## 92話 金貨500プロジェクト会議
## 92話 金貨500プロジェクト会議
次の日の朝。
山盛りの朝食を片づけて歯を磨きながら、今日の予定を考える。
今日は洗い屋に行って、クララにレノが正式加入したことを伝える。
そのあとテンドーさんとマルタのおっちゃんとカチさんで、金貨500の相談だ。
レノを連れて出かける。
――
洗い屋の前まで来ると、桶を洗う水音と、せっせと布をこする音が聞こえてくる。
「おはようございまーす」
扉を開けると、奥の作業場から元気な声が飛んできた。
「あ! ライム!」
クララだ。
泡だらけの袖をまくって、洗い桶から顔を出す。
「よう、クララ」
「おはようございます」
その後ろから、サクラさんとアインズさんも顔を出す。
「おはよう、ライム君。そちらは?」
軽く頭を下げてから、隣のレノを紹介する。
「この人はレノ。これから炎の夜明けで、俺の右腕として働いてくれるよ。
護衛もお願いするつもり」
「正式に、ライムさんのもとで働かせていただくことになりました。
洗い屋のみなさん、よろしくお願いします」
レノが、きっちりと頭を下げる。
サクラさんが、ふわっと笑った。
「まぁ。心強いわね。
ライム君も、まだ5歳なんだから護衛は頼もしいわねぇ」
「そうそう。これでクララも、安心して一緒に遊びに行けるってわけだ」
アインズさんも、おどけたように言う。
「はい!」
クララが、パッと笑顔になる。
レノが、少しだけ表情を崩した。
「ごろつき程度なら、100人来ても大丈夫です。任せてください」
「100人……」
〈レノも砕けてきたかな? え、冗談……だよね?〉
「レノ、よろしくね」
クララが、ごしごしと手を拭いてから、改めて向き直る。
「炎の夜明けプロジェクトマネージャーのクララです」
「……炎の夜明けプロジェクトマネージャーのクララさん。
こちらこそ、よろしくお願いします」
レノが真面目に返事をする。
なんか、変な肩書きが正式になってしまった気がする。もう給金も出したほうがいいかな。
「じゃあ、クララ」
「なぁに?」
「今日はこれから、金貨500の相談なんだ。
テンドーさんとマルタのおっちゃんを誘って、それからカチさんのところに行く」
「行く!」
クララの返事は、やっぱり早かった。
――
テンドーさんにお店で声をかけ、事情をかいつまんで説明すると、すぐに同行してくれた。
マルタのおっちゃんも薪屋で捕まえて、そのまま一緒に移動する。
そして、いつものカチ鍛冶屋の前。
中からは、槌の音と弟子たちの掛け声が聞こえる。
レノはスッと前に出ると、大きく息を吸い込む――。
「すいませーーん!」
工房に響き渡る声。
「うるせぇ! あっちで待ってろ!」
レノは、この前見たいつもの流れと違う展開に、ぴたりと固まる。
「……申し訳ありません」
小声で謝るレノの横で、マルタが肩を震わせている。
「ライムさんのやっているようにしたのに……」
レノが本気で不思議そうな顔をした。
〈声がでかすぎるんだよ〉
「ふん。今日はずいぶん賑やかじゃねぇか」
カチさんが、奥から顔を出す。
「カチさん、こんにちは!」
「よう、小僧。……それと、さっきの叫び声はお前か」
「はい。さきほどは大声を出してしまい――」
「いい声だ」
口元が、ほんの少しだけ笑った。
「じゃあ、改めて紹介させて」
「レノは、炎の夜明け商会の右腕兼護衛。
俺の隣で、一緒に走ってくれる人だ」
「よろしくお願いします」
レノがもう一度頭を下げる。
「ナンバーツー、ということですか?」
テンドーさんが、仕事人らしい目で確認してきた。
「違うよ!」
クララが、ピンっと手を挙げる。
「ナンバーツーは、クララだから!」
「……そうだね。
クララがナンバーツーで、レノはナンバースリーくらいかな」
「やった」
クララが、満足げに胸を張る。
テンドーさんが、困ったような、それでいて少し楽しそうな顔をした。
――
ひとしきり挨拶が済んだところで、俺は本題に入る。
「じゃあ、ここからサント酒造の顛末を説明するね」
サント酒造の現状。
ガラワ組との借金。
炎の夜明けがサント酒造を買収し、借金の元本200を建て替えること。
ガラワ組とは銅山の共同出資――JVを組むこと。
