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異世界で社長になる。   〜5歳児から始める異世界ビジネス革命〜  作者: Mizunoki.Kawai


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配達のついでの聞き取り

## 97話 配達のついでの聞き取り


【テトの視点】


炎の鍋亭を飛び出すとき、ライムに言われたのは一つだけだった。


「配達のついででいいからさ、どこにどんな運んでほしい話があるか、聞いてきてほしい」


俺――テトは、馬のたてがみを撫でながら、小さく息を吸う。


〈主任って言われたけどさ……俺なんかに務まるのかな〉


厨房じゃ、仕込みで迷惑をかけてばっかりだった。

でも、馬に乗って荷物を運ぶのは嫌いじゃない。


それに、ライムが『任せる』って言ってくれた仕事だ。


〈俺だって役に立つんだ。ちゃんとやんねえとな〉


今日はいつもの薪と洗濯物、それから弁当配達。

その合間で、ついでに運んでほしいものがないか、聞いて回る一日だ。



最初の配達先は、マルタの薪屋だ。


馬車の荷台には、いい匂いのする弁当箱と、洗い終わった洗濯物の籠が揺れている。

市場通りを抜けて、薪の山が見えたところで、手綱を引いた。


「こんにちは! いつもの弁当20だよ。あとは、お店の薪をください!」


店先で声を張ると、奥からマルタのおっちゃんが出てきた。


「おう、テト。今日もご苦労さんだな。おい、お前ら! 鍋亭の薪を持ってきてやれ!」


「へーい!」


若い衆が走っていって、薪を積み始める。


その間に、俺は弁当の包みを渡した。


「マルタのおっちゃん、ちょっと聞いてもいい?」


「なんだ。坊主のおつかいか?」


「うん。薪屋で、配達してほしいものって、どれくらいある?」


マルタのおっちゃんは、鼻で笑った。


「あるぜ。炎の鍋亭はお前が運んでくれるが、他はまだうちが運んでる。薪だけじゃねえ」


「本当か? どれくらい?」


「まあ、日に10件から、多いときは20行くときもあるな。家ん中のかまど用とか、風呂釜とかよ。それと大物だ」


「大物?」


「例えばサント酒造の樽とか、洗い屋の大桶とかだな。ああいうのは、運び慣れてねえと危ねえからな」


〈日に10〜20件……けっこう多いな〉


「それって、もし誰かが代わりに運べるようになったら、頼みたい?」


マルタのおっちゃんは、ニヤリと笑った。


「格安で運んでくれんなら、考えてやるよ。坊主らがそこまでやるってんならな」


「今日は値段の話じゃなくて、俺は情報収集だけなんだ」


「なるほどな。ライムのやつが、またなんか考えてんだろ」


マルタのおっちゃんは、いつものようにガハハと笑った。


「まあ、期待して待ってるぜ。妙なところで転ばねえようにな」


「ありがとう!」


俺は頭の中で数字を繰り返しながら、馬車を出した。


 


次の配達先は、鍛冶屋と市場組合だ。


カチのおっちゃんには弁当を渡しつつ、「今のところ困ってねえ」と一言で済まされる。

炭は隣、道具は客が取りに来る――それなら、今はそれでいい。


市場組合では、エリーナさんが弁当を受け取りながら、すぐに答えてくれた。


「うちは手紙と書類ね。ロンドールの中も、エステル行きも。数だけなら、日に100はくだらないわ」


「全部、組合の人が持っていってるんですか?」


「街の中は走り回る子たちに任せるわ。遠くは郵便ね。ライム君が何か始めるなら、相談には乗るわよ」


〈街の中には、もう“足”がある。俺たちは、もっと遠くと重いものだな〉


それから、書類の束に紛れていた封筒を一通、渡された。


「これはテト君宛てよ。差出人、見覚えあるでしょう?」


封を切ると、父さんのぶっきらぼうな字が躍っていた。


『普通の馬 金貨1枚。足の速い馬 金貨3枚。数はそろえられる』


〈……よし。馬の話も、ちゃんと進んでる〉


手紙を懐にしまって、俺は馬の首を軽く叩いた。


 


