそうに俺とキクノを見る。


「俺とこの馬鹿がか?」

「私とこの馬鹿とが?」


 反論しようとしたら、キクノと声が綺麗に被る。しかもセリフまで。


「ほら、仲が良いじゃない」


 言って、ユメはまたくすくすと笑う。


「けっ、これを仲が良いって言うんなら、世界平和は明日にでも叶うっての」

「本当だよ、全くもう!」


 俺とキクノは互いにそっぽを向き、その後ろを歩きながらユメはまだ笑っていた。

 いつもこんな感じだ。俺とキクノが馬鹿しあって、それをユメが止めて笑う。

 何年も昔から、そうやって一緒だった。


「……あ、ここ」


 不意に、あるものが視界に入って歩いていた足を止める。


「どうしたの、カッちゃん?」

「ここの公園……昔よく三人で遊んだよな」


 夕焼けの明かりを帯びて、茜色に染まった公園。

 砂場、滑り台、ブランコ。懐かしい遊び器具が今も残ってある。

 時間が時間だからか、遊んでいる子供は一人もいない。


「あー、懐かしいねぇ。よく砂場で山を作ってトンネル掘ったよね」

「うん。他にもかくれんぼとか、おままごともやったよね」

「そうそう、カゲマサがペットのザリガニ役が面白くってさぁ!」


 思い出話に花を咲かせて、キクノとユメは楽しそうに笑う。

 というか、おままごとは覚えているけどザリガニ役なんてやったか、俺……?

 若かりし頃とはいえ、何を考えてたんだ俺は。

 自分が覚えていない話で笑われて、なんだか少し恥ずかしい気分になる。

 親戚に小さい頃よく寝小便していたと言われるようなそんな感じ。


「ケンカもよくしたよな、ここで」


 俺も懐かしさを感じながら公園を見つめて、思い出す。


「そうそう、昔はよくカゲマサとケンカしたねー」

「ケンカしたのは覚えているけど、ケンカの理由は覚えていないよな」

「どうでもいい事だったんじゃないの? 私も覚えていないし」


 ケンカしても次の日にはケロッとして一緒に遊んでるんだもんな。

 昔は本当に楽しくて、毎日が楽しみだったな。


「約束もしたよな、ここで三人……」


 さっき見た夢。目の前の公園に夢の映像と重なり、小さな頃の三人が公園の真ん中に浮かぶ。

 仲良く三人で、指を繋いで約束した時の記憶が。


「カッちゃん……覚えてたの?」


 意外だと、ユメは驚いた表情をさせていた。

 驚きだけじゃなく、喜びや嬉しさも混ざっているようにも見える。


「ん、まぁな」

「私も覚えてるよ。三人でしたよね、ゆびきりげんまん」


 にっこりと笑い、キクノは小指を立てた右手を見せてくる。


「カッちゃん、キクノ。約束した内容は覚えてる?」

「あぁ。覚えてるぞ」

「私もちゃんと覚えてるよ」


 三人が三人、互いの顔を見て、小さく微笑む。

 そして、せーの、と声を揃えると。


「三人はずっと仲良し!」

「三人はずっと仲良し!」

「三人はずっと仲良し!」


 次の言葉も綺麗に、一字一句間違わず三人揃った。


「なんだかんだで今まで一緒だもんね」

「腐れ縁って感じだっての、ここまでくると」

「ふふっ、結局高校も同じで、大学も同じところに行こうとしてるもんね」


 三人全員が、昔の頃のように笑い合う。


「昔の事だから、二人は忘れちゃってると思ってた」

「忘れる訳ないだろ、初めて三人で大ゲンカした時だったからな」

「そうだよ、ユメ。忘れる訳ないじゃん。でも、三人が大ゲンカした理由ってなんだったっけ? カゲマサ覚えてる?」

「いや、そこまでは覚えていないな。でもま、その時もいつも通りどうでもいい事だったんじゃないか?」


 見た夢を思い返しても、ケンカの理由までは思い出せなかった。

 覚えているのは三人で笑い合いながら、ゆびきりげんまんをした事だけ。


「ま、正直言うとさ……夢見たんだよ、ここで約束した時の」

「夢?」

「さっきユメを教室で待ってる間寝ててさ、約束した時の事を夢で見たんだ。だから、この公園の前を通ったら思い出した」


 もし夢を見ていなかったら、こうして立ち止まって公園を見てはいなかっただろう。


「あ、そっかー。だからカゲマサ、さっき昔に戻りたいなんてセンチメンタルな事言ったんだ」

「えっ、カッちゃん、そんな事言ってたの?」

「ばっ! 別に夢を見たからとかそんなんじゃねぇよ!」


 いや、本当はその通りなんだが、正直に答えたらキクノに馬鹿にされそうだから黙っていおく。


「でもなんだかんだで、今もこうして三人揃ってるし。約束はちゃんと守ってたんだなぁ」


 止めていた足を再び動かして、歩くのを再開する。


「目指している大学も同じだしね。まだ当分は一緒だね。カゲマサがちゃんと合格出来ればだけど」

「うっ……でも成績は上がってるんだ。合格してやるっての。なぁユメ?」

「……えっ? あ、うん。そうだね。カッちゃん勉強頑張ってるからきっと大丈夫だよ」

「絶対じゃなくて、きっとなのね」


 妙に生々しく中途半端な良い方に、引き吊った笑いが出た。


「でもま、もし俺が合格できなくて他の大学に行っても切れそうな縁とも思えないしな。これまでもこれからも、何があっても一緒に居そうだわ」

「それは言えてるねー。大学生になったらしょっちゅう一緒に飲んでそう! それに、三人はずっと仲良しだからね」


 夕焼け空の街並み。歩く度に長く伸びた影はゆらゆら揺れて、笑い話をしながらの帰り道。

 いつもと変わらない日常。いつもと変わらない面子。いつも通りの学校帰り。


「ねぇカッちゃん、キクノ。私達はずっと変わらないよね、ずっと仲良しだよね?」

「当然だろ」

「もっちのろん」


 馬鹿をして、笑って、たまにケンカして、毎日一緒に登下校して。

 そんな関係がいつまでも変わらず、いつまでも続く。


「あのね、カッちゃん、キクノ」


 ――――と、思っていた。


「私ね、今日告白されたんだ」


 このユメの言葉を、聞くまでは。


「へ?」

「えっ?」


 俺は間の抜けた声、キクノは驚きと戸惑いが混ざった声。

 二人の全く違う声が、一つに重なった。


「本当はね、前々から言われていたんだけど、ちゃんと返事をしてなくって……さっき、そろそろ返事をくれないかって言われたの。ごめんね、待たせていたのはそれが原因なの」


