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異世界で社長になる。   〜5歳児から始める異世界ビジネス革命〜  作者: Mizunoki.Kawai


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ライムがおやすみの日

## 99話 ライムがおやすみの日


【クララ視点】


みんなで大事な会議をしてから、3日たった。


そのあいだ、ライムが洗い屋に顔を出していないことを、私はさみしく思っていた。


でも、ライムならきっとどこかで『すごい作戦』を考えてるんだろうって、そう思うようにしていた。


その日の朝。


洗い屋の店先で、たらいの湯気を見ながら、私は母さんに聞いた。


「ねえ、お母さん。最近ライム、あんまり来ないよね」


母さん――サクラは、手を止めて少し眉を寄せる。


「そうね。さっきサラさんが通りがかったわよ。ライム君、熱を出して寝込んでるって」


「……やっぱり」


胸の奥が、ぎゅっとなった。


〈いっぱい、やりすぎちゃったんだ〉


前にも似たことがあった。


顔が真っ青で、『大丈夫だよ』って言いながら、全然大丈夫じゃなかったあのとき。


「私、お手伝いする!」


気づいたら、口が勝手に動いていた。


母さんが少し目を丸くする。


「お手伝い?」


「うん。ライム、今きっと『いっぱい』なんだよ。だから、私たちでできるところをやるの。ね?」


母さんはふっと笑って、うなずいた。


「そうね。……でもまずは、これを持って行ってあげたら?」


テーブルの上には、焼きたてのクッキーの山。


母さんと一緒に焼いたものだ。


「うん!これ、持っていく!」


私は布で包んだクッキーを胸に抱えて、炎の鍋亭に向かって駆けだした。


店の戸を開けると、香ばしい匂いと一緒に、いつもの声。


「いらっしゃ……あら、クララ」


カウンターの向こうで、サラさんが振り向いた。


「サラおばさん、こんにちは!ライム、大丈夫?」


「ええ。熱が出てるだけだと思うわ。食べるものは食べてるしね。ただ……最近忙しそうだったものね」


サラさんは、少し心配そうに笑う。


「うん。ライムはすっごくすごいけど、まだ小さいんだよ」


思わず口から出た。


サラさんが目を細めてうなずく。


「そうね。少し休ませてあげないとね」


私は包みを差し出した。


「これ、渡してほしいの。お見舞いのクッキー。お母さんと一緒に焼いたんだ」


「まあ、ありがとう。きっと喜ぶわ。……あ、レノなら居間にいるから、行ってきていいわよ」


「うん!」


私はうなずいて、居間のほうへ小走りで向かった。


居間では、レノさんが紙を並べて何かを書いていた。


「レノさん!」


「クララさん、こんにちは」


レノさんが顔を上げて、穏やかに笑う。


「ライム、大丈夫そう?」


「はい。ライムさんは熱を出してしまったみたいですが、食事も取れていますし、大丈夫だと思います。今は、ひとまずしっかり寝てもらっていますよ」


ほっと胸をなで下ろす。


「よかった……。ライム、『いっぱい』になっちゃったからさ。私、お手伝いするよ!」


レノさんは少しだけ目を丸くしてから、うなずいた。


「そうですね。私たちで進められるところは、進めておきましょう」


「うん!この前の会議から、なにか進んだ?」


「はい。テトさんとサラさんが、それぞれ情報を集めてきてくれています」


そう言って、レノさんは数枚の紙を手元にそろえた。


「テトさんのほうは、配達の相談がどれだけあるか。サラさんは、製造所と販売所の候補地についてですね」


「教えて!」


「もちろんです」


レノさんは、テトお兄ちゃんとサラさんの話を、ゆっくり説明してくれた。


薪、酒樽、洗濯物、鉱山の道具や水。


マルタの薪屋、ベックさんの酒屋、市場の店、鉱山、パン屋、仕立て屋……。


聞いているうちに、頭の中で、街の地図と荷物が線でつながっていく。


「じゃあ、テトお兄ちゃんのほうから考えよっか!」


私は椅子の上で少し身体を前に出した。


「今は、4人で馬車4台で考えるね?テトお兄ちゃんとヤト、それからサントさんのところの2人」


「はい。馬そのものはまだそろっていませんが、構想としては4人と4台ですね」


「えーと、今は洗い屋の配達と、サントさんの酒樽と、ランチボックスだよね」


「そうです。ランチボックスは、今のところ配達と販売を兼ねています」


〈レノさん、細かいところにちゃんと目を向けるなあ〉


「だいたいから考えるよ!」


「はい!」


私は紙をのぞき込みながら言った。


「馬車4台だから、『向いてるの』と『向いてないの』があると思うの」


「向き、不向きですか」


「うん。手紙は馬車いらないと思う。市場組合からなら、人が手で運んだほうが早いところもあるよね。パン屋さんと仕立て屋さんの荷物も、小さいのが多いから、馬車で行くと逆にもったいない」


