16 勝負の行方
高らかなラッパの音と共に、球追いの試合が始まった。
成金だけあって、リベラート隊長は予想を上回る程の使えないっぷりを遺憾なく発揮していた。
土埃を被ることを嫌がって動かないし、球が来たら、さっと避けるし…競技の趣旨を間違ってるとしか思えない。
お陰でとても有利に試合を運ぶことが出来ている。
初めて参加したチームだったけれど、思った以上に動きやすいと感じた。
私が球を持ち、それを棒とその先のネットで引きずるようにしながら前線へ持って行くと、ここ!という場所にキースが待ってくれていた。
オーヴェと組んだ時と何ら変わらない。
私がいて欲しい場所に、キースは位置取りしてくれていた。
棒を大きく振り、球をキースの位置に投げ込むと、吸い込まれるように球はキースの手元に収まった。
そしてそのまま、球は籠の中に放り込まれる。
今まで、キースと直接、対戦したことは無かった。
第三部隊とその昔、対戦したことはあったけれど、その時は何故かキースは試合に出ていなかった。
でも、他の試合を見て、キースが凄く上手だということは知っていた。
何やらせても出来るからね、キースって。非の打ち所が無いぐらい素敵なんだ…
「リリ、後ろ!」
キースの姿にちょっと見惚れてしまっていたのかもしれない。
一瞬、気が緩んだ隙に持っていた球をさっと後ろから奪われてしまった。
キースが声を掛けてくれた時には、既に球は奪われた後だった。
馬の手綱を引き、向きを変える。
私の手から球を奪ったのは…オーヴェだ。
一瞬の隙を突いてくる様は流石だと思った。
敵に回すと厄介だと思っていたオーヴェは、やっぱり厄介だった。
私が前線に球を運ぶ役目をしていたのは、最後の籠に入れるのが苦手だったからだ。
別に私の方が、前線に運ぶのがオーヴェより上手かった訳では無い。
悔しいけど、オーヴェは何でも出来る。
リベラート隊長とその他何人かが全く使えないと分かると、オーヴェは自分で球を運ぶようになった。
オーヴェ一人にしてやられてる感じ。
今も奪われた球を素早く運び、私や他のメンバーが追いつく前に籠に入れられてしまった。
やられた、と思った直後にはもうオーヴェは次の球を狙いに馬を駆っていた。
「ブラントの周囲を囲め!三人がかりで行って構わない!リベラートは放っておけ!」
キースが的確な指示を出し、オーヴェを封じ込めに行く。
三人がかりとなると、オーヴェも苦戦しているようだ。
そりゃね、馬三頭に囲まれたら、もう動けないって。
試合はそのまま有利に運ぶことが出来た。
でも、中々「これなら安心!」という所まで点差が開かなかったので、ちょっと恐かったけれど。
少しでも気を緩めると詰め寄られるかもしれない。
「キースッ…!」
必死で相手の間を掻い潜り、球を運ぶ。
奪われそうになった球を無理矢理、手を伸ばして自分の所へ引き戻したものだから…バランスを崩してしまった。
落馬しそうになりながらも、片手で手綱を握り、球をキースの元へと渡す。
キースの元に運べた、と思ったら…キースは球のことを無視して、私の方へと駆け寄ってきた。
ギリギリで自分の体を支えていた私の腕を掴み、体勢を整えてくれた。
「…キース、球!」
せっかく運んだ球は、そのまま相手に奪われてしまった。
「球よりも!落馬したらどうするんだ!」
点差を詰められたら、と焦る私にキースは険しい表情でそう言った。
「リリにもしものことがあったら…意味が無い」
苦虫を噛み潰すかのようなキースの表情に、少しだけ冷静になれた。
腕折ったって構わないと思っていた。
けど…それで私が離脱してしまって負けたら意味が無い。
「分かってる!離脱したら…意味無いものね!」
「…そういう意味じゃないが」
「あと少し、頑張ろう!キース!」
後ろからキースの深い溜息が聞こえてきたけれど…
今は気にしない!気にしてはいけない。
目の前の勝負に、集中するだけ!
こうして、熱い試合の時間は過ぎて行った。
終了のラッパが響いた瞬間、涙が出てしまうほどに…私は必死だった。
勝てたことが嬉しくて、感慨深い気持ちになる。
でも正直、凄く疲れた。
こんなに緊張して疲れた勝負は、初めてだったかもしれない。