 徒歩を再開した足はまた止まって、俺とキクノの視線がユメに集中する。


「いいよ、謝んなくたって! それより誰、相手は誰なのよさ!」


 やはりキクノも女の子。恋愛話は大好物らしい。

 喰い付く様にユメにくっ付く。もはや密着。暑くないのか。

 あとキクノ、口調が少し変になってるぞ。


「さ、三組のイキオ君……」

「ほほう、なかなかのイケメンを捕まえたじゃないのよさ」


 イキオって言ったら、キクノの言う通り結構格好良い奴だ。

 話した事はないが、男女に人気がある。

 テンションが上がっているのか、キクノの口調はまだ変なまま。どこのアッチョンブリケだ。


「で、どうするの? お姉さんは答えが気になるなぁ」


 キクノはにんまりと笑いながらユメの肩に片手を乗せる。

 お姉さんじゃなく、おっさんに見える。


「今週にはちゃんと答えを出すからって言ったんだけど」

「ふむふむ」

「む、向こうがね……ほら、今年受験だから、あのね」

「ほうほう」

「勉強したり、励まし合ったりして。一緒に頑張っていけたら嬉しいって、言われて……」

「なるほどなるほど」

「わ、私もそれはいいなぁ、って。私ももっと頑張れるかなぁ、って思ってね」

「で、その心は?」

「つ、付き合ってみてもいいかなぁ、って」


 身体をもじもじとさせ、ユメは少しどもりながら答えていく。

 二人でしか会話していないが、俺もばっちり聞いています。だって気になるもの。


「お母さーん! 今夜は赤飯、赤飯炊いてー!」

「ちょ、大声出さないでよ、キクノ!」


 キクノは左手を口元に添え、俺に向かって叫ぶ。

 誰がお母さんだ。


「そうかぁ、ユメもとうとう彼氏持ちになったのか」


 幼馴染っていう贔屓目を差し引いても、ユメは綺麗だからな。

 彼氏が出来ても不思議な話じゃない。


「嬉しくもあり、悲しくもあり……親鳥の心境ですな」

「へ、返事はしてないからまだ彼氏持ちじゃないよぉ」


 くぅ、と眉間に手をやって泣く。ような演技。

 そんな俺に対して、顔を真っ赤にして恥ずかしがるユメ。

 本当、からかいがいがあるな。


「じゃあ、返事はいつするのさ?」

「携帯電話のアドレスを渡されたから、今夜返そうと思ってる」


 歩き出したユメに合わせて、俺とキクノも歩く。


「夏休み中に海に行こうと思ってたんだけどなー、ユメは彼氏とイチャイチャで忙しくなるから無理かー」

「い、イチャイチャって……」

「冗談冗談」


 また顔を赤くするユメに、キクノは悪戯に笑う。


「第一、夏休みは夏期講習でみっちり埋まってるだろ。海なんていつ行くんだよ」

「えー? 一日ぐらい遊んでもいいじゃん」

「それに海は遠いから面倒臭いし」

「じゃあ妥協して市民プール! 近いし安いし泳ぎ放題!」

「ガキの小便が混ざったプールなんて泳ぎたくもない」

「塩分が入ってるって意味じゃ海と変わらないじゃん」

「海に謝れ」


 というか、高校三年生にもなって市民プールなんて行くか。

 だったらまだ遠い海を選ぶわ。


「でも、こうしてユメと一緒に下校したり遊んだりするのは減っちまうんだなぁ」

「そうだねー。これからは彼氏と帰ったりする事の方が多いだろうしね」

「あ、そっか。そう、だよね……なんか、寂しいな」


 ユメの声暗くなって肩を落とし、俯く。

 もう何年もこの三人で登下校して、遊んで、馬鹿やった。

 それが無くなると言われれば、悲しくも寂しくもなるだろう。

 俺でもなる。


「ま、回数が減るだけで、もう今後一切無くなる訳じゃないからな」

「そうそう、時々は一緒に帰ったりしようよ。彼氏の愚痴とか聞くぜー、超聞くぜー」

「うん、そうだよね。たまには一緒に帰ろうね」


 俯いていた顔を上げ、ユメの顔には笑みが戻った。


「でも、もしかしたら愚痴じゃなくて惚気話になるかもよ?」

「それはノーセンキュー!」


 両腕を交差させて大きなバッテンを作るキクノ。

 そこまで強く拒否しますか。気持ちは解らんでもないが。

 そして、話している内に分かれ道に付いた。


「じゃあね、カッちゃん、キクノ」

「おう」

「うん」


 手を小さく振るユメに、俺とキクノも同じように返す。

 ユメの家は少し離れていて、いつもここでユメと別れる。


「ユメ、告白の返事をしたら電話してよ! 色々聞いてやるんだから!」

「うん、わかった。電話する」


 ユメに背中を向け、俺とキクノは別の道を歩く。

 俺とキクノの家は近所で、ここからあと五分位。


「ねぇカッちゃん、キクノー!」


 後ろからユメに呼ばれ、振り返る。


「私達、ずっと仲良しだからねー!」


 夕焼けを背にして、両手を大きく振って。

 俺達振り返ったのを見てから、そう言ってユメは走って帰って行った。


「青春してるなー」

「青春してるねー」


 黒い髪を靡かせて走るユメの後ろ姿を眺めながら、キクノと呟く。


「俺の青春は受験勉強だけか……夕焼けが目に染みるなぁ」


 高校最後の夏が勉強漬け。将来の為とはいえ涙が出ちゃう。


「これからはユメが抜けて、キクノと二人か」

「そうだねー。ユメと遊べるのは減るだろうね。カゲマサは彼女とか作んないの?」

「考えた事無かったな。ずっとお前等と一緒だったし、それが楽しかったしな」


 ユメがもう見えなくなっても、そのまま道路を見たままキクノと話す。

 見慣れた景色の筈なのに、今日は違った。少し、寂しかった。


