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異世界マンション

「ハァ……ハァ……ハァ……」


 逃げないと……もっと遠くに逃げないと……!!

 みんな……みんな、殺された!!

 一矢報いたけど……!!ダメだ、あの化け物達には勝てない!!

 どうして……どうして俺達ばっかりこんな目に!!


 ─森の中をひたすらに走る、後ろ方から遠く……だが確実に近づいてきている草木が揺れている音を聞きながら必死に、逃げるように慣れない体を動かす。

 その足を動かし森を抜けた─


「ぬ、抜け──」


 ─しかしその先に地面はなかった……足は止まらずにその先の崖を転がり落ちる、ズタズタに体の至る所を石や岩で切られようやく底へ到達する。

 体中負傷による血が流れ全身に痛みが走る。

 転落の影響か、体に力が入らずその場から動けず意識がだんだんと消えていくのを感じる─


 アイツらは俺を殺しにここまで来るだろうか?

 いやどちらにしても俺はこのまま死ぬ……それは痛いほどわかる。

 こんなくらい崖の下……誰にも気付かれずに死ぬのか……


「死に……たく……な、い」


 声を振り絞る、誰に聞かせるわけでもない、ただ弱音を吐くために……痛さと寂しさに涙が流れ落ちる。

 まだ死にたくない……何かをやり残したわけでもない、ただ幸せに暮らしたいそれだけだったはずなのに……


 ─そんな時、目の前に光が現れる。

 光の球……見たことも聞いたこともないその光はただ目の前をふよふよと浮いてその場に留まっていた─


 これがなんなのかはわからない……

 それでも……今生きるためにその可能性があるのなら……!手を伸ばすただ生きるために。

 光に手が触れ目の前の世界が光で満たされた。


 ※※※


 ─黒いコンクリートが敷き詰められた夜の道路、そこには1人の少女が倒れていた。

 全身傷だらけで意識はなく、まだ奇跡的に息をしているそんな彼女の周りを数名が取り囲んでいた─


『はい、はい……未確認反応を感知した場所で発見致しました。そうです異世界人です。

体中負傷しており意識がありません。

直ちに医療機関及び……異世界マンションに連絡を』


 ※※※


「知らない天井だ……」


 目を覚まして初めての感想だった。

 見たことのないほど綺麗で高い白色の天井……そして今自分が寝ているふっかふかの寝床が寝心地が良い。

 いったいここはどこなのだろうか、それに……さっきまで痛かったはずの体が傷がなかったみたいに治ってる、いったいどういうことだ?

 そう思いながら寝床に横たわりながら目線を天井から自身の横へと向ける。


 そこで見えたのは明るい外の景色、ここから外の景色が見えた。

 手前には木々が生い茂りまるで森のようだが俺がいた森とは雰囲気が明るい。

 さらに印象に残るのはその奥に見える高い建造物……あれほどまで高いものを俺は見たことがない。

 しかもそんな建物がいくつもあるのだから恐怖すら感じる。


 ─さっきまでの、意識を失う寸前までの記憶は思い出した……けれど状況が飲み込めずにそとの景色を見ながらしばらく思考が停止する─


「───」


 声が聞こえた、女の声、しかも背後から。

 すぐに……とは体を動かせなかったが、ゆっくりと体を動かし後ろを見た。

 

 人間の女……赤色の髪に長身、この体以上の胸部の膨らみを持った女がこの部屋へ入り近付いてきた。

 誰でいったいなんの目的が?場合によっては……

 

 と警戒を強める中、その女はベッドに近付いて止まった。

 不思議そうに頭を傾けたと思ったら彼女の首元に付いてる黒い物体をいじりながら声を発生させる。


「──!──!あーー」


 !?

 途中までなんと言ってるのか理解出来なかったが、とある段階でその声を言葉として認識出来るようになった。


「この周波かな?はじめまして!!」


 その女から明るい声で挨拶が発せられた。

 シュウハ?言葉は理解できるが意味まではわからない……


「いったいここは……?」


 信用は出来ないがここはおとなしくしておいた方が得策、いざとなれば…


「ここはあなた達が住んでいた世界とは別の時空にある、こちらの言葉で言うと異世界。

あなたはどういうわけかこの世界に飛ばされてきた異世界人。

そしてここは病院、怪我や病を治すための建物、あなたはこの世界に来た時に傷を負ってましたので治しておきました」


「はぁ……?」


 いきなり別の時空だとか異世界だとか言われても理解ができない……この女の言葉を信じるなら、ここはさっきとは違う場所……ということなのだろうか?