市場広場に着くころには、もう人の列ができていた。


「お、来たぞ!」


「炎の鍋亭の弁当、今日も頼む!」


「こっちは5個!」


俺とヤトで手分けして弁当を渡す。

気づけば、あっという間に空の弁当箱だけになっていた。


ほっと息をついたところで、制服姿の男が声をかけてきた。


「炎の鍋亭のお弁当の人。まだ、うちの鉱山には弁当は運べないかね」


鉱山の役所の人だ。前にも顔を見たことがある。


「ごめんなさい。今はまだ……でも、準備中だから、そのうち行けると思います」


「そうですか。それは楽しみだ。あそこは山の上だからな。みんな喜ぶと思うよ」


〈今のうちに聞いておくか〉


「俺、ランチボックスの配達の他に、洗い屋の洗濯物の配達とかもしてるんです。それで、鉱山でも運んでほしいものってありますか?」


「本当かね?」


職員の人は少し驚いた顔をした。


「鉱石は専用の部隊がいるからいいんだが、資材や道具、それに飲料水や油なんかの消耗品は、正直困っているよ。荷車で持って上がるのも一苦労でな」


「それって、どれくらいの頻度で?」


「細かいのを含めれば、週に何度もだろうな。まとめて頼める相手がいれば助かるが……」


「今はまだ、どれくらい困ってるかを聞いてる段階なんです。また詳しく教えてください」


「そうか。なら、上の担当にも聞いておこう」


職員の人はそう言って、うれしそうに弁当を抱えて帰っていった。


 


午後は洗濯物の配達と回収だ。


路地裏のパン屋では、女将さんが小麦粉の袋を指さして言った。


「市場からこれを毎日運ぶのが一番つらいねぇ。誰かが代わりにやってくれるなら、大歓迎だよ」


仕立て屋のミルダは、仕上がった服の山を見ながらぼやく。


「日に2〜3件は、『家まで持ってきて』って言われるのよ。でも全部は無理ね」


母友のマルナさんの家では、いつものように弁当を渡したあとで訊ねた。


「市場から米袋2つ持って帰る時なんか、腰が砕けるかと思うわよ。あれを頼めたら、本当に助かるわ」


どこでも、『ちょっと困ってる』話はすぐに出てきた。


 


最後に寄ったのは、酒屋のベック爺さんの店だ。


「ベックさん、こんにちは!」


「おう、テトか。今日は弁当だな」


弁当を渡してから、本題に入る。


「ベックさん。配達で困ってることって、あります?」


「配達か……あるともよ」


ベック爺さんは、少し肩を回した。


「年食ってきてな。街の居酒屋や、瓶の配達には難儀しておる。樽ならまだしも、小分けの瓶は回数が多いからな」


「どれくらいあるんです?」


「毎日数件はあるな。最近は、ライムんとこみてえに樽の返却は客にお願いしている店もあるが、全部がそうはいかん」


〈毎日数件……積み重ねると、かなりの仕事量だ〉


「もし、俺たちが運べるようになったら?」


「運んでくれると助かるぞい。ただし、酒は重い。いい加減な奴には任せられん」


「今日は聞くだけなので、教えてくれてありがとうございます」


「ふん。期待して待ってるぞ」


 


日が傾き始めたころ、ようやく鍋亭に戻った。


馬を裏庭に繋いで荷台を片付けてから、俺は帳場の方をのぞく。


レノさんが、やっぱり紙と羽ペンを広げて待っていた。


「おかえりなさい、テトさん。どうでしたか?」


「いっぱいあったよ。今日は聞いただけで、もう疲れた」


そう言いつつ、俺は一つずつ報告していく。


マルタの薪屋の配達件数。

鍛冶屋は今のところ自前で回していること。

市場組合の手紙と書類の量。

鉱山の資材と飲み水。

パン屋の小麦粉。

仕立て屋の配達。

母友たちの重い買い物。

酒屋の瓶配達。

そして、父さんからの馬の値段。


レノさんは、黙々と紙に書きつけていく。


やがて、簡単な表と地図ができあがった。


「こんなところでしょうか」


「おお……すげえ、わかりやすい」


「ここから先は、まだ契約には進みません。今日は『どこに、どんな需要があるか』の整理までです」


レノさんは羽ペンを指先で回した。


「この表と、お父上からの馬の値段の手紙をもとに、『配達事業部の提案書』の骨組みを作りましょう」


「その横で、俺は『現場から見て無理のないやり方』を書いていけばいい?」


「ええ。ろじすてぃくす主任として、ぜひ」


そう言って、レノさんは少し笑った。


〈主任、か〉


紙の前に座り込んで、俺は深呼吸を一つ。


「よし。じゃあ、配達事業部の提案書――現場版、始めるか」


俺とレノさんは並んで羽ペンを走らせ始めた。


文字と線が、少しずつ紙の上を埋めていく。


〈ここから先は、ライムに見せるための『次の一歩目』だ〉

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