レノさんが、ふむ、と頷きながら紙に線を引いていく。


「手紙は行き先も多いですし、件数も多い。確かに馬車向きではないですね。パンや服も、単価と手間を考えると、今は優先度は低そうですね」


「それから鉱山。遠いし、量も多そうだよね。テトお兄ちゃんたちだけで全部はやれないよ」


「おっしゃる通りだと思います。鉱山は、いずれ専用の体制を整えたほうが良いでしょうね。今は、その一歩手前、と考えたほうが良さそうです」


「うん。じゃあ、今は――」


私は指を2本立てた。


「マルタさんのところと、ベックお爺さんのところだね」


レノさんが、その2つの名前を丸で囲む。


「マルタの薪屋さんと、ベックさんの酒屋。どちらも荷物が重くて、定期的に動くところですね」


「そうそう。薪も酒樽も、馬車がないとすっごく大変。しかも炎の夜明けともつながってるから、お約束もまとめやすいよ」


レノさんが、ふと視線を上げる。


「母友ネットワークからの相談については、どうしますか?」


「母友ネットワークはね……『空き時間で』やるのはどうかな?」


私は両手のひらを上に向けて見せた。


「明日までとか何時までとかは、きっちり約束しないの。『この日のこのあたりで、誰かが空いてたら運ぶ』って決める。『いつでも絶対』にしないで、空き時間で運べる分だけにすれば、無理しないで済むよ」


レノさんは少し目を丸くしたあと、ふっと笑った。


「それは良いですね。『いつでも確実』ではなく、『できる時に』という前提で引き受けるわけですね」


「うん。母友たちはいっぱいいるから、がんばりすぎない約束にしといたほうが、きっと長く続くよ」


レノさんは『配達の日時指定は不可』と紙の端に書き込んでいる。


レノさんと話していると、ちょっと不思議な気持ちになる。


言っていることは違うのに、どこかでライムと話しているみたいだ。


〈レノさんも、すごいんだ〉


地図と数字を頭の中に並べながら、ちゃんと人のことも考えてる。


「では――」


レノさんは紙をそろえ直した。


「今の話で、優先してお話を聞きに行く相手がはっきりしましたね。マルタさんと、ベックさんです」


「うん!」


「今の内容をもとに、予算と簡単な計画を書いていきたいです。マルタさんとベックさんに、どれくらいの荷物を、どのくらいの頻度で運べそうか。聞き込みをしに行きませんか?」


「お手伝い、任せて!」


まとまってきたので、私はいつものように背筋を伸ばして、ピンと手を挙げた。


「はい!」


レノさんが、真面目に返事をする。


「よろしくお願いします」


「えっと、まず――」


私は指を1本立てた。


「1つめ!テトお兄ちゃんたちは今は4人と馬車4台。洗い屋の配達と、サントさんの酒樽と、ランチボックスがメイン!」


指を2本に増やす。


「2つめ!手紙とパンとお服は『今はおやすみ』。馬車いらない、ちっちゃい荷物は、あとで考える!」


さらに3本目。


「3つめ!鉱山はしょうらいの大仕事。今はテトお兄ちゃんたちだけで全部はやらない。ちゃんと運べるようになってからにする!」


最後に4本目。


「4つめ!今いちばん手伝うのは、マルタさんとベックお爺さん!重い薪と酒樽は、馬車があったほうがぜったい楽だもん!」


私は指をぎゅっと握りしめる。


「母友ネットワークは、空いてる時間で運ぶ係。『いつでも絶対』じゃなくて、『できる時に』のお約束にする!」


言い終えると、胸の前で両手をぽんと合わせた。


「――こんな感じ!」


レノさんは、大真面目にうなずいた。


「とてもわかりやすいまとめでした。では今の内容を数字に落とし込むために、マルタさんとベックお爺さんに聞き込みですね」


「はい!二人から今、どれくらい困っているかを聞いてくるんだね」


「そうです」


〈ライムが起きたとき、いっぱいじゃなくて、『遊びながらできる』ところにしてあげるんだ〉


窓から差し込む光が紙の上を照らす中、私とレノさんの小さな会議は、静かに、でも着実に進んでいった。

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