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04 優しさは毒


「お待たせ致しました」


挨拶に向かった時は、きっちり鎧を着込んでいた。

一応そういうしきたりなので。


これから始まる「案内」は、騎兵隊服で構わないということで…

今は鎧を脱ぎ捨て、騎兵隊の制服とも言うべき隊服を身に纏っている。


上着は白色、ズボンは紺色で統一された隊服は、飾り気の無い造りをしている。

立襟には小さな金色のボタンがついており、肩章も同じく金色。

この肩章は腰まである紺色のマントが留められるようになっている。

立襟の真ん中から続く一本のラインは、フック状の留め具になっており、ボタンや装飾具は施されていない。

胸元に騎兵隊の紋章が小さく縫い合わされているだけで他には何も無い。

汚すとすぐ分かる造りなので、食事の時は凄く気を遣う。


紺色の細身のズボンは、体型に沿った作りなので、まあ私の逞しい足の形が良く分かる。

黒い編み上げのブーツも、ぴっちりとした作りなので、これもまあ私の逞しいふくらはぎの形が良く分かる仕様。

上着も腰丈と短いもんだから、下半身の形を隠すようなものは一切無し!

鏡見てちょっと鬱になるぐらい逞しかった。


街娘ってもっと折れちゃうぐらい細いのになあ。

きっと私のズボンを穿いたらぶかぶかなんだろうなあ。


同じ隊服なのに、キースはそれはもう素敵に着こなしてて。

なんだろう、さっき、オーヴェだって着てた服なのに。見慣れた隊服なのに。

無駄に胸がときめいてしまった。白と紺が似合う。いや、キースなら何色でも似合うんだろうけどさ。



「大体はどこも一緒だ」


そう言って、キースは私に一枚の紙を渡した。

第三部隊が使う第三棟、その部屋の配置とか施設案内が書かれている。

と言っても、どこの部隊も同じような作りの棟を使っているので、大体のことは分かる。

だから、こんな案内…適当に下っ端に任せれば良かったのに。

隊長自ら出てくるなんて…絶対にオーヴェのせいだ。

キースの中では、ちゃんと仕事しないヤツ的な認識になっちゃったのかな。

それは困る…!


「…副隊長室は、隊長室の隣にある」

「分かりました。荷物は本日中に整理致します」


もう二日酔いも治まってきたことだし。

今日中に片付けもちゃちゃっと終わらせよう。

どうせ荷物少ないし、と思っていると。


「後で手伝おう」


なんてことをキースが口にした。

ま、まさか…またオーヴェと喧嘩始めるとでも思われてるのかな…!


「い、いえ…大した荷物はありませんので、一人で大丈夫です」

「今日の仕事は落ち着いている。手伝おう」


有無を言わさないこの感じ。

なんか変な汗かいてしまった。


これが優しさなら、嬉しいんだけどなあ。

いや、優しさなら困るか。

どうせなら、突き放して欲しかったから。

何この人、サイテー!私の恋心返してよー!って言いたくなるぐらい、酷い人間だったら良かったのに。


「…ありがとうございます」

「構わない」


横に並んで歩くキースが少しだけ柔らかく微笑んだ。

不意の微笑みに、胸が高鳴る。


知ってるんだ。

ずーっと見てきたから。

キースは凄く優しい。

それにとっても部下思いだし。

だから、彼の部下になれたら幸せだとは思う。

大切にされるから。


でも、それは…私にとっては足の底からじりじり炙られているようなものだ。

優しくされると苦しくなる。

諦めると決めたのなら、こういう優しさは毒にしかならない。

心の壁を積み上げ、浮かれないように自分に言い聞かせる。


隊長と副隊長。

上司と部下の関係だ。

それ以上では無いのだから、変な期待もしない、優しいからって甘えない。


自分に言い聞かせ、私はキースの隣に並んで歩を進めた。


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