「私もね、考えた事あるんだ。彼氏作ったら、一緒に勉強したり励まし合ったり。受験も頑張れるかなって」

「へー、ちょっと意外」

「でもさ、三人で居るのも凄く楽しかったし……もし彼氏を作って三人の関係が無くなるのが怖くってさ」

「そんな薄っぺらい仲じゃないっての。現にユメに彼氏が出来ても、さっきの通りだろ? 三人はずっと仲良しって言ったろ」

「うん。だから、ユメが凄いなって思って。それと同時に羨ましかったんだ」

「彼氏が出来たのがか?」

「それもだけど、もう一つ。今の関係が無くなるかもしれないって思いながらも……一歩前に歩いたユメの勇気」


 さっきまでユメが居た方向を、キクノは真っ直ぐ見つめていた。


「格好良いなって思ったよ。私は今が変わるのが怖くて何もしなかったんだもん」

「本当は凄く怖かったんだろうな、ユメ」

「だから、私も前に出せなかった勇気を出そうかなって」


 いつもと同じ帰り道。いつもと同じ景色。

 けど、今日は少しだけ違った。


「カゲマサはさ、私の事どう思ってる?」


 そう、少しだけ――――違った。


「私は、カゲマサが好き」







    ◇   ◇   ◇





 昼の十二時。

 午前の夏期講習が終わり、昼休みで教室は賑やか。

 そんな教室から出て、木陰になった中庭のベンチに居た。


「午後も怠いなー」

「そうだねー。今日も暑いし」


 隣にはキクノ。二人並んで座り、箸で弁当を突つく。 


「ユメは来てないのか?」

「うん、今日は彼氏さんと図書館で勉強するって言ってたよ」

「図書館なら冷房効いてて天国だろうなー」


 おかずの卵焼きを頬張る。

 教室は冷房おろか扇風機すら無し。午後の講習が憂鬱過ぎる。


「で、ユメに言ったのか?」

「うん、言ったよ、驚いてた。昨日の夜、ユメの報告を聞いた後に」

「だよなぁ。俺とキクノが付き合うんだもんなぁ」


 めでたく、俺とキクノは付き合う事になった。

 昨日キクノから告白された時は驚いたが。


「なんて言ってた?」

「約束、忘れないでね。って言ってた」

「忘れる訳ないっての。三人はずっと仲良しなんだからよ」

「うん、そうだよね」

「で、海の件はどうだって?」

「朝メールしたけど、まだ返ってこない。図書館に居るから、まだメール見てないのかも」


 昨日話していた海に行くという話。

 あの時は行く気なんて全く無かったが、折角キクノという彼女が出来たのなら、少しは学生らしい青春を謳歌させたい。

 それで、どうせならユメと彼氏も誘って一緒に行こうという話になった。


「あぁ、いたいた。カゲマサ、ちょっといいか?」


 弁当を食べ終わって仕舞っていると、担任がやってきた。

 俺を探していたようで、目が合うと駆け足で近づいてきた。


「キクノも一緒か、調度いい」

「なんか用ですか?」

「聞きたいんだが、昨日の夜にユメとあったか?」

「ユメと? いや、俺は会ってないですけど……」


 昨日の夜は部屋で勉強してたし、外に出歩いてもいない。

 眠かったから早く寝たし。


「キクノは?」

「電話はしましたが、会ってはいないです」


 担任の質問に、キクノは首を横に振って答える。


「電話をしたのは何時だ?」

「え、っと……九時頃ですね」


 携帯電話をスカートのポケットから取り出して、キクノは昨夜の着信履歴を確かめる。


「そうか……お前達、本当に昨日の夜、ユメに会っていないんだな?」

「はい」


 むぅ、と。担任は顎に手を当てて小さく唸った。


「ユメがどうかしたんですか?」

「いや、さっきユメの親から電話が来たんだが……昨日の夜十時頃に出掛けてから帰って来ていないらしい」

「えっ?」


 一瞬、キクノの表情が固まった。

 当然、俺も。


「十時って……私との電話が終わってからすぐだ」

「電話をしていて、何か変わった様子は無かったか?」

「いえ、私が話していた時には特に何も……」

「そうか。お前達は仲が良いから何か知っていると思ったんだが……昼休みの邪魔をして悪かったな」

「いえ……」

「警察には連絡したんですか?」

「昼に捜索願いを出したらしい。もしユメと連絡が取れたり、何かあったらすぐ知らせてくれ」

「はい、わかりました」


 俺達が何も知らないと解ると、担任は校舎の中へ戻って言った。


「大丈夫かな、ユメ。何か事件に巻き込まれたり、もしかして誘拐とか……」

「大丈夫だよ。捜索願いを出したって言ってたし、すぐ見付かるって」

「うん……」

「……探しに行くか」

「えっ?」

「ユメが行きそうな場所、探してみよう」


 ベンチから立ち上がり、鞄を持つ。


「って、今から!?」

「夏期講習なんかより、ユメの方が大事だろ」

「……うん、そうだね!」


 キクノも自分の鞄を持ち、ベンチから立つ。

 俺達が探しても意味ないかもしれないし、警察がすぐ見付けるかもしれない。

 でもとにかく、居ても立ってもいられなかった。

 今まで一緒だった幼馴染が、親友の一人が居なくなって……落ち着いてなどいれる訳がなかった。






    ◇   ◇   ◇





 ――――夕暮れ。

 日は落ち始め、あと一時間もすれば夜がやってくる

 商店街、駅前、隣町、とにかく思い付く場所は全て回った。

 よく買い食いした駄菓子屋も、いきつけのゲーセンも、あの公園も。全部探した。