 そして俺の体の負傷を治したのはこの建物のおかげ?いったい何が目的なんだ?


「私は峰護ほうご 良世いせ

あなた達、異世界人を元の世界に帰るまで保護する、それが私達の仕事。

あなたの名前を教えてもらえる?」


 明るく峰護良世と名乗った女は俺にも名前を尋ねてくる、名前は……確か。


 ──リディア!!

 そう呼ばれてたな。


「──リディア」


「リディアさんだね、わかりました。それじゃあ急で悪いけど、これからあなたが住む住居まで案内したいけど、大丈夫?」


「わかりました」


 ─名残り惜しむかのようにベッドから立ち上がり、リディアは良世の後についていく。

 部屋から出る際、入り口付近に設置している鏡には。


 肩まで伸びた金髪に青い瞳の少し小柄めの少女が部屋から出ていくリディアの姿が映されていた。


 細長く清潔感のある綺麗な通路を通り2人はそのまま外へ、人の気配をリディアはそこら辺で感じ取れたが姿までは見えはしなかった。


 外に出るとすぐに黒い車が2人の前に用意されていた─


「この車、という乗り物で行くから乗って!」


 ─良世はその黒い物体の後ろの方についてる扉を開き、リディアに乗るように伝え、自身は助手席へと座った。

 恐る恐るリディアは開かれた扉を通り車の中へ、車の中には良世の他にも運転席にグラサンのスーツ姿の男が座っていたが彼は口を開かずに自身の仕事に準じている。

 リディアが乗ってすぐに車は出発する─


「わわわっ!!?なになに!?」


 ─いきなりの体験したことのない車のスピードにリディアは驚きを隠せずに反応する─


「これがこの世界の乗り物よ。目的地に着くまでの質問なんだけど……いい?」


「な、なんですか……?」


「あなたの世界について教えてもらえる?どういう生活をしていたとか、どんな技術があったとか?それとあなたがこの世界に来る直前の話とか」


 俺の世界について……?

 俺の世界……俺の世界は……


 ─突如としてリディアの脳裏に蘇るこの世界に来る直前の出来事……あの絶望を、あの恐怖も全て振り返り、その場でえずき体を震わせて全身から冷や汗をながす─


「……ごめんね、多分思い出してくない事だったよね。無理に話さなくて大丈夫だよ、言える時になったら彼とかに言ってほしいな」


 ─リディアのそんな様子を見て良世は彼女のトラウマであることを察して質問を中断する。


 そのまま車は道を進む、リディアが窓から見る景色は自身の世界とはまるで違う。

 大都会……多くの建物が流れていく光景は初めて見る景色だったのだ。

 しばらく経った後、車は停止する─


「着いたよ!!」


 ─良世に促され、リディアは車から降りる。

 彼女達の前には白くて大きい、建ってからそこまで年月が建っていないような少し新めなマンションが建っていた─

 

「ここが!あなたのここでの家!異世界マンションだよ!!」


「相変わらずテンション高いですね」


 嬉しそうにマンションを紹介する良世の元に1人の男が現れた。


「出迎えてくれたんだ、嬉しっ!

あっ彼がこのマンションの管理人……まぁマンションに関係する事なら言えばなんでもやってくれるから!!」


「そんな人を便利屋みたいに……はじめましてリディアさん、私がこのマンションの管理人を務めている者です」


 ─テンションの高い良世とは違いマンションの管理人という人は落ち着いたような態度で、黒く短い髪に黒縁のメガネをかけ、少し口と顎髭が生えたツリ目の男だった─


「じゃああとよろしくね!また飲み行こ〜」


「彼女の件は分かりましたが、飲みは嫌です。酔っ払うと貴方めんどうなので」


 ─と良世からの絡みをバッサリと切る。

 そのまま良世は乗ってきた車に乗り込みマンションを後にし管理人とリディアはそれを見送った─


「それではご案内……の前にこちらをお付けください」


 そう言って管理人は黒い物体をリディアへと差し出した。


「これは?」


「これを付けていると他の異世界人の方々の言語を翻訳……簡単にいうと他の人達と会話が出来る物です。

これを服とかに常に身につけてください、この先の結界も通れるようになります。

一応私はネクタイの裏に付けてます」


 ─スーツ姿の管理人はネクタイを指差しながらその物体について語った─


「わ、わかりました」


 ─リディアはそう言って服の襟部分にその物体を付けた─


「それでは行きましょう」


「は、はい」


「この先は一般人払いの結界がありますが、気にせず通ってください」


 ─今度は管理人に連れられマンションの敷地を近付いてふみ出したときだった、明らかに雰囲気が変わる、風景は変わらないが不思議な感覚……まるで別空間のような感覚がした。


