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15 今日の為に


試合前の第三部隊での打ち合わせが始まった。

今回の試合はかなり本気だ。主に私が。

練習試合なんて思わせない張り詰めた空気の中、話し合いは行われた。


いやもう、私はかなり獲物を狙う猛禽類のような…本気の目をしていたと思う。

腕の一本折れたって構いはしません、というぐらい。

キースと結婚出来るなら余裕だね、腕ぐらい。


「リリが前に組んでいたブラントの位置に俺が就こう」

「なら、私は以前と同じく、前線へ球を運ぶラインに就きます。主に白の球を担当しますが、黒の球も運べない場合は渡して下さい」


初めてのチームとの合流になるので、両方の球を運ぶとなると混乱が起こるだろう。

前はオーヴェと一緒に好き勝手していたけれど、初めてとなるとそうはいかない。

この第三部隊は、誰かが単独で球を運ぶような戦術を取っていなかった。

だから、急に私のような単独で運ぶスタイルを好む者が入っても、混乱するだろうから。


「分かりました、エーベル副隊長!」

「副隊長が就任されて初めての試合ですからね!絶対勝ちましょう!」


第三部隊の面々はとても良い奴らばかりだ…!

私がギラギラと本気で燃えているのを、こうも歓迎してくれて「勝とう」と言ってくれる。


ちょっと涙が出そう。


今まで、ずっと努力してきたんだ。

強くなる為に。


全部が裏目に出た。

キースは、女らしくない私のことなんて好きじゃないと思っていた。

今も、そうだろうとは思っている。

好きでは無いだろう、と。


それでも、キースは私との結婚を考えてくれているらしい。

この試合に勝ったら、結婚を申し込むと言ってくれた。


だから、勝ちたい。


初めてだ。

自分の頑張りで、本当に欲しいものを得られる機会が巡ってきたのは。


今までの努力は、無駄じゃないんだ。

頑張ったから…このチャンスが巡ってきたんだ。


それが、たまらなく嬉しかった。

頑張ったからって、本当に欲しいものが手に入る訳じゃない。

そのことは、痛いぐらいに感じてきたことだ。

でも、頑張ることを止めてしまうと、結局は何も得られない。

機会が巡ってきても、それを潰すことになる。


私はきっと…今日の為に強く、逞しくなったのだろう。

そう胸を張って言いたい。






球追い用の簡易な皮の胸当てを身につけ、愛馬のアンナに跨る。

私の本気が伝わっているのか、いつに無くアンナの目にも力が宿っている。


「…頑張ろう、アンナ」


そっと頭を撫でると、それに答えるようにアンナが小さく首を振った。

ゆっくりと試合会場へと向かう私の後ろから、もう一つ蹄の音が聞こえてきた。


「リリ!」


振り向くと、そこには同じような球追いの鎧を纏っているオーヴェの姿があった。

第五部隊とは、第九部隊時代にも試合で対戦したことがある。

大したことは無い、そういう印象だ。

ただ…オーヴェが厄介な存在になりそうだ。


「オーヴェ、この勝負に私の結婚が掛かっている」


横に並んだオーヴェに、私は真剣な眼差しで伝えた。


「…は?」


訳が分からないという顔のオーヴェ。

そうだろう。

私だって実はどうしてこんなことになったのか、分からない。


「だからって手は抜かなくて良い」


手抜きなんてされたくない。

私の事情をよく知っているオーヴェだからこそ…本気で来て欲しい。


「そっか。どっちにしろ、手抜きなんて失礼な真似はしない」

「ありがとう。全力で来てくれ。全力で戦うから」

「結婚前の女の言うことじゃねーな」


オーヴェの笑顔に、少しだけ緊張が解れた。

結婚前の女性はこんな「全力で戦う」なんて言わないだろう。


「でも、リリらしい。それで良いと思うぜ」


そう言われて、少し嬉しくなった。

こういう生き方しか出来ない私だから…


街の綺麗な女性たちと自分を比べて情けなくなることもあったけれど。

それでも、自分の生き方を変えることなんて出来ない。

だから、これで良いと言ってくれる友人の存在は有難かった。



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