借金200と出資300で金貨500を、3カ月で用意すること。
一通り話し終えると、部屋の空気が少しだけ重くなった。
「だから――金策の相談に来た」
「ほう」
マルタのおっちゃんが、にやりと笑う。
「では、まずはリバーシからですね」
テンドーさんが、手元のメモを開いた。
「今、100セット体制にしてから、1週間少し。
注文状況を見るかぎり、まだまだ注残が尽きる気配はありません」
レノが、そこで手を挙げた。
「すみません。一つ、確認を。
このリバーシの収益性は、どのような感じでしょうか」
「じゃあ、簡単に説明するね」
俺は、頭の中でいつもの表を呼び出す。
「まず、1セットあたりの製造原価が銀貨2枚。
木材と加工代、塗装代まで全部込み。
卸値は銀貨8.5枚。
今は1日に100セット作れる状態だよ」
「……月に、利益で金貨130ですか。とんでもないですね」
〈計算、俺より早くね?〉
「この街ロンドールの人口は4万ほど。
4,000セットくらいまでは、すぐに広がっていって、そのあとゆっくりなペースになる見込み」
俺は、ざっくりと早く食いつく人たちと、その次に増える人たちの話をして補足する。
「でしたら、エステルへの展開は――」
レノが、少し考えてから言った。
「早めに少量スタートしたほうがいいかもしれません」
「エステルに出すにしても、最初は動き出しが緩やかでしょう。
今の100セットをすべてロンドールでさばくのではなく、
来月分から、エステル向けに少しずつ割り振る形にしておいたほうが」
「……俺も、そう思ってた」
頷く。
「リバーシから金貨400を確保したいから――
ロンドールとエステル、両方で回したいんだ」
「金貨400……」
テンドーさんが、指で机をとん、と叩く。
「リバーシだけで、それだけを狙うおつもりですか?」
「ううん。目標はそこ」
指を折りながら、俺は説明を続ける。
「机上の計算だと1カ月目に金貨130。
2カ月目も130。
3カ月目に、ロンドールとエステルの両方が回り始めて、金貨260。
合計で金貨520」
「でも、実際は最初のエステルは、そんなにうまくいかないだろうし、
ロンドールの勢いもどこかで落ちるかもしれない」
「だから、安全マージン込みで400を目標にする」
「足りないぶんは、ウイスキーで埋める」
クララが、いつものようにピン、と手を挙げた。
「はい! じゃあ、まとめます!」
クララは指を1本1本折りながら、いつもの調子で話し始めた。
「まず、リバーシ」
「これからも、ロンドールでは1日100セット。
マルタおじさんのところでがんばる」
「それから、プレス機3号機ができてから――
少しずつ、エステルの街でも売り始める」
「3カ月で、リバーシから金貨400を目標にする」
テンドーさんが、静かに頷いた。
「うむ。数字としても、妥当なラインだと思う」
クララは、さらに指を立てる。
「でも、必要なのは金貨500」
「だから、足りない100――できれば200は、
ウイスキーで頑張る!」
「サント酒造のみんなと一緒に、
サントエール・ウイスキーを作って、3カ月以内にちゃんと売り物にする」
パッと顔を上げて、俺を見る。
「――こんな感じで合ってる?」
「完璧」
思わず笑ってしまう。
「さすが炎の夜明けプロジェクトマネージャー」
「えへへ」
クララは、少し照れながらも胸を張った。
テンドーさんが、そこで口を開く。
「酒は、明日から倍量仕込めばいい、みたいな話ではありませんからね」
「ですから――」
「カチさん」
俺は、隣の鍛冶屋の親方を見る。
「だから、蒸留器は、そろそろ本格的に使いたいんだ。
いいかな?」
「ふん。
そもそも元はお前さんのもんだろうが」
カチさんが、ニヤリと笑う。
「……で、金はくれるんだろうな?」
俺も笑って返す。
「約束通り、金貨20枚」
「しゃあねぇな」
カチさんは、がしがしと頭をかいた。
「ラークにも手伝わせる。
サント酒造の蔵に、本格的に据え付けるんだな?」
「うん」
俺は、改めて全員を見回した。
「――というわけで」
ここで横からクララが割り込む。
「炎の夜明け、金貨500プロジェクト――始動です!」
〈よし〉
〈ここからだ。次はサント酒造だな〉




