4.第二の殺人
ちょっと前、ある場所で、男の遺体が見付かった。
男の名は、小渕 孝之。
発見当時、小渕は腹に包丁が刺さっていた。死亡推定時刻は、午後1:00〜1:30頃。
また、遺体には争った形跡が無く、いきなりやられたのでは無いか、と言う事だ。
「成る程、5年前の未解決放火事件の捜査で現場を見に来たら、男が死んでいた、と」
信じられないな──とでも言う様な顔で、刑事は言った。
「それにしても、元殺人犯がS.Dの生徒になるとはな」
その言葉に、楓は目を点にし、
「殺人犯?」
「馬鹿っ、それ内緒だろ!」
と、瞳は刑事を睨み付けた。
刑事は笑って、
「そうだったな。わりいわりい」
「笑い事じゃねえよ!」
瞳は刑事の足を踏み付けた。
「いってええええ!」
「黒田さんそれはまずいって!」
すると瞳は振り向いて、
「良いんだ。こいつ、オレの兄貴だから」
と、親指で刑事を差して言った。
「黒田さんお兄ちゃんいたの!?」
と、驚く楓。
「そんなに驚く事か?」
「そりゃ驚くよ!
だって黒田さん、兄妹がいるようになんて見えないもん!」
楓はそう言ったが、兄とお話をしている瞳は、全く聞いていなかった。
「話聞いてよ・・・」
と、その時、
「黒田警部!」
と、見窄らしい一人の刑事が慌てて駆けつけて来た。
彼は水嶋 慶太。瞳の兄の部下である。
「水嶋君、どうかしたの?」
その問いに水嶋刑事はこう言う。
「直ぐそこの神社で女性の遺体が発見されました。
その空き地で見付かった男性と同じ殺され方です」
「行くぞ瞳!」
兄はそう言って、走り去って行った。
「行くよ楓!」
と、瞳も走り去って行った。
「黒田さん待って!」
そう言って、楓は瞳の後を追った。
──午後6:50、馬橋稲荷神社。
舞殿の前には、Keep outと書かれた黄色いテープが張られている。
そしてその中に、腹を包丁で刺された女性の遺体が置かれている。
瞳とその兄は手合わせをした。
「鑑識さん・・・──遺留品に害者の身元が判る物って無い?」
瞳の兄は傍にいた鑑識に訊ねた。
「免許証ならありますけど」
「それ見せて」
瞳の兄は、袋に入った免許証を受け取った。
<鈴木 千恵>──免許証にはそう書いてある。
「そう言えば・・・──鈴木 千恵って、殺人罪で指名手配されて無かったか?」
そう言ったのは、免許証を横から覗き見している瞳だ。
「そう言えば、署の掲示板に貼ってあったな」
「ねえ、あそこ見て」
瞳はそう言って、正面の壁を指差した。
そこには、血文字でこう書かれている。
<K.K>
恐らく、被害者が残したダイイングメッセージだろう。
その証拠に、被害者の人差し指が、壁に触れている。
(ん?)
瞳は被害者の握られた手の隙間から、中に何かあるのに気付いた。
「兄貴、この人何か握ってる」
そう言って、被害者の握られた手を指差す瞳。
兄は、被害者の手を開こうとした。
「固い。硬直しきってる」
「オレがやる」
瞳は握られた手を、無理矢理こじ開けようとした。
「そんな事して、死亡推定時刻がずれたらどうすんだ?」
「昨日の午後11:00前後だ」
そう言いながら、瞳は硬直した拳を完全に開ききった。
「どうして判る?」
「硬直具合から計算したんだよ」
「お前は医者か?」
「法医学の勉強してんだよ!」
と、怒鳴りつける瞳。
「そうなのか。
で、そのボタンは何だ?」
瞳は学園から支給される手袋をはめ、ボタンを手に取った。
「引き千切られた跡があるぞ。
恐らく、犯人と争った時に引き千切ったんだろ」
そう言って、免許証と共に、鑑識に渡す瞳。
「それより、気になるのはK.Kだな。
兄貴・・・──被害者の交友関係、洗っとけ。ついでに小渕の方もな」
(勝手に仕切るなよ、不良娘が・・・)
兄は心の中でそう呟いた。
「あ、そうそう。オレは不良なんかじゃねえからな」
その突然の発言で、兄はギクッとした。