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異世界で社長になる。   〜5歳児から始める異世界ビジネス革命〜  作者: Mizunoki.Kawai


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## 86話 サント酒造への買収提案

## 86話 サント酒造への買収提案


あれから2日後。

俺とレノとベック爺さんの3人は、またサント酒造の門の前に立っていた。


「来たぞー」


ベック爺さんが、いつもの調子で声を張る。

すぐに、門の奥から足音がして、ガレンさんが姿を見せた。


「ベックさん、ライムさん。こんにちは。この前はありがとうございました」


深々と頭を下げてくれる。


「この前の『続き』のお話ですよね」


「そうじゃ。ヤブタはおるか」


「はい。今、呼んできます。……事務所のほうでお待ちください」


俺たちは、前にも通された事務所に向かう。


――


少しして、奥の扉が開く。

ヤブタさんとガレンさん。

それに、優しそうな奥さんと、10歳くらいの息子さん。

4人がきちんと席についた。


「大事な話だと伺いましたので、全員で……失礼します」


ガレンさんが、少し緊張した顔で言う。


「そのほうがええ。蔵のことは、家族全員のことじゃからな」


ベック爺さんが、うなずいた。


ヤブタさんが、俺のほうを見る。


「ライム。この前の話の『続き』じゃな」


「はい」


喉が、少しだけ鳴る。


〈家族総出で時間を空けてくれてる〉

〈ここで、いい加減なことは言えない〉


「サント酒造の『これから』について、俺なりに考えてきました」


そう言って、俺は2本の瓶をテーブルの上にそっと置いた。


――


まずは、順番に話す。


蒸留器を開発したこと。

エールを蒸留して、『ウイスキー』という新しい酒が作れること。

ウイスキーは酒精が強く、美味しくて、これから世界に広げたいと思っていること。


そこから、サントの話に繋げる。


「その過程で、『サントエール』の名前を聞きました。『味がいい』って」


工場見学で見た水車の小屋。挽き方のこだわり。

何年も継ぎ足してきた酵母。

この場所でしか取れない井戸水と、樽の列。


「工場見学で、こだわりも、積み重ねてきた歴史も見せてもらいました。

ヤブタさんと、ガレンさんが、どれだけ『誇り』を持ってお酒を作ってるかも」


そこで一度、言葉を切る。


「それで――実際に、サントのエールをウイスキーにしてみたんです」


「……ふむ」


ヤブタさんの目が、少し細くなる。


「今日は、その『味』を、ちゃんと飲んでもらいたくて来ました」


ベック爺さんが、椅子から立ち上がる。


「まあ、まずは飲んでみい、というこっちゃな」


――


小さなグラスが、人数分並べられる。


「最初は、『エステルのエール』で作ったほうからじゃ」


ベック爺さんが、慎重にウイスキーを注いでいく。


「強い酒なので、ほんの少しだけ。子どもさんは舐めるくらいで」


ガレンさんの奥さんが、息子さんのグラスには少しだけ入れている。


「では……」


ガレンさんが、一口だけ含む。


「……強いですね。飲みごたえもある。香りも、きちんと残っています。これは美味しいですね」


「本当に、すごいお酒です」


奥さんも、驚いたように目を丸くする。


息子さんも、ちょんと舌にのせて、顔をしかめてから、でも少しだけ笑った。


「次じゃ」


今度は、サントエール由来のウイスキー。

グラスに注いだ瞬間、さっきとは違う、ふくらみのある香りが立ち上る。


「……!」


ヤブタさんの眉が、ぴくりと動いた。


一口。


しばらく、誰も喋らない時間が流れる。


やがて。


「……うまい」


ぽつりと、ヤブタさんが言った。


「強さは同じじゃが、香りが酒に負けておらん。

奥に甘みがあって、ちゃんと『サントのエール』の顔をしとる」