 けど、ユメの姿はどこにも見当たらず、時間を虚しく消費しただけだった。


「はい、はい……いえ、では」

「ダメか」

「うん……まだ警察も見つけてないって」

「ユメの奴、どこにいるんだよ……!」

「思い当たる所は全部行っちゃったね……」


 携帯電話をポケットに入れるキクノは、明らかに落ち込んでいた。

 最後に回ったのは、あの公園。だがやはり、公園にもユメの影はおろか人っ子一人も居なかった。

 昨日この道を通った時は、三人で笑っていたのに……。


「今日はもう帰ろう。陽も落ちてきてるし、歩き回って疲れたろ?」

「ううん、まだ大丈夫。もう一回駅前に行ってみようよ」

「いや、帰ろう。夜は警察に任せよう」

「カゲマサは先に帰ってていいよ、私一人で探してくる!」

「ダメだ」


 今にも走り出そうなキクノの腕を掴んで、半ば強制的に止める。


「なんでさ!」

「もしもユメが何かの事件に遭ったんだとしたら、お前も巻き込まれるかもしれないだろ!?」

「だったら尚更、早く見付けなきゃ!」

「お前まで居なくなったら、俺はどうすりゃいいんだよ!」

「……っ!?」

「頼むから、今日は帰ろう……」

「うん。ごめんね、カゲマサ」


 帰り道。キクノと喋る事は無かった。

 気持ちは暗く沈んで、まだどこかユメが居なくなったのが信じられなくて。

 夕焼けは半分以上沈み、夜の闇はもう、すぐそこまで来ていた――――。








    ◇   ◇   ◇







 ――――翌日。

 今日も綺麗な青空が広がり、気温も三十度を超えていた。

 朝起きたら、ユメが見つかっているんじゃないかと希望していたが、現実はそうそう簡単なものじゃなかった。

 見上げる青空は、俺の気分とは反して青く澄み渡っている。


「くそ……」


 なぜか、この青空が腹立たしかった。理由は無い。ただ何となく、八つ当たりに近い。

 本日の夏期講習が終わり、中庭のベンチで休憩していた。

 本当は今日もユメを探しに街に行く予定だった。

 だが、やはり疲れていたんだろう。朝にキクノから風邪を引いたとメールが来た。

 なので今日はキクノは休み。俺一人で探しに行っても良かったが、昨日で探す所は全部探した。

 多分昨日と同様、何も見付からず終わると思い、大人しく夏期講習に出た。

 昼休みに大丈夫かメールをしたが、返ってこない。それだけ風邪が酷いんだろうか。


「アイスでも買ってってやるか」


 帰りにキクノの家に寄ってみるか。

 食欲が無くてもアイスとかなら食べれるだろうし。

 ベンチから立ち上がり、中庭から出る。

 暑い。空気も日差しも、何もかもが暑い。

 夏の暑さに項垂れながら、校門を通って学校から出た。

 ――――その時だった。


「カッちゃん!」


 聞きなれた声。聞き覚えのある声。探していた、声。

 振り返ると、そこに居た。探していた人が。幼馴染が、居た。


「ユメ!」


 大声で、叫んでしまった。

 気付けば、ユメのもとまで走り出していた。


「お、お前っ! どれだけ探したと思っ……心配したんだぞ!」

「ごめんね、心配させて」


 言いたい事が沢山あって、何を言えばいいかわかんなくて。

 でも何より、安心した。心底、安堵した。


「でも、なんで学校にいるんだよ。みんな探したんだぞ!」

「警察の人に見付けてもらって……さっき先生方に報告してきたの」

「なんだ、そうなのかよ。キクノにも早く知らせてやんないと……!」

「あ、キクノはもう知ってるよ」

「へ?」


 携帯電話で電話を掛けようとすると、予想外な言葉が返ってきた。


「お母さん経由で知ったみたい。学校に来てるよ」

「あいつ、風邪引いてたんじゃないのかよ……」

「あはは、私が見つかったって聞いたら、飛んできたよ」


 頬を軽く掻きながら、ユメははにかむ。


「ってユメ、お前! その手どうしたんだよ!?」


 ユメが見付かった。その事に舞い上がってて気付くのが遅れた。

 ユメの両手には、包帯。手首までぐるぐると巻かれていた。

 よく見ると、包帯の隙間から青紫に変色した、酷い痣が見えた。


「うん、ちょっとね……その事なんだけど、キクノにも一緒に話そうと思って」


 少し困った顔をさせて、ユメは言う。


「あっちにキクノを待たせてるから、行こう」

「……わかった」


 先に行くユメに付いていき、歩いていく。

 校庭前通り、中庭を抜け、昇降口を通り過ぎる。


「あれ、教室じゃないのか?」


 てっきり教室にキクノを待たせていると思っていたのに、昇降口を素通りして不思議に思う。


「他の人には聞かれたくないかから、あまり人が来ない所にしたの」


 俺の前を歩くユメは、こっちに振り返る事無くそう答えた。

 俺は何も言えず、ただユメの後ろを付いていくだけだった。

 そして、会話をしてすぐ。ユメの足が止まった。


「ここだよ」


 目の前にあったのは、旧校舎。

 数年前に新校舎が作られ、それからは取り壊されずに物置として使われている。

 学校の備品等が置かれており、普段は鍵が閉まっていて入る事は出来ない。


「ここに……キクノが?」


 人が居ないのに加え、老朽化して古くなった佇まい。

 放課後というのもあって、不気味さが醸し出されている。


「冗談だろ?」

「冗談じゃないよ。本当だって」

「怖がりのキクノがこんな所で一人で待ってる訳な」


 バチッ――――!


