06 けじめと覚悟
「いえ、そこはジレルダ隊長と呼ばせて頂きます。私の中のけじめでもあります」
抱きつきたくなるからさ!
それに、いい関係を築きたいなーなんて言ったけど、今はまだ無理。
上司と部下が精一杯。
なので、そこは頑なに拒んでおいた。
キースは不服そうな顔してたけど…キースなんて名前を口にしちゃうと、凄い勢いで抱きついてしまいそうだから。
その後。
書庫では、第三部隊の過去の報告書を幾つか見せて貰って、最近の仕事内容の説明を受けた。
どこの部隊も大体同じことしてる…けど、第三部隊は地方に赴くことが多いらしい。
「この地域は、第五部隊の管轄では無いのですか?」
地方に赴くのが多いのは分かるが、どうにも、広範囲を受け持ちすぎている気がする。
地図を見ながら、私は東の地方を指差した。
私が騎兵隊に入った頃、確か第五部隊がそこを管轄していた。
第三部隊に入るまでは全く反対の西地方を管轄する第九部隊にいたので…東側の事情には全くついていけてないが。
「いや、第五部隊はリベラート隊長の方針で王都をあまり出ないようにしているから、この地域も第三部隊が受け持っている」
「ではこちらの地域は?」
「そこも本来は第五部隊の管轄だが…第三部隊と第四部隊で受け持つことになっている」
なんじゃそりゃ。
仕事してるのか、第五部隊。
成金と名高いリベラート隊長だから、仕方ないのかーなんてことを考えながら…
暫く地図とにらめっこしていると。
隣に立つキースの顔がゆっくりと近づいてきた。
「…ジ、ジレルダ隊長…?」
近づいた分、顔を引いて距離を取る。
眩しすぎるぐらい、キースが綺麗なのと…
今、肌とか何もかもボロボロだから!アップに耐えれる自信は無い!
すると、キースは少し眉を寄せて更に近づいてきた。
だ、か、ら!
「…な、何ですか!」
こんな至近距離に来るなら、せめて三日前には申告してください。肌環境を整えますので!
今は無理。
諦めてるとはいえ、まだ恋する乙女なの!
好きな人の前では…せめて自分を綺麗に取り繕いたいのに。
「…仕事内容に、何か問題でもあるのか?」
問題…
そう聞かれるほどに、私は難しい顔をしていたのだろうか。
確かに、第五部隊の成金隊長には苛立ちを感じるけれど…
第三部隊の隊長であるキースがそれを仕事として承諾しているなら問題なんて無い。
「いえ、何も…ありません」
副隊長としての覚悟、自覚が足りないということなのか…
反省しなければならない。
「広範囲を受け持つことは、やりがいのあることです。今後も仕事に勤しみます」
姿勢を整え、びしっと敬礼を決めた。
目の前の仕事を、与えられた任務をこなすだけだ。
文句とか不満なんて、そんなものは足枷にしかならない。
ジレルダ隊長についていきます!
そういう意思を込めて告げた言葉に、ちょっとキースは疲れたように溜息をもらした。
「…リリは分かってないな」
どういう意味なんだろう。
呟かれたその言葉の真意は…恐くて聞けなかった。
聞こえないフリで誤魔化した。
キースから色々言われると、やっぱり一番、堪えるから。
あまりにも辛辣なことを言われると、心が折れそうだから。
うん、でも仕事は仕事。
しっかりしないと!
第三部隊の副隊長として、しっかり頑張らなければ。
せめて、キースから認められる副隊長になろう。
心の中で、私は自分を奮い立たせた。