9月31日、ゾンビの日
「9月31日ぃ?」
友達の話に、私は思わずオウム返しをしてしまった。
「そーそ」
「私の記憶が正しければ、9月は30日までしかないはずだけど。違った?」
少し強めの言い方で聞く。
「ううん、美貴は合ってるよ」
「じゃあ何よ」
「9月31日は、9月30日の23時59分59秒から10月1日の0時0分0秒の間に……」
「由香、やめて」
「えー、これからなのに」
「やめなさい」
再び、そしてきっぱりと言う。
「あ~、もしかして美貴、怖いのかな~」
「そうじゃなくて、嫌いなの。そういう胡散臭い話」
「いいから少し聞いてよー」
「私、帰るね」
「あ、美貴っ」
そうして私は1人でさっさと家に帰った。
トイレの花子さん? 口裂け女? バカバカしい。怪談だとか都市伝説だとか、どうかしている。
私はそういった話が嫌いだ。本当の話なんて1つもないのに噂がよく流れる。それはきっと、人を怖がらせて面白がるためだ。さっきだって、由香は私が怖がってるだのなんだの言ってたし。こんな幼稚なことをして何が面白いんだろう。本当に、バカバカしい。
〓
「あ、美貴。オハヨー」
次の日、由香はいつものように声をかけてきた。昨日のことなど気にもかけていない。所詮、そんなものだ。
「ねぇねぇ、昨日の新ドラマどう思う? あたし的には前の方がよかったなー」
こういった話題は嫌いじゃない。むしろ好きな方だ。
「実はあれに好きな俳優が出ててさ、そっちばっかに目がいって話の方はあんまり見てなかったのよね」
「あはは、美貴らしー」
そんなたわいもない話をしている内に、私も9月31日のことなど忘れていた。
結果、昨日のような話などまったく出ずに学校は終わり、私はお母さんと一緒に以前から約束していた買い物に来ていた。
「ほらほらお母さん、早く行こっ」
町の中を歩きながらお母さんを急かす。
「美貴、そんなに慌てないの」
「だって、お母さんと買い物だなんて久しぶりだからワクワクしちゃって」
横断歩道をお母さんより先に走って渡り切る。
「ちょっと待って」
「早く渡りなよ」
突如、車が飛び出して来た。信号無視だったのか、曲がっただけなのかはわからない。
ブレーキの音が聞こえた。車が横断歩道のお母さんにぶつかる。お母さんが飛ばされる。そこからは覚えていない。気が付いたらお母さんの傍で叫んでいた。
「お母さんっ、お母さんっ」
お母さんは手足があらぬ方向に曲がっていて、目が飛び出ていた。とても見れたものじゃない。
「そうだ、救急車呼ばなきゃ」
ふと冷静になって携帯を開く。そして何気に時間を見た。
「……う、そ」
そこには9月31日の文字。
何で? 今日は10月1日でしょ? 9月31日なんてないのに。何で? ナンデ?
「あ゛ーーーーーーーーー」
「美貴ー、起きなさーい」
お母さんの声だ。
「うん、今起きるー」
はっと気づいて携帯を見る。
「10月1日」
何だ、夢か。よかった。きっと気にしすぎていたんだろう。
「美貴、おはよう」
「おはよー、お母さ――キャー!」
「ん? どうしたの? 美貴」
台所には、腕があらぬ方向に曲がって目の飛び出ているお母さんが――――
〓
「9月31日は、9月30日の23時59分59秒から10月1日の0時0分0秒の間に見る夢のこと。でもそれは10月1日。そこでは大切な人が死んじゃうんだって。でもそれは夢の話。でも10月1日。9月31日で10月1日で夢なんだ。でもでも、そういうわけにはいかないでしょ? だから混ざっちゃう。だからだから、死んだ人はゾンビになっちゃうんだよ。ってゆうか、それじゃあゾンビの日は9月31日じゃなくて10月1日だね。あはははは。あっ、その目は信じてないな。あーあー、危ないよー。わかんないかなー。9月31日は、そーゆーの信じないって人の前に現れるんだよー。美貴みたいにねっ。あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは
ねぇ、
9月
31日
って
知って
る?
」