01 出世祝い
「弱い女は嫌いだ」
8歳の頃の話である。
父に紹介された、許婚のキース・ジレルダという少年にそう言われたこと。
それが私の人生を大きく変えた。
私は愚か過ぎるぐらい純粋だった。
弱い女じゃ、彼に嫌われてしまう。
それから数年の後、私は驚く程に強くなってしまった。
鍛錬に継ぐ鍛錬のお陰で、騎兵隊にも入隊することが出来た。
弱い女じゃなくなったのよ、そう胸を張る私。
そしたらお父様にこんなこと言われました。
「リリは強い。だから、もう…ジレルダ卿に甘えなくても、大丈夫だ」
そういう訳で、努力空しく。
キースとの許婚関係は綺麗さっぱり白紙に戻ってしまった。
リリ・エーベル、20歳。
婚約も白紙になり、半ばやけくそになり…
更にがむしゃらになって鍛錬を積むこと2年。
今では騎兵隊の中でも一目置かれる存在になりました。
そして、最近、気づきました。
私って女性として終わっているのではないかと。
だって、私と同じ年頃の女性は皆、綺麗な服を着て、髪を綺麗に結い上げて優雅に歩いている。
私はというと、それはもう綺麗に磨きのかかった銀の鎧を身に纏い、今日も馬を走らせてその上で剣とか振り回してますよ。
そりゃドレスも似合わないぐらいに腕も太くなるって。
こんな筈じゃなかったのにな…
大好きな許婚の為に努力した結果がコレだよ、まったく。
そんな私に追い討ちをかけるように、先日、茶番のような人事が発表されました。
なんと、かつての許婚が隊長を務める隊の副隊長に選ばれました!
出世は嬉しいわよ。
女性で副隊長の座まで出世したのって今まで片手で足るぐらいしかいないんだって。
そんな中でも私は最年少の出世なんだって。
婚約も白紙になったし、仕事頑張ろうかなーどうせ女としては終わってるしーとか考えてたから、
自分の努力が認められて出世出来たのは素直に嬉しい。
でも、せめてさ。
他の隊でも良かったんじゃないのかな。
傷口に塩を塗り込むようなこの人事。
誰の仕業だよ。
これからかつての許婚と顔を合わす日々が始まるのかと思うと、やってられない。
人生は、思い通りにならないことだらけだ。
私の頑張りは、全てが裏目に出てしまう。
それでも仕方が無い。
明日から、また頑張るしかないのだ。
だから、せめて…今日は呑む。
呑んで一度全てを忘れてやるんだ。
「リリ、勢い良いな!流石は副隊長様だぜ!」
「リリ言うな!オーヴェ、お前も呑めよ!」
色々と複雑過ぎて、出世祝いと称し、騎兵隊に入った頃からの腐れ縁のオーヴェと一緒に浴びるほど酒を飲み明かしました。
そして、見事に二日酔いで唸ることになりました。