 管理人は先導するように前へ歩く、マンションまでのコンクリートの道の脇に草木が生えており豊かな自然が出迎えていた。


 そんな風景を見ているリディア達の前から1人の男が現れた。

 だが1人、とカウントするのは間違いではある─


「さぁ今日も頑張ろうかハニー♡」


「まったくそんな事言われたんじゃ今日も調子伸びちゃうよ〜♡」


 ─爽やかな感じの好青年……の肩に白い蛇が乗っており、彼と熱〜くイチャイチャな会話をして2人だけの空間が生まれている。

 そんな2人の空間に管理人さんが割って入った─


「どうも動野さん、ラミーネさん、隠匿魔法かけ忘れてますよ」


「あっ管理人さん!おはようございます!ハニーにあまりにも夢中になってて気付きませんでした、すみません!」


「ソッチのは新しく来た奴かい?」


「ええそうです、こちら新しくここに住むリディアさんです。

リディアさんこちらは夫婦の動野さんと蛇のラミーネさんです」


「どうも……」


動野どうの 好好奇すすきです。これからよろしくね」


「私はラミーネだよよろしくね、蛇っ私達は仕事に行ってくるよ」


「はい、いってらっしゃいませ」


「姿は見えなくてもいつも感じているからねハニー」


 ─そう言いながら動野は指先をラミーネに向け次の瞬間にはラミーネの姿が見えなくなり、そのまま動野は管理人達から離れ結界の外へと歩いていった─


「彼らは元々別の世界同士の方々でしてね、種族関係なく恋に堕ち、今では動物園……様々な動物が見られる場所で共に働いています」


「そうなんだ……」


 別世界同士の婚姻?そんな物までこの世界ではあるのか……

 

「……!わぁ、綺麗」


 少し考えてる最中に目に映る綺麗で様々な種類の色の花が一面に咲き誇る花畑。


「アレはフェアリーさん達の花畑ですね。彼女達はああいった花が好きでして、あそこの一区画に花を埋めてもらったんですよ」


 フェアリー……?さん達ということは複数なのだろうか?

 それにしたって綺麗だ、少しくらい貰っていきたいものだ。


「無いとは思いますが、あの花畑を踏み荒らさないように。フェアリーさん達が怒ってぶっ飛ばされるので」


 管理人からのその発言を聞いて伸ばそうとした手をすぐに引っ込める。

 よくはわからないが、やめといた方がいいと直感が告げていた。

 そんなこんなでマンション呼ばれる建物までもうすぐそこまで来ていた!そんな時にまた人影がマンション内から現れ出てきた。


「あっ管理人さんおはようございま〜す!!」


 金髪で少し逆立った髪型の青年はマンションから出てすぐ見つけた管理人に元気よく挨拶をした。


「おはようございますリューヒさん」


「あれ?そっちのかわい子ちゃんは新しい子」


「ええそうです、リディアさんです」


「どうも俺リューヒ!元の世界じゃ勇者やってました!!これからよろしくな!!」


「ゆ、勇者!?」


 勇者ってあの魔物とかを倒すっていうあの……!?


