5.取り調べ
警視庁捜査一課の取調室の傍聴室で、瞳は先程から取り調べの様子を見ていた。
どうやら、一人目の容疑者が挙がったらしい。
「この凶器からあんたの指紋が出て来た。
これ、あんたのだな?」
そう言って、袋に入れられた包丁を、容疑者と思われる男性に見せつける刑事。
しかし、男性は喋らない。
それから10分位経っただろうか。
なかなか答えない男性にイライラし始めた刑事は机を叩き、
「黙ってないで答えろよ!」
と、怒鳴りつけた。
しかし、男性は微動だにしない。
(駄目だこりゃ・・・)
刑事は遂に諦めて出て来てしまった。
「答えなかったな」
瞳はそう言った。
「ええ。
そうだ、君が取り調べしてくれる?」
「何でオレが?」
「だって君、可愛いから、あの人も何か喋ってくれるかなって思って」
「しょうがねえな」
瞳はそう言って取調室に入ると、椅子に座って容疑者と向かい合った。
容疑者は心臓の鼓動をドクドクと高鳴らせ、赤面しながらこう思った。
(か、可愛い)
その容疑者に瞳はこう訊ねる。
「あんたが何考えてるか知らんけどさ、質問くらいは答えたらどうだ?
と言う訳で、あんたの名前教えてくれ」
「自分は小川 太一っす!
趣味は釣りです!」
ブチンッ!──瞳の堪忍袋の緒が切れた。
「てめえの趣味なんか聞いてねえよ!」
ボグッ!──瞳の米利堅が小川に飛んだ。
「痛いなっ、何すんだよ!?」
小川は瞳を殴り返した。
ガスンッ!──瞳に避けられ、カウンターを喰らった。
小川は鼻血を出した。
「あ、わりい・・・」
瞳はそう呟いた。
「それはそうと、あの凶器にあんたの指紋が付いていたと言う事だが、あの包丁はお前の物なのか?」
すると、小川は震えながら答えた。
「た、確かに、あれは、俺の、包丁ですけど・・・でも、殺したのは、俺じゃありません!」
「本当か?」
「ほっ、本当です!」
「じゃあ、一昨日の夜11時頃は何処にいた?」
「自宅の近くの、飲み屋で飲んでました」
「昨日の午後1:00〜1:30頃は?」
「そ、それって、小渕が殺害された時でしょ?」
(・・・・・・)
「俺はその時は家にいたよ」
「あんた、小渕に会ってるのか?」
「朝、ランニングしてる時にな」
「じゃあそれが最後に見た姿か!?」
瞳は興奮した。
小川は頷いた。
「その時彼に変わった事は!?」
「女に追われてる──そう言ってた」
「女?」
「詳しくは分からないけど、5年くらい前に何かしでかしたらしいですよ。
それで女に追われてるんだとか」
(繋がった!)
瞳は取調室を慌てて飛び出した。
「何処行くんだ瞳?」
兄は慌てて署の廊下を走ってる瞳に声を掛けた。
瞳は止まると、
「5年前の放火事件の時の被害者の名前は!?」
「香川 治男だった気がするが・・・それがどうかしたのか?」
「5年前の放火と今回の事件が繋がったんだ!
それと、その被害者に奥さんはいるのか!?」
「香川 喜美子ってのがいるぞ」
「そいつ今は何処に!?」
「ちょっと待て!
お前はそいつが犯人だと?」
「確証は無え・・・けど、可能性はある!」
「よし分かった!
車を出すから乗れ!」
そう言うと、兄は駆け出し、瞳はそれを追った。