「本当にいるんだってばぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁああぁあぁぁぁぁぁああぁああっぁぁあぁぁぁ!!」


 痛み。小さな衝撃。横腹に激痛。

 身体に力が入らず、膝を地面を着いて。。

 ユメの手には、バチバチと光る黒いモノ――――スタンガン。

 薄れる意識の中、痛みの正体はこれだったんだと思いながら、倒れた。


「――、――」


 なんで。そう言おうとしても口は動かず、声が出ない。

 いや、そんな事よりも。どんな事よりも。何よりも。

 俺を見下ろすユメの顔が、酷く怖かった。

 目を見開いて、立ち呆けて、無表情で――――口だけが、歪むように笑っていた。







    ◇   ◇   ◇







 暗い、暗い、暗い。

 気が付き目を覚ますと、辺りは真っ暗だった。

 真っ暗で真っ黒で、真っ暗闇。


「どこ、だ……ここ」


 何も見えず、どこかも解らず。

 唯一解る事と言えば、自分が縛られて身動きが全く取れないという事。

 それも、椅子に座らされて。足は椅子の足に、手は手すりに。なぜか不自然に、小指だけ伸ばされて。


「いーけないんんだ、いけないんだ」


 真っ暗な空間の中で。どこからか声が聞こえてきた。

 誰の声かは言うまでもない。


「なんで、こんな事するんだ……ユメ」

「ふふっ、ふふふ、ふふふふふふううふふふふふふふふふっふふふ」


 笑う。姿が見えないユメは、笑う。

 笑い声とは思えない笑い声で、笑う。

 不安定で、不規則で、不気味な笑い。

 だけどとても、楽しそうに。愉しそうに。


「ふふふふふっ、ふふふふううふふふっふううふふふうふふっふっふふ」


 ――リ、チャリ、チャリ。

 低い笑い声に混ざって、何かが聞こえる。

 ――チャ、チャリ、チャリ。

 小さな、金属が擦れるような音。

 暗闇に目が慣れてきたのか、ほんの薄らとだが見えてきた。

 広い、部屋。机のような四角い黒い影が無数置かれている。

 どうやって入ったかは解らないが、やはりここは旧校舎の一室らしい。


「よ――ひゃ――、――――な」


 そして、何かを言っている。


「く――、ひゃく――――う」


 笑い声の合間に、一定の間隔を取るように。

 ふと、部屋が少し明るくなっている事に気付く。

 電気などの人口的なものではない。自然の明かり――――月明かり。

 今までは雲に隠れていたんだろう。それが晴れてきて、教室の窓からは青白い光が少しずつ差し込んできた。


「ユメ……?」


 教室の真ん中。そこに、ユメは居た。

 背中を向けていて顔は見えないが、月明かりに薄らと照らされた長い黒髪は間違いない。

 何か、ごそごそと。不気味に揺れて何かをしている。


「――ゃくじゅういち、さんびゃくじゅうに、さんびゃくじゅうさん」


 そして、聞こえた。途切れ途切れ聞こえていた、声の内容。

 それは、数を数えていたものだった。


「なに、を、しているんだ……?」


 ぴた、と。動いていたユメの身体は止まる、

 ゆっくりと、ゆっくりと。ユメ振り向く。

 その顔は哀愁の表情を漂わせながらも、楽しそうに薄ら笑いを浮かべていた。


「さんびゃくじゅうよん、さんびゃくじゅうご、さんびゃくじゅうろく」


 ユメは再び背中を向け、数を数えながら何かをしている。

 部屋は暗く、ユメの背中に隠れ、何に対して何をしているのか解らない。


「嘘をね、ついちゃうからこうなっちゃったんだよ……ふふふっふふうふふ、ふふふふふうふふふふうふふふ」


 そう言いながら、また数を数えている。

 三百十七、三百十八、と……。

 部屋は暗くて何も見えないと言うのに、ユメがしている事に対して恐怖を感じる。

 いや、見えないからこそ、恐怖心が煽られる。


「約束を破ったんだぁ……指切りしたのに。だからねぇ、約束を破ったからぁ、今度はちゃぁあぁぁぁぁぁぁあんと、約束を守ってもらってるの」


 ふふふふふ、と。声を漏らして微笑う。

 笑い声と、小さな金属音と、何かの数を数えるユメ。


「あ……」


 突然、ユメは戸惑いの声を出して手を止める。

 腕をだらんと垂らして、キィンと小さく金属音がした。


「……また、嘘ツカレちゃった」


 空の雲が流れ、隠れていた月が顔を出す。

 僅かだった月明かりは、窓から差し込んで部屋の全てを照らす。


「――――っひ」


 ユメの身体は横にずれ、見えなかったモノが見えた。

 見えていなかった方が、良かった。


「まだ半分も飲んでないのに……」


 正直、悲鳴をあげたかった。叫びたかった。

 けど、本当に恐怖を感じた時は、声なんて出せなかった。出す事さえも忘れて、思考も表情も感情も、固まるしかなかった。


「さぁぁぁぁあぁぁあああああぁぁぁっぁあ!!」


 椅子に張り付けられ目隠しをされた人――――だったもの。

 腕は縁に縛り付けられ、身動きは取れない。

 そして喉には、隙間という隙間を埋め尽くす程に刺された無数の針。

 口の周りも、首元も首筋も。顔の半分針で埋まり、異様な光景。異形のそれ。


 針、針、針、針針針針針針針針針針針針針針針針針針針針針針針針針針針針針針針針針針針針針針針針針針針針針ハリハリハリハリハリハリハリハリはりはりはり針ハリハリ針はりはりはりハリハリハリハリ。


