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異世界で社長になる。   〜5歳児から始める異世界ビジネス革命〜  作者: Mizunoki.Kawai


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母友ネットワーク出動

## 98話 母友ネットワーク出動


【サラの視点】


珍しく、私にちゃんとした仕事が回ってきた。

弁当の製造所と販売所の場所探し。


〈うちの子、また何でもかんでも自分で抱え込もうとしてたんだから〉


でも今回は、レノとクララがうまく周りに振ってくれた。

ここで母親の私がしくじるわけにはいかない。


「まずは……レノね!」


細かいことを考えるのは、昔から嫌いだ。


「レノ、ちょっといい?」


帳場の横で紙を並べていたレノが顔を上げた。


「はい、サラさん。どうしました?」


「弁当の製造所と販売所の場所探しの件よ。どんなところを探せばいいか、教えてもらえる?」


レノは少し考えてから、逆に聞いてきた。


「そうですね。まず、どれくらい作る想定でしょうか?」


「今は200で即完売。鉱山からも200は欲しいって話が出てるわね。市場の広場だと、外で働く人だけじゃなくて、子どもが多い母親とか、作るのが大変な人も買いに来てるみたいよ」


「なるほど。住宅の少ない市場側でもそれだけ売れるなら……」


レノは紙の上にさらさらと数字を書いていく。


「製造所としては、いずれ1日2000食くらい作れる広さがあると良いかもしれません」


「そんなに?」


「はい。市場周辺で400、住宅地側でも400、鉱山で200とのことですが鉱山以外にも人は多いはずです。今後を考えれば、400以上は伸びるでしょう。全部合わせて最大1200〜2000食を見込んでおいた方がいいと思います」


指を折りながら、落ち着いた口調で続ける。


「はじめからフル稼働する必要はありません。賃料との相談になりますが、炎の鍋亭のおよそ倍の広さを目安に。販売所を増やすことも考えると、それくらい余裕があった方が良いですね」


「うちの倍くらいね。わかったわ!」


細かい数字は頭に入らないけれど、「倍くらい」という言葉だけはしっかり掴んだ。


私はエプロンを外して羽織をつかむと、そのまま炎の鍋亭を飛び出した。


向かうのは、市場通りのはずれにある不動産屋だ。


「いらっしゃいませ。ああ、サラさん」


カウンターの向こうで、いつもの親父が顔を上げる。


「市場の周辺で、うちの倍くらいの広さで、飲食ができる物件ってある?」


「炎の鍋亭さんが、だいたい150平方メートルくらいですからねえ……」


親父は帳面をめくりながら、指でなぞっていく。


「候補が二つありますよ。まず一つ目。組合のすぐそばで、元食堂跡。広さは300平方メートル、賃料は月に金貨3枚」


〈組合のすぐそば。悪くないどころか、かなりいいわね〉


「もう一つは、組合から歩いて5分ほど離れますが、こちらは400平方メートル。賃料は月に金貨2枚。立地は少し落ちますが、馬車の出入りはしやすい場所です」


親父は簡単な地図を描いて、二つの位置を示してくれた。


「ありがとう。そのメモちょうだい」


「はいはい。二店舗目ですか?」


「違うわ。お弁当の製造所よ。作って運ぶ用の」


「でしたら、私は候補1をおすすめしますね」


親父は、組合そばの印をとんとんと叩いた。


「製造だけじゃなく、昼は店先で販売もできる。人通りもありますし、弁当ならすごく目立ちますよ」


「なるほどね。よくわかったわ。これはみんなに見せて相談する」


礼を言い、不動産屋を後にする。


次に向かうのは、母友たちが集まる広場だ。


洗濯籠を持った女たちや子どもを連れた母親たちが、あちこちで立ち話をしている。


「みんな、元気?」


「あらサラ!」


「元気よ」


「この前のお弁当、うちの子がすっかり気に入っちゃってね」


「弁当の仕事、私にも回してよ」


口々に言われる。


私が笑うと、さらに声が増える。


ほんと、ここに来ると息つく暇もない。


「ええ、今準備してるから、もうちょっと待っててちょうだい」


「本当に? 楽しみにしてるわね」


「待ってるからね」


〈人だけなら、いくらでも集まりそうね〉


ちょうどいいので、そのまま本題に入った。


「それでね。今ちょうど、弁当の販売所になりそうな場所を探してるの。炎の鍋亭の近くの住宅が多い辺りで、洗濯や子どもの世話の合間に、すぐ弁当を買いに行ける場所。どこか心当たりない?」