「仕事大丈夫ですか?」


「あっそうだ!じゃあ俺はこれで……あと最後に忠告なリディアちゃん、ここじゃ管理人さんに喧嘩は売らない方がいいぜ」


 気が付いた時にはリューヒは顔を近付けてヒソヒソと囁くように言ってくる。


「そんな怖がらせるような事言わないでください」


「まぁそういう事だから!じゃあな!歓迎会やろうな!!」


 そう言いながらリューヒと呼ばれた元勇者は走り去るように去っていった。

 忙しい男だった。


「まったく……ではマンションに行きましょう」


 ─そして2人は足を踏み入れエントランスに入る。


「ここは基本的にここからマンションへ出入りしていただくエントランスになります」


「おや?新入りさんかい?」


 管理人がエントランスを紹介して途中でまた1人の男が現れた、その姿を見て背筋が凍る……

 清い水のような青い肌にこちらの全てを見透かすような黒い瞳、背後には円状の水の塊を浮かべた神秘的な人。

 いや俺でもはっきりわかる、この人は……コレは神だ。


「ウオズミさん、そうですこちらリディアさんです」


「そうかい、私はウオズミ。よろしくね」


 紳士的で優しい言葉遣い、上位存在というのはここまで余裕のあるものなのか。


「では私達は彼女を部屋まで案内するのでこれで」


「彼女?あぁそうかい。それなら気を付けていってらっしゃい」


 ─含みを持たせたようなウオズミの言葉を聞き、2人はその場を後にしマンションの三階までエレベーターで上がり、そして307号室と書かれた扉の前へ着く─


「ここがあなたに住んでもらう307号室になります。では早速入りましょう」


 ─管理人はスーツのポケットから複数の鍵を取り出し、その中から一本の鍵を持ち扉の鍵穴へと差し込んで回しカチャッと音が鳴り扉が開いた。

 そして2人は307号室へ入っていく。

 1LDKの1人で住むには少し広めの部屋、日差しもよく入りベランダにも出られる良物件だ─


「こちらがあなたの部屋です、色々と軽く説明していきます。

これは蛇口左右に回して水を出し入れします、使い終わったら閉まってください。

それからこれはコンロという火を付けるもので〜、それでこっちは電子レンジで〜、それでこれは前に住んでた人が持ってたグルメスパイザー……は別にいいか、それでこちらは〜」


 など管理人は部屋にあるさまざまな物の説明を軽く正確に行っていた。

 部屋の機能以外にもゴミ出しというものについても色々と話し、外は暗くなっていった。


「最後にこのマンションでの注意事項を、ざっくり分けて3つあります。

1つ、人に危害を加えてはならない

2つ、故意にマンションへの破壊行為は禁止

3つ、……これは出来ればでいいですが、住民同士仲良くしてください

みなさんいきなり知らない場所に来て心細い人もいます。

ですので同じ境遇である住民の方ならその辛さも分かち合えるので……」


「さて、長い説明を聞いていただきありがとうございます。

もう夜遅いですね……今日は私が夕飯を作らせてもらいますが、何か食べたいものとかはありませんか?」


「い、いいえ……」


「そうですか、では苦手な食べ物とかはありませんか?」


「それも大丈夫です」


「わかりました。では作ってくるのでしばらく部屋でお待ちください」


 ─ようやく長い説明が終わり、管理人は一回、部屋から出ていって部屋には1人になる。

 そしてリディアはその場に座り込む─


「はぁ〜」


 色々なことがあった。

 死にかけたと思ったらいきなり別の世界に飛ばされるだなんて。

 しかもこのマンションでも色々とありすぎてまだ情報の整理がついていない。

 部屋から見える外を見る……あたりは暗くなっているのに下の大きな集落では多くの光が灯ってまるで下に星があるみたいだった。

 さてここからどうするか……


 コンコンッ


「リディアさん、管理人です。夕食をお持ちしました」


 ─扉からノックの音が響き、管理人の声が聞こえた。

 考えに耽りすぎてかなりの時間が経っていたようだ。


 ガチャリ


 扉が開く音が聞こえて、リディアは玄関へと足を運ぶ。

 そこにはスーツを脱いでタッパーを2つ抱えてる管理人が立っていた─


「お待たせしました。こちら肉と野菜の炒め物と白米になります」


 ─管理人はそういって2つあるタッパーから1つをリディアに手渡してきた─


「その……そのもう一つは?」


 ─疑問に思ったのかリディアはまだ管理人の手にあるタッパーについて聞く─


「あぁ、これはとある住民に作るように頼まれまして……これからその人に会いにいくのですが、リディアさんも挨拶に行きますか?」


「わ、わかりました」


 とりあえず着いていこう。

 そうして部屋を出て上の階層まで歩き403号室と書かれた部屋の前まで来た。


「とりあえずここに置けば……」


 管理人は手に持ってたタッパーを少し扉から離した床に置く、すると少しの間があり扉の奥から何かが走ってくる音が聞こえた。


 ガチャッッ!!