 血は垂れ、流れ、滴り。服は真っ赤に濡れて、真っ黒に染まっていた。

 少女が数えていたのはこれ。金属の音の正体も、これ。

 ユメの足元には血溜まり。異様な鉄臭さ。そして、生臭さ。


「うっぐ、う、うえぇぇぇぇぇぇげぇ、げぇええぇ」


 吐いた。堪らず、我慢できず、抑えられず。

 びちゃびちゃと、自分の膝や服に掛かる。


「針千本……飲むって言ったのになぁ。言ったのに、なぁあああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ」


 無表情、無感情。天井を仰ぎ、ユメは狂ったように発声する。

 ように、じゃない。それはもう、狂っていた。

 胃の中のものは全部吐き出され、さらに吐き出そうとする胃はぎりぎりと痛む。


「――――は、――――あ?」


 今、気付いた。今、知ってしまった。今、見てしまった。

 椅子に張り付けにされ、針漬けにされた人。もはや絶命して、もう人であったのは過去のもの。

 予想していた。けど、考えたくなかった。

 頭に浮かんでいた。けど、信じたくなかった。

 だから、何度も否定していた。


 だけど、やっぱりそうだった。もう否定しようがないものを見付けてしまった。

 その人だったモノの頭。焦茶色の髪を束ねて作られた、おさげ。

 それは、どう見ても、俺の、幼馴染で、恋人の――――。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁ!!」


 ここで、ようやく、叫べた。

 悲鳴を、あげた。


「キクノ、おいキクノ! 返事しろよおい! キクノ! キクノォォォォォォォォォォl」


 キクノは、ぴくりとも動かない。返事しない。反応がない。

 今すぐキクノの所へ駆け寄りたいのに、椅子に縛り付けられていて動く事が許されない。


「ユメ、お前……キクノを、殺したのか……お前がやったのか!?」


 ゆっくり、ゆっくり。

 ユメは天井から俺へと、視線を向ける。


「殺す? そんな訳ないじゃない。なんで私がキクノを殺さなきゃいけないの?」

「……え?」

「私の親友なんだよ?」


 くすくすと、口元を押さえて笑うユメは。

 いつもの、俺が知っている、あのユメだった。

 さっきまでの異様な感じも、笑い声も、何も。全部消えて、幼馴染のユメだった。

 お人好しで、綺麗で、真面目で、頭が良くて、甘いものが大好きな。


「私はただ、約束を守ってもらっているだけだよ?」

「約、束?」

「そうだよ、約束」


 首を少し斜めにして、ユメは微笑む。


「だからって、なんで……なんでそんな事をした! ユメ!」

「なんで? なんでって、なんで? なんでって、なんでなんでなんでなんでなんでってなんでなんでなななんなんでってでってなんでなんなんなんでってなんなんでんでなんでんでなんんでなんでなんで……」

「……ッ!?」


 微笑んだいた状態から一転。

 目を見開き、笑みは消え、喋る人形が壊れたように。

 異形の表情で、異様な光景に、異常な幼馴染。


「そんなのさぁぁぁぁぁぁああぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」


 ユメは横に曲げていた首を真っ直ぐに戻し、右手を上に伸ばす。

 袖が捲れて、月明かりで照らさられる包帯だらけの右手が、不気味。


「約束を破られたからに決まってるじゃないッッッッッッ!!」


 ――――――ダンッ!

 それを、力一杯振り下ろした。

 椅子の手すりに縛られているキクノの腕に。

 手加減も、躊躇ちゅうちょも、情けも無く。

 叩かれたキクノの身体は揺れる。痛みでによる悶絶ではなく、衝撃で揺れているだけ。


「こいつが! こいつが! こいつがこいつがこいつがこいつがこいつがこいつが! キクノがぁぁぁぁぁぁああああああぁあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 何度も、何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も。

 ユメはキクノの腕を叩く、叩く。殴る、殴る。

 包帯で巻かれた手で。包帯だらけの両腕で。

 声を上げ、声を荒げ、声を狂わせ。けど、無表情で。


「やめろユメ、やめろ、やめろ! やめろォォォォォォォl!」


 俺の叫び。悲痛の懇願。

 これ以上キクノが傷付くのも、それを親友が傷付けるのも、自分が何もできないでいるのも。もう見たくなかった。

 声が届いてくれたのか、ユメの腕はぴたりと止まった。

 まるで、スイッチを切った玩具みたく。


「ねぇ聞いてよ、カッちゃん」


 振り向く。

 ユメはこっちに振り向いて、ここで初めて俺の名前を言った。


「キクノったらね、ホント嘘吐きさんなんだよ?」


 くる、くるくる、くるくるくる。

 言いながら、おもむろに両手の包帯をほどいていく。


「見てよ、この手」


 包帯の中から出てきたのは、ほとんど紫色に変色し腫れた両手。

 所々は切れた跡があり、生々しくて目を背けたくなる。

 色白で細く綺麗だった、俺の知っているユメの手とは全く違うものだった。


「キクノのせいでね、私の両手、こんなになっちゃった」

「まさか、キクノがお前の手をそんなにしたのか……!?」

「ふふふふうふうふふふふふふふふふふふふふふふふふふうふふうふふっふふふふ」


 ユメは小さく肩を揺らし、黒髪を揺らし。

 あの狂笑わらいを浮かべる。


「そぉぉぉぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉんな訳なあぁぁぁぁぁいでしょおおおおぉぉぉぉぉぉぉおおおぉうぅぅ? これはぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああぁぁあぁああぁぁぁぁぁぁ、自分でやぁぁぁぁぁぁあああぁぁっったのぉぉぉぉぉおおおおぉ」


