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05 その名を


「こうして話すのも久しぶりだな」


書庫に案内された時、キースがふと口を開いた。

いきなりだったので、一瞬肩がびくっと震えてしまった。


「…そうですね」

「そうだな…ところで、ブラントとは随分と仲が良いんだな」


何の話題かと思えば、まさかオーヴェの名前が出てくるとは。

また何か怒られるんだろうか。

ちょっと気が気じゃない。


「オーヴェとは腐れ縁で…騎兵隊に入ったのも同じ頃なんです」

「オーヴェ…?」

「あ、オーヴェ・ブラントです」

「知っている」


そ、そうですか。

まあ、知ってるだろうさ。

さっきの挨拶の時もオーヴェの名前を口にしていたぐらいだから。

でも、一体何なんだろう。


ちょっとした沈黙が続く。

この間が少し恐い。


「…男女の関係なのか」


ん?

何だかキースの口から思いもしない発言が出た気がするんだけど。

気のせいかな?


「…すみません、何ですか?」


よく聞こえなかったもので、と付け加えると…

キースが真っ直ぐ私を鋭い目で見つめてきた。


逸らすことも出来ないぐらいに、真っ直ぐな目だ。


「ブラントとは男女の関係なのか?」


男女の関係?

ん?

どういう意味で聞かれているんだろう。


「すみません、男女の関係って何ですか?性別は男と女ですが」


こう見えてちゃんと女なんですが。

そこ疑われたら、もう自害するしか無いんですが。


「そういう意味じゃない。ブラントとは恋人関係なのか?」


んん?

恋人って?

誰と誰が?


「…はい?」

「ブラントと君は恋人なのか?」


キースにちょっと苛立った声で言われて、私は勢い良く首を横に振った。


「ま、まさか!同僚です、ただの!」

「じゃあどうして、ブラントは君をリリと呼ぶんだ」

「どうして、って…付き合いも長いので…」


何でこんなことを聞かれているんだろう、私。

オーヴェとは13歳の頃からの付き合いだ。

初めて会った日から、オーヴェは私のことを「リリ」と呼んできた。

騎兵隊に所属する女にしては、可愛い名前だなーなんてよくからかわれたけど。

っていうか、今もからかい半分で名前を呼ばれてるんだけれども。


「付き合いが長ければ良いのか」

「…はあ、まあ」

「では、俺もリリと呼ばせて貰う」

「え?」

「ブラントより付き合いは長いだろう」


そ、そりゃそうですけども。

キースとは8歳の頃からの付き合いなので。


でも、顔を合わせている時間はほんの僅かだった。

最後にちゃんと話したのも、2年前なんだから。


「…ジレルダ隊長、その、名前で呼ばれるのは…恥ずかしいので」

「どうしてだ?昔は名で呼んでいただろう」

「…まあ、そうですけれど。あれは子供の頃の話で…」


初めて顔をあわせてから、私が騎兵隊に入るまでの間。

私たちは年に数度程顔を合わせていた。

キースは私に馬術を教えてくれたり、チェスを教えてくれたり…

最初は「弱い女は嫌い」なんて辛辣なことを言われたけれど。

慣れてくると、とても優しく接してくれた。


許婚で無くなっても、同じ騎兵隊に所属しているんだから仲良く…

そうジレルダ卿にも言われてたっけ。


優しいキースを突っぱねたのは、私だ。

キースは許婚で無くなったとしても、同じ騎兵隊の仲間として、昔馴染みの友人として…

良い関係を築いてくれるつもりだったのだろう。


一方的に避けていたのは、私だけだ。


「でも…ジレルダ隊長が良いなら…また、リリと呼んで下さい」


未だに失恋を引きずってるし、上手く話も出来ないかもしれない。

緊張してしまうから。

でも、少しずつ…良い関係が築けたら、と思う。


「リリ、俺のことも昔のようにキースと呼んでくれ」


キース。

大好きなあなたの名を口にすると、抱きつきたくなる。



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