第一章
初めましての方も、そうでない方も、こんにちは。
本作『Past chapters 初任第一報』を読みに来てくださり、ありがとうございます。
本作は、『謎解きの解答』に登場する相沢康の過去を描いた物語です。
舞台は2018年、長野県安曇野市。
警察学校を卒業し、三郷交番に配属された新人警察官・相沢康、23歳。
まだ経験も浅く、わからないことばかりの彼が、警察官として何を見て、何を感じ、何を学んでいくのか。
普段は明るく、少しお調子者な彼にも、初めて直面する現実があります。
これは、一人の青年が警察官として歩み始める物語。
彼の目に映る景色を、どうか最後まで見届けていただけたら嬉しいです。
それでは、本編をお楽しみください。
『長野本部から三郷1、長野本部から三郷1。地域事案、110番入電』
ノイズ混じりの冷たい電子音が、電波に乗ってスピーカーから吐き出される。
『——事案、飛び降り自殺。場所、安曇野市三郷、安曇野市立三郷中学校中庭。通報者、同校教諭。被害者は同校の男子生徒とみられる。校舎上階から飛び降り、頭部より大量の出血、意識なし。救急隊へは本部より要請済み。三郷1は直ちに現臨し、状況を報告せよ。……繰り返す——』
***
一章
2018年 9月28日
AM 8:43
朝のひと段落がついた頃、交番内でくつろいでいる。今にも眠りそうな、帰りそうな様子で。
「はぁ〜疲れたぁ」
あくびをし、まだ午前中であるものの疲れを見せている。
相沢康、23歳。2017年10月に初任科短期課程160期生として入校し、2018年春に長野県警察学校を卒業。現在は安曇野市三郷の、三郷交番へ配属され、勤務している。
「はぁ〜眠い…」
「はい、戻りました」
「あ、お疲れ様ですぅ…」
巡査部長が巡回から戻った。そして、既に眠そうにしている相沢を見て、ため息を吐く。
「お前な、まだ昼間だぞ。今のうちにシャキッとしとかなきゃどうすんだよ」
彼はそう言いながら相沢の背中を強く叩いて気合いを入れさせる。
「いてっ、もぉ」
「ほら、書類でもまとめとけ。事案はなくてもな、仕事はあるんだよ、ほら動く動く」
「わかりましたよ…」
どうしてこんなやつが警察官に?そう思われても仕方がない彼の日常が、今日も続く……。
***
PM 1:22
昼過ぎ、この辺り一帯は雲に覆われていた。やがて雨も降り始め、辺り一面が冷え込む。
「よしっ、終わったぁー」
「いや終わってねぇよ」
「やっぱり?」
「うん」
どさくさに残りの作業をほったらかそうとしたが、あっさりバレた。
「てか雨降ってきましたね」
「ん?あぁそうだな、台風近づいてるし、その影響かもな」
「ですね」
「ほら手を動かせ」
相沢は仕方なく残りの作業にも取り掛かる、しかしその時、一本の無線が入る。
『長野本部から三郷1、長野本部から三郷1。地域事案、110番入電』
ノイズ混じりの冷たい電子音が、電波に乗ってスピーカーから吐き出される。
『——事案、飛び降り自殺。場所、安曇野市三郷、安曇野市立三郷中学校中庭。通報者、同校教諭。被害者は同校の男子生徒とみられる。校舎上階から飛び降り、頭部より大量の出血、意識なし。救急隊へは本部より要請済み。三郷1は直ちに現臨し、状況を報告せよ。……繰り返す——』
「え…」
「了解、相沢行くぞ」
「はい…」
僅かな不安だろうか、声がいつもより曇っていた。
雨衣を手に取り、袖に腕を通す。ふたりはパトカーに乗り、現場へ向かう。現場へは3分ほどしかかからなかったが、相沢には、とても長く感じた。
現場に到着すると、相沢ら地域課が一番乗りだった。
パトカーをすぐ近くに止め、トランクからブルーシートと規制線を取り出し、校舎内に入った。
そして、校舎内の中庭へ出た。
「ぁ……」
目の前に広がる光景を見た瞬間、相沢からは一瞬息遣いが消えた。
目線の先にあるのは、生徒が頭部から出血した状態で倒れており、その側にもうひとりの男子生徒が雨に打たれながら膝を着いて固まっていた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
『Past chapters 初任第一報』は、相沢康という一人の警察官の過去を描く物語です。
『謎解きの解答』では、どこかお調子者で、軽口を叩くことも多い彼。
そんな康にも、今の彼へと繋がる経験や、簡単には割り切れない思いがあったはずです。
本作では、事件そのものだけでなく、現場で何を感じたのか、周囲の人々とどのように関わり、何を考えながら前へ進んでいくのかという部分も大切に描いていきたいと思っています。
警察官だからといって、最初から何もかもできるわけではありません。
迷うこともあれば、戸惑うこともある。
それでも、一つひとつの経験を通して、少しずつ変わっていく。
そんな康の姿を見守っていただけたら嬉しいです。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。




