リフレーミング
習作です。
短編小説から始めようと思い、書いてみました。
宜しくお願いします。
ある日、男は恋に落ちた。
だが、落ちたとは言ってもなんだかそれは不思議なもので、さっきまで迷路の袋小路にいたはずなのに、気づけば森の木漏れ日の中に突っ立っていたとでもいったような、目の色の変わるような恋だった。
さっきまであったはずの両側の壁は青々とした緑に、低く心を押し潰していた天井は包んでくれるような淡い青に、そして何より目の前を塗りつぶしていた行き止まりは光輝くどこかへと続いていた。
光の先には、きっと何かがある。
『 その先にあるものは、きっと自分の事を受け入れてくれて、きっと讃美歌が聴こえてくるような澄んだ空気で満ちていて、きっと一つの答えがある 』
気づけば男はそんな当てずっぽうな根なし草を育て始めていた。
それはもう恋というよりは喜びに満ちた産声だったのかもしれない。
男自身も、その光を信じる心が自分の中に産まれた事を確かに感じていたし、始めは信仰なんじゃないかと疑った。
彼がその時に何よりも感じていた事は、自分という存在の素晴らしさだった。
自分でも外に受け入れてもらえるという希望、自信、誰かを信じる心だった。
それまでの人生においてそんな事を赤子の小指ほども認められなかった男にとって、それを与えてくれた存在はまさに神、天使、聖母と言っても良く、その想いはやっぱり信仰だったのかもしれない。
ただここで大事だったのは、相手が人間だったという事だった。
そう、神じゃない。
『 彼女は神じゃない。自分は彼女の事を良く知らない。でも、きっと良いところがあって、きっと欠点があって、生きていて、間違いなく人間なんだ 』
そう思った時、男は相手の事をもっと知りたいと思うようになった。
神は完璧だから、きっと想像したらその理想がそのままの姿だろう。けど彼女は違う。
神ではなく、自分とは違う人間で、でも自分の事を受け入れてくれる未知の存在。
知りたい。どんな人だ。何が好きで、何が嫌で、何に興味がある。
その時男は、これは信仰じゃない、恋なんだと強く感じた。
神でないその人に、男は近づき、触れてみたくなったから。
今男は光に向かって歩こうとしている。
あまりにもまぶしくて、それは壁のように力強く目の前にあって、時に足は止まるし、方向は間違えそうだ。行った事のない世界では、コンパスも地図も役に立たないだろう。
それでも育てた根なし草をどこかに植えたくて、男は前に進むために自分に笑いかける。
きっと何かが、あの先にある。
読んで頂き、ありがとうございました。