「そうねえ……炎の鍋亭で売るんじゃ駄目なの?」


「悪くはないけど、うちは夜の店もあるでしょ。仕込みと弁当でごった返したら、さすがに限界が来るわ」


「それもそうね」


少し考えた母友の一人が、ぱっと顔を上げた。


「ベックさんのところなんかどう? 酒屋の」


「ベックの店?」


「そう。私たちもお酒を買いに行くし、旦那たちもよく寄るじゃない。あそこの店先、昼間はわりと空いてるのよ。あそこで昼だけ弁当を並べたら、みんな寄りやすいと思うわ」


頭の中に、樽の並ぶ店先が浮かぶ。


〈確かにスペースに余裕があるわね〉


「いいわね、それ。すごくいいわ。ありがとう」


「もし話を通すなら、私たちも一緒に行ってあげる」


「その時はお願いするわ」


手を振って広場を後にしながら、思わず笑ってしまう。


〈母友ネットワーク、やっぱり頼りになるわ〉


残るは鉱山だ。


通りで荷物を降ろしているヤトを見つけて、そのまま声をかけた。


「ヤト、ちょっといい?」


「サラさん? どうしました」


「鉱山で弁当の販売ができるような、店の跡地とか、屋根付きの場所ってある?」


「うーん……あの辺は、お店っぽいところはほとんどないですね。小屋はありますけど、道具置き場とか、作業小屋ばかりで」


「土地は?」


「土地なら、余ってる場所はあります。少し均せば、馬車も停められると思います」


「そう。じゃあ、鉱山側は建てるしかないわね」


まあ、細かいことは気にしない。


「教えてくれてありがとう。また今度、一緒にどの辺がいいか見に行きましょう」


「はい!」


夕方、炎の鍋亭に戻ると、レノが帳場で羽ペンを走らせていた。


「レノ、ただいま。場所探し、ひと通り聞いてきたわよ」


「おかえりなさい、サラさん。ぜひ教えてください」


私は椅子に腰を下ろし、一つずつ指を折っていく。


「まずは市場の不動産屋。うちの倍くらいって言ったら、候補が二つ出てきたわ」


「お願いします」


「一つ目は組合のすぐそば。300平方メートル、元食堂跡で、賃料は月金貨3枚。二つ目は組合から歩いて5分で400平方メートル。こっちは月金貨2枚」


レノは紙の端に「候補1」「候補2」と書き、面積と賃料を書き込んだ。


「次に、住宅地側の販売所。母友たちに聞いたら、酒屋のベックさんの店先が良さそうだって。昼間なら樽を少し動かせば、弁当を並べられそうよ」


「なるほど。既に人が集まる場所を借りる形ですね」


「そういうこと。それから鉱山。ヤトに聞いたら、お店の跡地とかはないけど、土地なら余ってるって。平らにすれば馬車も入れそうよ」


「つまり、鉱山側は建設前提、と」


レノは短くまとめて、紙の別の欄に書き足した。


「こんなところね、今日外で聞いてきた分」


「とても助かります」


レノは、テトからの聞き取りの紙と、今のメモを並べ直した。


紙の上には、「製造所候補」「住宅地販売所」「鉱山拠点」「賃料」「面積」といった文字が整然と並び始める。


私はその肩越しに、それを眺めた。


〈うちの社長、これ全部一人で抱え込もうとしてたのよね〉


「さあレノ。うちの社長がびっくりするような『提案書』、一緒に作りましょうか」


「ええ。炎の夜明け商会の新しい拠点計画として、きちんと形にしましょう」


私たちは目を合わせてうなずいて、それぞれ羽ペンを取った。


紙の上に、新しい事業の形が少しずつ描かれていく。

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