「わぁ管理人さんのご飯だ〜!!」


 扉から飛び出してきたのは白髪で片目が隠れるほど長い髪の小柄で白くだぼっとした服を身にまとった少女……ただそれ以上に目を引いたのは背中についてる大きな翼だった。

 鳥のものとは違う……ウオズミとは違うがこっちも神秘的な雰囲気を感じた。


「今日のご飯はなに?」


「今日は回鍋肉ですよ」


「わ〜!美味しそ〜!!ありがと!管理人さん!!

あっ……その……その人、は?」


 管理人との楽しそうな会話をしていたその少女はこちらに気付いた瞬間、明るい口調から一変、少し口籠るように暗くなった。


「リディアさん、新しく来た人です」


「そ、そうなんだ……じゃあ私はこれで、配信の準備しなきゃ……」


 アセアセと少女は部屋の中へと戻っていった、ハイシン?とはいったいなんなのだろうか?


「あの人はメカエリンさん、少し人見知りな天使です、Vtuber……なんて説明していいのかわかりませんね……まぁそういった事をしてる人です」


 管理人が説明に困ってるのか少し悩んでいるようだった。

 テンシ……とはなんなのだろうか?さっき部屋にあった電子レンジの電子と何か関わりでもあるのだろうか?

 Vtuberというのもよくわからない……


「では部屋に戻りましょうか」


 少し考えてる時に管理人は歩く、おそらく俺の部屋に案内してくれるんだろう。

 管理人の背中を見ながらその後ろを歩く。

 色々とあったがこの人はいろんな住民から慕われているし、俺の世話も焼いてくれる……


 この人なら…………


 "乗っ取ってしまってば平和に暮らせる"


 ─リディア……そう名乗った少女は少女ではない、それどころか人間ですらない。

 複数の触手を持ち、殺した相手の皮を剥ぎ自分が着てその人物になり変わる魔獣トゥラーズであった。

 ちなみに彼はオスである。

 現在の少女も前の世界のとある冒険者パーティの1人を殺して奪った姿である。

 そんなトゥラーズはリディアの皮を脱ぎ魔獣の姿となり、無数の触手を管理人に向けて真っ直ぐ放った。

 

 生きるために!!


 くるんっ


 しかし触手が当たる直前、管理人はくるっと体を回らせ触手を避けそのまま片手で自身に向かってきていた触手を全て掴んだのだ。


 しかもその次に放った言葉は─


「困りますリディアさん、ちゃんと種族を申請してくれないと後で訂正するの大変なんですよ」


 ─襲われたことよりも自分が人間じゃない事を隠していたという事を指摘していた─


「何いってやがる!!?俺はお前を殺して皮を奪ってお前に成り代わってやるんだよ!!」


「別に私になったところで大変だと思うのでやめておいた方がいいですよ」

 

「うるせぇぇぇ!!」


 わけわからない事を言ってる管理人に怒りが湧き上がり、触手の数を増やして猛追する。

 管理人は持っていた触手を手放し回避へと移り攻撃を全て躱しきり床などに触手での傷が入った。


「なっ……!!」


 嘘だろ!?あんなに多くの触手で攻撃したのに一才当たってない!?


「マンションに傷が……」


 ─管理人は傷付けられた床を見てそう呟く─


「お前何もんだよ!!」


「別にただの人間ですよ、生まれも育ちもこの世界のね。もうやめましょうリディアさん」


 何事もないかのように言葉にする管理人。

 自分は無害ですをアピールするように両手をあげている。

 でも無害な人間なんていない!人間は狡猾で残忍だ!あのパーティがそうだったように!!

