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03 人生プログラム


宛てがわれた寮の自室に戻り、鏡を見る。

鏡に映る自分の顔に、改めて溜息が出た。


ボロボロの肌に、濃緑の目の下には青黒いクマ。

淡い癖のある赤毛は、絡まりあっていて「爆発」という表現がとても良く似合う。

唇だってガサガサで、もう見てられない。


街娘たちは、もっと可憐で美しいのに。

春の季節に似合う淡い色の服をひらひらとさせながら、

もっと柔らかそうな肌に、ばら色の頬をしていて…

艶やかな唇に可愛らしい笑みを乗せて軽やかに歩いているのに。


私はどうだ。

髪を適当に一つに結い上げて、ごっつい腕で剣を振り回している。

銀色の鎧に、腰まである濃紺のマントを身に纏い、馬を駆る。


はあ、と深い溜息をつく。

こんな筈じゃなかった。

副隊長にまで出世出来たし、馬のアンナとも仲良しだし、友達もいっぱい出来たし。

父もとても喜んでくれている。

今となっては、現状に不満は無い。


でも、鏡の前に立つ度にちくりと胸が痛む。


こんな筈じゃなかったのにな…と。

では…どういう予定だったのか。


話は今から12年前に遡る。



私の父も騎兵隊に所属していた。

ある賊を討伐しに行った際、父は盾となり、賊の凶刃から隊長を守ったらしい。

賊に額から頬にかけて切り付けられ、父は片目を失った。

でも、そのお陰で隊長は助かったのだと言う。


隊長であったジレルダ卿は、父に心から感謝した。

片目を失い、騎兵隊を退くことになった父に、ジレルダ卿は今後の生活を保障してくれた。

それだけで無く、自分の跡取り息子の妻に、私を迎えたいと申し入れてくれた。


私は何がなんだか分からないまま、父に連れられてジレルダ卿の屋敷を訪れた。

家の門を入ってからも広がる森!草原!花畑!

びっくりするぐらいジレルダ邸は広かった。


屋敷も見た事が無いぐらい大きくて立派で、素敵なお城ーと目を輝かせていた記憶がある。

私、普通の田舎の庶民だから。

こんな貴族様のお屋敷とか見た事無いから。

あまりに凄すぎて、ちょっと引け目すら感じた。


「お前の許婚だよ」


なんて紹介された少年を見て、暫く何も考えられなかった。

綺麗な服を身に纏った、綺麗な少年。

村で泥まみれになって蛙を投げつけてくる意地悪な男友達とはまるで違う!


「キース・ジレルダです」


手を差し伸べてくれた少年に、私はどうすればいいのか分からず…

困った顔をしていた。

おずおずと差し出した手も、緊張から震えていた。


キラキラと眩しいぐらいに輝くキースの目を、まともに見ることが出来なかった。

そんな私にキースが言ったのだ。

私の将来を決定付けた言葉を。


「弱い女は嫌いだ」


握手した瞬間に言われたその言葉に、私は頭の中が真っ白になった。

「キース、女性は守ってあげるものだよ」って、ジレルダ卿がフォローしてくれたが。

私はただただショックだった。


こんな素敵な人と許婚になれるなんて、夢のようだと浮かれていた。

でも、それじゃいけないのだ。

彼は弱い女は嫌いだと言った。

彼に相応しい女性になりたい。


単純で愚かな私は、次の日から訓練に励んだ。

元から馬の扱いが上手だった私は、父やキースと同じように騎兵隊に入る!と毎日、父と共に特訓した。

強くなる。

強くなって、彼に認められたい。


そして強くなった。

いやもう、自分でも引くぐらいに。


13歳になる頃には騎兵隊にも見習いとして入隊していた。

15歳で見習いを卒業し、正式に騎兵隊員にもなった。


その後も共に鍛錬に励む仲間・オーヴェと共にどんどん階級を上げていった。

見習いじゃなくなって3年ちょっとかな、それぐらいの頃。

父が私に言った。


「リリは強い。だから、もう…ジレルダ卿に甘えなくても、大丈夫だ」


どういう意味なんだろう、と思っていた。


次の日、その言葉の意味もよく分からないまま、私は父と共にジレルダ卿の屋敷に赴いた。

そこで父はジレルダ卿に「許婚を解消して下さい」と言ったのだ。


はあ!?と思った私とは裏腹に、その場に呼ばれていたキースは表情一つ変えなかった。


ジレルダ卿も満足そうに微笑んで、快諾してくれた。

しないで欲しかったのに!!


キースは異論を唱えることもなく、何も無かったかのように去って行った。

もうね、茫然自失だよ。本当に。


「君が立派な兵になってくれて私も嬉しいよ。キースも騎兵隊に所属しているから、許婚で無くなっても仲良くしてやってくれ」


ジレルダ卿に笑顔で言われ、私は曖昧に頷くしか出来なかった。



その夜、こっそり一人で泣きました。

好きだったんだ。

こんなに自らを追い込んで鍛え上げる程、好きだったんだ。

でも、キースはそうじゃないんだろうなぁ。

あんなあっさり「分かりました」の一言で終わるぐらい、私のことなんてどうでも良かったんだろう。

っていうか、許婚だったことも、覚えて無かったかもしれないなー。


そこでふと気づく。

街娘たちは可憐で美しいというのに、自分はどうなんだろう、と。


鏡の前に立って、自分を見て、初めて気づく。

女性らしい美しさなんて皆無。

ドレスとか似合わない似合わない。


そりゃ嫌われるわ。


努力が裏目に出てしまったことがショックで、その後はがむしゃらに頑張った。

そして更にごつい女になりました。


本当は…キースの妻になりたかったんです。

彼の隣で笑っていたかった。


こんな筈じゃなかったんだ。


13歳当時の人生プログラムでは、今頃結婚して、そろそろ子供が生まれる予定だった。

お屋敷の花に囲まれたお庭で、大きくなったお腹をさすりながら、夫婦仲良くお茶を飲む。

あなたに似た子がいいわ、いや、君に似て欲しい、なんて語りながら!

木っ端微塵である。

まさに妄想の世界。


人生プログラムとは真逆。

出世街道をひた走る現状。


挙句、失恋したキースの部下になった。

とんだ茶番だ。

人生が茶番劇すぎて、自分でも笑えてくる。


それでも、仕方が無い。

こんな筈じゃなかった、そんなことばっかり言ってられない。

現状を受け入れて、また頑張るしかない。


それぐらいしか、私には出来ないのだから。




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