7.真相
「小川っ、香川 喜美子を殺したのはお前だな!」
瞳はそう言って、机を思いっ切りバンッと叩いた。
小川は瞳の迫力に驚き、椅子から転げ落ちてしまった。
「吃驚したなあ。いきなり何ですか!?」
「お前は此処に呼ばれる数時間前、香川 喜美子の自宅に行き、香川 喜美子の首を絞めて殺害した」
「俺が喜美子を?
一体どうやって!?」
「クロロフォルム。現場に使用した跡が残っていたよ。
あんたはクロロフォルムを使用し、香川を眠らせ、首を絞めて殺害。その後、遺体を天井に吊し、自殺に見せ掛けた。
しかし、あんたは此処でミスをしたんだ。それは椅子だ。現場には首吊りに使われた筈の椅子が無かったんだ」
「ちょっと待ってくれよ。それだけの事で何で俺が殺人犯になるんだ?」
「クロロフォルムだよ。
あんたと初めて会った時、微かに甘い香りがしたんだ。クロロフォルムの独特なのがね」
「そんな馬鹿な!?
俺はちゃ・・・はっ!?」
小川は思いっきり焦った。
「どうした!?此処まで来たんだから躊躇う事は無い!吐いてしまえ!」
瞳はノリで言った。しかし、小川は口を閉ざしたまま喋らなくなってしまった。
「何故黙る?」
瞳はそう訊ねるが、小川は俯くだけで何も言わない。
(困ったな・・・答えてくれないと先に進め無いんだよな。
仕方無い、滅茶苦茶恥ずかしいけど、あれをやるか)
瞳は心の中でそう呟き、小川の真後ろに回り込んだ。そして、小川に覆い被さる様な感じで、背中に貼り付いた。
小川は、一瞬にして顔がカーッと赤くなった。更に、心臓がドクドクと早くなり始めた。
「小川さん・・・──あたし、小川さんともっとお話したいな」
「わ、分かった。な、何から話せば良いかな?」
「香川 喜美子について、知ってる事全部教えてくれないかな?ね、オ・ネ・ガ・イ」
小川は顔を更に赤くし、鼻血をタラーッと垂らした。
「鼻血が垂れてるわよ」
瞳はそう言って、小川の鼻血をポケットティッシュで拭った。
「あ、ありがとう」
「あのさ、そろそろ話してくれないかな?香川 喜美子の事・・・」
「そうだったね。
あれは一昨日の事だった」
それは二日前の事・・・。
その日、小川は香川家に来ていた。
「ほらほら、もっと飲んで」
喜美子はそう言って、小川に酒を注ぐ。
酔って顔を真っ赤にしてる小川は、喜美子の注いだ酒を、グビグビと飲んだ。
「5年前の放火事件覚えてる?」
「5年前の放火?
嗚呼、あれか。覚えてるよ。孝之と千恵と俺の三人で家燃やしたんだよ。そしたらそこに男がいて、焼死しちまったんだったなあ」
「へぇ、あれあんたが犯人なんだ。へえ」
喜美子は不気味な笑みを浮かべた。
「やべっ、何か俺、眠くなって来た」
「そう。じゃあ、お布団入って寝よう?」
「ああ、そうするよ」
小川はそう言って、隣の寝室に入って行った。
泊まるつもりか?──そんな感じである。
(巧く行った)
喜美子はそう思った。
「と言う訳なんだ」
「成る程、そう言う事か。だからあんたは、鈴木 千恵、小渕 孝之を殺害した香川 喜美子を絞殺したのか」
「今朝な」
「小川さん、こっち向いて下さい」
はい──そう返事をし、小川は瞳の方を向いた。
「っざけんじゃねえ!」
バシンッ!──瞳の拳が小川の顔面にヒットし、その衝撃で小川はすっ飛んで壁にめり込んだ。
「てめえっ、昔の友人を殺されたから犯人殺しても良いと思ってんのかっ!?
天国の友人はそれで喜ぶのかっ!?」
「そんな事言われたって、あいつ放っておいたら、俺が殺されちゃうもん。
俺はやられる前に手を打っただけだよ」
「腐ってる・・・お前の脳味噌腐ってるぜ!」
「五月蠅え!てめえに俺の気持ちが解るか!?」
「解らねえな・・・──でもよっ、これだけは言わせて貰う!
てめえが殺人者を殺した所で、被害者は帰って来ねえんだぞ!」
その瞬間、小川は自分のした事に気付いた。
(これじゃあ、俺もあいつと一緒だな・・・。
黙って、警察に突き出してやりゃ良かったな・・・)
小川はそう思った。
「ねえ・・・」
小川は瞳に声を掛けた。しかし、返事は無かった。瞳は一体何処へ?
駄目ですか?これじゃ・・・。