クラシックへ
「こいつの切った馬を買えば来るから」
そんな話から、アントニオバローズの出走したダービーの話になったのは、四十代前半三人。そのときの勝馬はなんだったか。
「アントニオバローズは三着だったんだよね」
私は、騎乗していた角田騎手がダービージョッキーとなったジャングルポケットの年に初めて、現場でダービーを見た。そのため、アントニオバローズをおっていたのだ。馬体はぴかいちだったので、これは獲っただろうとぬか喜びをしたことを鮮明に覚えている。しかし、悔しさのあまり、勝馬を覚えていない。
「ノリとタケで決まったんだ」
「前日までそういってたんだよね。そしたら俺の持っていた勝馬に、血統的にアントニオバローズがいいって書いてあって……」
「ちがうよ。俺の持っていた競馬ブックに書いてあったんだよ」
「なんだったっけ……」
「ノリが勝ったんだよ」
「その後すぐにその馬は引退したんだよな」
三人で頭を悩ませる。ぶっちぎったんだよとか、馬場が悪くてとか、一番人気はこけたとか、回りのことはいくらでもでてくるのに、肝心の勝馬の名前が出てこない。これが年齢というものなのか。
結局、思い出すのを諦めた一人が携帯電話で調べて、ロジユニバースだと判明。三人の脳細胞が少し死んだ瞬間だった。
その一人いわく、WIN5の必勝法は、
「ダートは人気どころを、芝は荒れると考えて予想を」というものだった。そういえば最近、WIN5にまで手を出していない。今週は買ってみようかと思ったけれど、肝心の弥生賞も絞れない。
ヘミングウェイを買いたいのだけれど、距離は持つのだろうか。血統からいえば大丈夫そうだが。相手はサトノネプチューンにしようと思えば、しんがり君が軸にするという。二人で買うときやしないけれど、最近トリガミとはいえ、的中率は彼のほうが上回る。しかも、チューリップ賞は切った馬が、
「やっぱりきた」と大騒ぎしている。
もう一頭の気になる馬には、昨年追っていたオオゾラちゃんに騎乗していた柴田大知騎手が騎乗する。昨年の覇者でもあるし、脳細胞を殺した三人で、
「まだダービージョッキーには遠かった」という話をしていたこともある。これは何かの暗示かもしれない。
しんがり君にはこっそり黙って、ヘミングウェイとマイネルクロップを軸にしようか。そうすると切ったほうが来るんだろうな、と思う。こういうときは、思い切って見するのが一番なのだが。
「どうでもいいけど、肥えたんじゃない?」
四十代三人の会話。
「坂路で結構追ってるんだけどね、飼い葉食いがよくなっちゃって」
「ポリトラックでも追ってるだろう」
「そうそう。でもって、調教で疲れがでちゃって、また休養にはいり、結局絞れないっていう」
競馬をやらない若い娘ちゃんが、きょとんとした顔で、
「業界用語ですか?」といっていた。
脳細胞がいきいきとした馬たちの季節が始まる。春の嵐が窓を叩いているけれど、この風はゴールまで吹き続けるのだろうか。




