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異世界で社長になる。   〜5歳児から始める異世界ビジネス革命〜  作者: Mizunoki.Kawai


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## 95話 ウイスキーの売り方

## 95話 ウイスキーの売り方


「どうやって売るか、だね」


さっきまで数字を洗い出していた机の上には、紙と計算盤が散らばっている。


「ウイスキーは、エールを蒸留すると量が3分の1くらいになるんだ」


俺は指で机の上に樽の絵をざっくり描きながら続ける。


「でも、そのぶん酒精が強い。だからグラス1杯も、エールの3分の1くらいでいいと思う」


「確かに、ガバガバ飲むような酒じゃないな」


ヤブタさんが腕を組んでうなずいた。


「エールは1樽で大体100杯ですね」


ガレンさんが横の樽をちらっと見やる。


「ウイスキーは1樽で、3分の1量を1杯にするなら……300杯出ます」


「つまり」


レノがさらっと口を挟んだ。


「エール600樽、ウイスキー200樽の生産になる。あとは――売値ですけど」


〈頼りになるナンバースリーだ〉


「うん」


俺は一度うなずいてから、サント酒造の3人に向き直る。


「うちでしか作れないもの。新しいもの。そして美味しい。そういう酒だと思う」


自分で並べながら、条件が固まっていくのが分かる。


「だから、1杯銅貨7枚でいこうと思う」


「銅貨7枚……」


ガレンさんが小さく復唱した。


「美味ければ、少し高くても注文が入る、ということですね」


「うん。それと」


俺は指をもう1本立てる。


「店にも、エールより儲かる仕組みにしたい。ウイスキーを勧めてもらうためにね」


「なるほど……」


ガレンさんの表情が、少しだけ商人の顔になる。


「そうなると、ですね」


レノが紙の上に新しく枠を引いた。


「エールの変動費が1樽あたり金貨0.15なので、3樽で金貨0.45。ここに蒸留の燃料や手間の追加分を乗せて――」


ペン先が「0.5」と数字を書き込む。


「1樽あたりの変動費を金貨0.5と置きます」


「じゃあ、酒屋への卸値を金貨0.9にして……」


俺はレノの書いた数字の横に「0.9」と足した。


「酒屋――たとえばベック爺さんは、そこに取り分をちょっと足して、店には金貨1枚で出す」


「へえ……」


ヤブタさんが計算盤をぱちぱちとはじく。


「店は銅貨7枚で売るとして――1樽300杯だから」


俺は「300」と書き込んだ。


「7銅貨×300杯で、銅貨2100。つまり1樽の売上が金貨2.1枚」


「原価が金貨1枚ですから……」


レノがすぐに続ける。


「店の取り分は金貨1.1枚。エステルエールより利益率が高い」


「す、すごい」


ガレンさんが思わず身を乗り出した。


「店は、ウイスキーを売りたくなる!」


「サント酒造のほうは?」


ヤブタさんが現実的な声を出す。


「ウイスキーは200樽作るので」


レノが横に「200×0.9」と書く。


「1樽金貨0.9だから、売上は金貨180枚。エールの180枚と合わせて――」


線を引いて合計を書く。


「売上が金貨360」


俺は、その数字をとん、と指で叩いた。


「コストが――固定70に、さっきの変動費190で金貨260。だから利益が金貨100枚」


「100……!」


奥さんが小さく息をのんだ。


「よく分かりませんけど……本当に、すごいです」


〈うん、普通はそうだよな〉

〈レノが優秀すぎて、感覚がズレてきてる気がする〉


「はい。あくまで“うまくいけば”だけどね」


俺は息を整える。


「みなさんには、これから忙しくなってもらう。でも――ガラワ組に渡す金貨のためにも、協力をお願いします」


“ガラワ組”と口にした瞬間、空気がピリッと締まり……すぐに前向きな熱へと傾いていくのが分かった。


「それで」


俺は段取りへ進める。


「どれくらいから増産できますか?」


「そうですね……」


ガレンさんが指を折る。


「仕込んでエールになるまでが1週間と少し。発酵具合にもよりますが」


「そこから蒸留して樽詰めだから――」


俺は頭の中で工程を並べる。


仕込み → 発酵 → エール → 蒸留 → 樽詰め。


〈工程は同じ。そこに“もう一段の価値”を乗せるだけだ〉


「よし。10日後に、試飲会を開こう」


顔を上げて、きっぱりと言った。


「試飲会?」


「うん」


俺は笑う。


「組合のみんな、炎の鍋亭、洗い屋、カチさん、マルタのおっちゃん、テンドーさん。みんなに飲んでもらいたいんだ」


新しい酒を、ガラワ組への対抗のためじゃなく――

誰かの「うまい!」のために作る。


その空気を作りたかった。


「楽しそう! やる!」


クララが真っ先に手を挙げる。


「招待状、書く!」


「皆さんへの声がけは、俺がやります」


レノもすぐ続く。


「日取りと人数をまとめれば、仕込み量や段取りも組みやすくなります」


「楽しくなってきたぞ」


ヤブタさんが久しぶりに大きく笑った。


「最近は明るい話題がなかったんでな」


「本当に、ありがとうございます」


ガレンさんが深く頭を下げる。


「炎の夜明け、サントエール事業部として――頑張ります!」


クララが再びピンと手を挙げた。


「はい、じゃあ『クララまとめ』いきます!」


視線が、ちょこんと座った5歳児に集まる。


「えっとね」


クララは指を1本立てた。


「まず、サントさんは今までどおりエール600樽を作って、お客さんをちゃんと守る」


2本目。


「でも、人は増やさなくても、がんばればエール1200樽ぶん作れるから、その残りの600樽をウイスキーにする」


3本目。


「ウイスキーはエール3樽で1樽できて、1樽で300杯出せる。1杯銅貨7枚だから、店も“エステルエールより儲かる酒”としてオススメしたくなる」


一呼吸して、にっと笑う。


「サントさんは忙しくなるけど、そのぶん“ごほうび”も増える。だから、みんなで一緒にがんばる――これで合ってる?」


「……ああ」


ヤブタさんが、目頭を指でこすった。


「十分すぎるくらい、よう分かった」


「はい。完璧です」


レノもうなずく。


〈言い方は子どもなのに、中身は完全に事業計画だよな……〉


「じゃあ、決まりだね」


俺は立ち上がり、一同を見渡した。


「ウイスキーで金貨100。10日後に試飲会。その先に――炎の夜明け サントエール事業部の夜明けだ!」


未来を思い描くだけで、胸の奥が熱くなる。


「ここから、忙しくなるよ」


事務所の空気は、もうすっかり再建前じゃない熱を帯びていた。

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