 俺達はただ巣穴で仲間達を平和に過ごしていただけなのに!!それなのに奴等はきて仲良くなりたいだなどと宣って!!その挙げ句に油断した仲間達を殺していった。

 奴らの仲間の1人を不意打ちで殺せたけど怒りに燃えた奴らの仲間に追われて俺は……


「人間はいつだって俺達の平和の邪魔をする!!俺達はただ平和に生きたかっただけなんだぁぁぁぁ!!」


 ─そう言いリディア?は触手を空間いっぱいにまで伸ばして管理人へと襲い掛かろうとする─


「仕方ないですね。少し、痛い目に合わせます」


 ─管理人に向かって放たれた触手、さっきよりも5倍以上の数の触手を……管理人は全て避け切りながらリディアへと近付く─


「馬鹿な!?馬鹿な馬鹿な!!?」


 ─リディアが驚く間にも管理人は触手を全て掻い潜って懐へと潜り込み、掌底をリディアの腹部に喰らわし、その衝撃でリディアの足は地面から離れる。

 その隙に管理人は回し蹴りを追加で喰らわせリディアを蹴り飛ばした。

 地面に倒れ、完全に隙が作られる。その隙の間に管理人は急接近して片手をリディアへ


 リディアは目瞑った、自分は死ぬのだと……こんなわけわからない男に圧倒されて死ぬのだと……


 だがリディアは死ななかった、おそるおそる目を開けるとそこには─


「大丈夫ですか」


 管理人が手を差し伸べてきた。


「もうやめましょう、貴方が元の世界で何をされたのかは知りません。ですがここには貴方を脅かす存在はありません。

 もしいても私達が護ります、ですので落ち着いてください」


 明らかに殺せる好きだったのに管理人は俺の事を殺そうともせず身を案じてくれた。

 もしかしたら……俺達の世界の人間とは違うのかもしれない……

 今日この世界であった人達がやさしいだなんて、どこか気付いていた。

 でも、だからこそ俺は……


「さっきまでの姿は……俺を殺しに来た奴を返り討ちにしてその皮を剥ぎ取って被った姿だ。

あんたらはやさしい人間なのかもしれないが、俺はあんたらとは違って人間を殺してる……

そんな俺なんかが……」


「別に元の世界で何やっても咎めませんよ」


「えっ?」


「こちらの世界で罪を犯したのならそれは別の話ですが、ここでちゃんと生きてくれるのであれば我々はそれを咎めません。

元の世界の罪は元の世界に帰った時に裁かれてください」


「じゃあ俺はここにいてもいいのか?」


「えぇ、そりゃもちろん色々とやってもらう事はありますけど、貴方が元の世界に帰るまでは好きにこのマンションにいてくれても構いません。

だってもうここは貴方にとって新たな家なのですから。

改めて言います。

異世界マンションへようこそ」


 涙が流れてくる……

 誰かに、同種にだってここまでやさしくされたことなんてない……それでもこの人は冷たく怖い表情をしたこの人は表情とは裏腹にやさしい心を持って俺に手を差し伸べてきたんだ。


「というよりあなたに攻撃したのに大丈夫なんですか?」


 少し気になってた事を聞いた、元の世界での罪は問わないというが今さっき俺は管理人さんに攻撃をしてしまった。


「別にこんな事なれてますから大丈夫ですよ。

この世界に来たばっかりで動揺とかすることもあるでしょうし、それに私は丈夫なので問題はないです」


 とやさしい口調で擁護してくれる管理人さんの手「俺は触手をやさしく置きその手に掴まれる。


 あぁ、この世界で俺の新しい生活が始ま……


「とはいえ、貴方約束を、破りましたよね?」


「へっ?」


 ─ぐいっとリディアの触手を引っ張って管理人は顔を近付けて床を指差す、そこには先ほどの触手で出来た傷跡がいくつもついていた。


 その時リディアははっ!とした……

 2つ故意にマンションの破壊は禁止。

 それを見事に破っていたのだ。


「ということで罰は受けてもらいますね」


 その時の管理人さんの表情は無表情……だが、あの顔を見た瞬間、戦闘時以上の恐怖を感じ取った。



 夜が明け朝日がマンションを照らす……


「よーし!今日も一日頑張るぞ〜ってあれ?」


 ─マンションから出てきたリューヒが外にいる人を見て驚く─


「ってなんだよリディアちゃん〜もう速攻で管理人さんに喧嘩売ったのかよ〜!だから言ったのに……」


「うぅ……うっ」


 ─リューヒの目の前にいたリディアはマンションを傷つけた罰により……

 マンションの前をほうきで掃除させられていたのだ。それも1ヶ月間という期間を設けられて─


「まぁせいぜい頑張れよ〜」


 楽しそうに笑いながらリューヒは応援して仕事へと向かう。


「くっ……くっそー!!もう人間に逆らうのはコリゴリだ〜〜!!」


 ─リディアの叫びがマンションに響き渡る。


 今日も異世界マンションは平和です─

 こちらの作品は読み切りという形になっており、皆様からご好評であれば不定期ではありますが続きを書きたいと思っております!

 どうぞお気軽にご感想を!!

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