 右手を、天にかざす。

 それを眺めるユメの表情は、まるで結婚指輪をはめた手を眺める女性のような。


「こうやってさぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ごっ――――。

 鈍く、重く、生々しく、痛々しい音。打撃の音。殴打の音。

 かざしていた右手をそのまま思い切り、キクノの頭部へ振り下ろした。

 傷付いていようが構わず、気にせず。感情のまま思いのまま。


「な――――っ」


 キクノの頭は力無く項垂れ、殴られた衝撃で小さく揺れ。

 ぎしぎしと、身体を縛られている椅子が軋む。


「こうやって、こうやって、こうやって、こうやってこうやってこうやってこうやってこうやってこうやってこうやってこうやってこうやって!」


 また、狂う。ユメは狂う。

 叫んで、狂って、笑って、殴る。

 何度も何度も何度も。繰り返し繰り返し。


「これで十三回。さっきの腕で十回……まだまだ全然足りないよ? キクノォぉぉぉォォぉお?」


 項垂れたキクノの顔を、屈んで覗き込むユメ。


「合計でまだたったの二千四百五十八回。あと七千五百四十二回も残ってるのに。これじゃあいつまでたっても終わんないよ?」


 いつもの。昔から知っている、俺が知っている、いつも見ていた。

 優しく、温かい、あの笑顔。ユメの、笑顔。

 でも今は、この状況じゃあ、それは、その笑顔は、笑顔で居れる事が。

 奇怪で、奇妙で、異常で、狂っていて、おかしくて。


「針だってあと六百八十二本も残ってるのに……私はさ、ちゃんと守ってたんだよ? ずっとずうぅぅぅっと」


 キクノの髪を掴み、ユメが項垂れていた頭を無理矢理あげると。

 ぐち、ぎちり。そんな肉が千切れるような嫌な音がした。


「私は好きだったんだよ。三人がいつも一緒で、一緒に遊んで、一緒に居るのが」


 屈むのをやめ、ユメはくるりとこっちを向く。

 長い黒髪を靡かせて。


「でも、それが好きで、大好きで、大好き過ぎて。その関係を壊したくなくて、ずっと続いて欲しかった……」

「だったらなんで、どうして、キクノを……」

「言ったじゃない。約束を破ったからだって。カッちゃん、覚えていたよね?」

「三人はずっと、仲良し……」

「そうだよ。三人はね、ずっと仲良し」


 右手の小指を立てて、それを見つめるユメ。


「けど、破られちゃった。私はずっと、必死に、我慢して守ってたのに。キクノに破られたの」


 あーあ、と。ユメは呟く


「私ね、ずっと前から。小さい頃からカッちゃんの事好きだったんだよ?」

「……え?」

「でも、好きって言っちゃったら、三人の関係が変わっちゃうでしょ? カッちゃんに振られたら気まずくなって一緒にいれなくなるし、付き合ったらキクノは私達に気を遣っちゃう。どっちにしろ、今の関係は壊れちゃうんだよ」


 初めて、聞いた。初めて、知った。

 ユメが俺の事を好きだったという事を。


「だから私は黙ってた。カッちゃんにも、キクノにも、誰にも。三人が好きだから、好きだからこそ、黙ってた。言わなかったの」


 月夜の明かりに照らされて、ユメは続ける。 


「でね、彼氏を作れば……この想いも忘れられて、三人の関係は続けられると思ったの。思ってたの。だから好きでもない男と付き合ったって言うのに……」


 小さいながらも、通る声で。


「なのに、なのにさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁ! 二人は付き合っちゃうんだもんなぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁああぁ!!」


 ショックを受けた。何も言えなかった。

 ユメの思いに気付かなかった。ユメの想いに、気付かなかった。


「だぁぁぁぁぁかぁぁぁぁぁぁらぁぁぁぁあぁあぁぁぁぁ……カッちゃんにも、守ってもらわないとねぇぇぇぇぇぇぇ?」


 きし、きし。古くなった教室の床。

 ユメは数歩だけ歩いてからしゃがみ、物が散乱する床から何かを拾う。


「ねぇ、カッちゃん? 約束覚えてるよねぇぇぇぇぇ?」

「三人はずっと仲良し、って約束だろ……」

「ふふふふふっふっふふふふ、違ぁぁぁぁうよぉぉぉぉぉぉ」


 立ち上がったユメは右手に何かを握り、その何かの先端は鈍い光りを帯びている。


「ゆーびきーりげーんまーん」


 ずり、ごり、ずり、ごり。

 何か硬いモノを引き摺る音をさせながら、ユメはこっちに近づいてくる。


「うーそつーいたーら」


 にっこり。ユメは微笑んで。俺の目の前に。

 そこでようやく、ユメの右手に握られているモノが見えた。

 そして、次にされる事に気付く。頭に浮かぶ。


「や、やめろ、ユメ……やめてくれ……」


 血の気が下がっていくのが解る。寒気が酷い、冷や汗が止まらない。なのに身体が熱い。

 見てしまった。気付いてしまった。キクノがされた事。俺がこれからされる事。


「はーりせーんぼーんのーます」


 身体の一部が、無い。

 キクノの小指が、無い。無くなっていた。

 そして、椅子の手すりに縛られた俺の腕、手は……小指だけ、伸ばされていた。


「ね?」

「やめろ、やめてくれ……! 頼む、ユメ! なぁユメ!」


 ユメの右手。その手に握られていたモノ。

 青白く月明かりに照らされて光る、ソレを。

 ユメは勢い良く、思い切り――――斧を振り下ろした。








「ゆーびきーった」







 ごきん。べきん。ぐちゃ。ぐきっ。ずだん。ずどん。

 どれにも当てはまらず、言いようが無い音がした。

 自分の身体から、した。


「ああああああああぁぁあぁぁっぁぁぁぁぁぁぁあああっっ!」


 痛い。イタイイタイ。イタイイタイ痛いイタイ痛い痛い痛いイタイ――――!

 激痛が走る。小指が動く感触が無い。指の付根が熱い。

 血が出る。だらだらだらだら。止まらない。


「だぁぁぁぁいじょうぶだよぉぉぉ? こうして腕を縛っているのを強めればぁぁぁぁぁぁぁ」


 手首付近を縛っている紐を、ぎりぎりと締め付ける。

 流れる血の量は少なくなったが、切断された痛みは無くならない。


「じゃあ、次は左手だね?」


 もう一度、ユメは斧を持った手を振り上げて。

 流れ作業をこなすように、今度は左手の小指を切断した。


「い゛い゛いぃぃぃあぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁあぁぁあ!!」


 あまりの痛みに、悲鳴を上げてしまう。

 悶絶する程の激痛。

 身体を椅子に縛られている俺は、ただただ叫ぶしか出来ない。


「ふふふふふっふっふふっふっふふふふふふふふふふ」


 小指が無くなった俺の両手を眺め、ユメは満足そうに狂笑わらう。


「キクノもね、ここまではよく喋ってたんだよ? なんで、とか。どうして、とか。何で相談してくれなかったの、とか」


 血糊の付いた斧。もう使う必要はないのか、ユメはそれを投げ捨てる。


「でもね、三百二十二回からはごめんなさい、ごめんなさいしか言わなくなって。五百五十七回からは黙ってぴくぴく動くだけになって。八百一回からは寝ちゃった」


 ユメは喋りながら、近くの机からモノを取る。

 チャリ、チャリ、と小さな金属音のするモノ。

 それを、束ねている。


「キクノはゲンコツ万回から始めたから、カッちゃんは針千本からやろうね」


 ユメの手には、大量の待ち針。

 それを持って俺の目の前で、無表情で狂い笑う。

 左手に数えきれない針を持ち、その中から一本だけを右手に持つ。


「やめっ……許し、……ユメ……!」


 ゆっくりと、針の先端を俺の喉元へ近付け。

 目は笑わず、口だけを歪めて、ユメは言った。


「カッちゃんは、ちゃぁぁぁぁぁあぁぁぁぁんと約束守ってね?」


 ずふり――――。

 針を押して、刺して、繰り返し。

 痛みの中、正気なんて保ってられなくて。痛みに耐えられなくて。


「ふ、ふふふふ、っふふふふうふっふふふふっは……ははは、あはははははははははははははははははっっっ!!」


 薄れていく意識の中で、聞こえてきたのは。

 狂ってしまった、壊れてしまった、おかしくなってしまった、ユメの笑い声。


『ゆーびきーりげーんまーん』


 いつかの、昔の約束。

 楽しかった時の思い出。


『うーそつーいたーら』


 三人はいつも一緒で、ずっと一緒で。

 そう思っていたのに。そう、なる筈だったなのに。


『はーりせーんぼーんのーます』


 それは叶わなくて、もう戻る事は出来なくて。

 壊れた関係は、親友も壊してしまった。


『ゆーびきった!』


 子供の頃の、楽しかった時の、懐かしい夢。

 戻る事が叶わないのなら、せめて、夢ぐらいは。

 夢の中ぐらいは、昔に戻りたい。

まずは一言。最初、途中までしか公開してなくてすみませんでした。

多分、コピペをする際にどこかでミスったんだと思います。

お盆で親戚の家に行っていたのもあり、修正が遅くなって本当に申し訳ありませんでした。


では、本作の話でも。

最初は心霊系のホラーを書こうかと思ったんですが、思い浮かんだネタ的にこのような人間関係でのホラーになりました。


ヤンデレ……とは違いますが、一度はこのような狂ったキャラを書いてみたかったので、このようになりました。


冒頭で主人公の夢を見ているシーンから入ってますが、実はあの部分、狂ったユメに拷問?をされて気を失った後に見ているモノです。

『あははははは!』と笑い声のセリフがありますが、あれは夢の中の三人じゃなく、現実から聞こえてきているユメの笑い声です。

一度読んでから、もう一度読み返してみると違った見方が出来るかも知れません。


あと、ユメが行方不明になってカゲマサとキクノの二人は探しに出掛けますが、見付からず帰った後、キクノはユメに電話で呼ばれたのち、連れ出されています。

その日の夜にキクノはユメに「げんまん」と「針千本」をされ、翌日にカゲマサに届いたキクノの夏風邪を引いたというメールは、キクノの携帯を使ってユメが送ったものでした。


小ネタ。

今回は「ゆびきりげんまん」をテーマに書きました。

実はこの歌、元は昔の遊女が客に小指を切って渡していたことに由来しているそうです。

「げんまん」はげんこつ一万回の事で、約束を破ったら(嘘をついたら)一万回殴って針千本飲ませる。という意味なんだそうです。


登場人物の名前もそれにちなんだものになっています。


カゲマサ=陰間茶屋かげまちゃやという女性ではなく男娼の店から。

ユメ=まんま。遊女→ゆうめ→ユメ。

キクノ=深川の有名な遊女の名前から。

イキオ=遊女は粋な男がいい客として見ていたそうです。なのでそこから。


初めて狂ったキャラを書きましたが、いやぁ、書いていて楽しかったです。機会があればまた書いてみたいですね。

初のホラーでしたが、少しでも楽しめた方がいてくれたら嬉しいです。


ではでは。



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― 新着の感想 ―
[一言] ホラー小説と思いきや恋愛小説。 大好物な小説でした。 ユメはこの先どうなるのか……。幼なじみの二人は付き合うのか付き合わないのか…。 なんだかんだで、人間の恋愛感情の怖さも少しだけ見えたよ…
2013/08/13 20:56 退会済み
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