「本当ですね」


ガレンさんも、もう一度一口だけ含んで、うなずく。


「さっきのウイスキーも素晴らしかったですが……

これは、『うちのエールだからこそ』って感じがします」


「おいしい……」


奥さんが、思わず笑顔になる。


息子さんも、さっきより慎重に舐めてから、ぽそっと一言。


「なんか、あったかい」


ベック爺さんが、そこでニヤリと笑う。

みんなを見渡して、親指を立てる。


「わしは、『サントのエールから作ったウイスキー』は、必ず世に受け入れられると思う。

わしからの太鼓判じゃ」


胸の奥が、じん、と熱くなる。


〈これで、『味』の確信は十分だ〉


俺は、グラスを見つめながら、ゆっくりと口を開いた。


「工場見学で見た『こだわり』も。守り抜いてきた『誇り』も。

今日、こうして飲んだウイスキーの味も」


一つひとつ、言葉を並べていく。


「俺は、サント酒造のエールでウイスキーを作りたい」


「……」


誰も、口を挟まない。


「でも、同時に『このままだと潰れてしまうかもしれない』とも感じました」


ヤブタさんとガレンさんの表情が、少しだけ曇る。


「門のところで見た、『ガラワ組』のことも含めて。

このままだと、『サントのエールがこの世から消える』可能性が高いって、組合長も言ってました」


その言葉に、家族みんなの視線が揃う。


だからこそ、俺は頭を下げた。


「だから、俺からのお願いは――」


一度、深く息を吸ってから、はっきりと言う。


「『炎の夜明け商会に入ってほしい』んです」


「……入る」


ガレンさんが、息を呑む。


「サント酒造の『名前』は、変わるかもしれません。

でも、『サントエール』はなくなってほしくない。

サントエールを作る人たちも、このまま『ここで働き続けてほしい』」


顔を上げて、まっすぐ2人を見る。


「炎の夜明け商会の中の、『サントエール・ウイスキー製造部』として入ってもらって。

エールと、新しいウイスキーを、一緒に広げていきたいんです」


「わしらが、中に」


ヤブタさんの声は、思ったより静かだった。


「土地や設備をどうするかとか、借金をどう片付けるかとか。

そういう『ややこしい話』は、これからちゃんと考えます」


ここで、はっきりと言う。


「でも、その前に――まずは『気持ち』の話をしたかった」


「気持ち」


「はい」


息を整えてから、言葉を重ねていく。


「俺は、『サントエールをなくしたくない』です。

『この味を残したい』って本気で思いました」


「……」


「俺は、工場見学で見た『サント酒造の誇り』を尊敬してます。

だから、ヤブタさん、ガレンさんと、みなさんと『一緒に仕事がしたい』です」


「……」


「それから――」


自分の胸に手を当てる。


「このウイスキーを、『世界に広げたい』です。

そのときに、『サントのエールと一緒に』って、胸を張って言いたい」


言い終わると、事務所の中が、しん、と静まり返った。

誰も、すぐには口を開かない。


ガレンさんの奥さんが、そっとハンカチを取り出しているのが見えた。


「……わしは」


最初に口を開いたのは、ヤブタさんだった。


「わしは、お前のことを『見た目で』判断しとった。

正直に言うとな。最初に会ったときは、『物好きな子どもが来おった』くらいにしか思っておらんかった」


「……」


「すまんかったな」


そう言って、頭を下げた。


「お前は、『筋の通ったやつ』じゃ。

味を見て、わしらの誇りを見て、それで『一緒にやりたい』と言ってくれる。

わしも――お前と、仕事がしたい」


胸の奥が、ぎゅっと熱くなる。


ガレンさんが、小さく呟く。


「ウイスキーは、本当に美味しいです。

そして、そのウイスキーは『サントのエールだからこそ、もっと美味しくできる』」


ゆっくりと頷く。


「私も――これから一緒に仕事がしたいと思います」


「お父さん……」


奥さんが、目元を押さえる。

息子さんも、よく分かっていないなりに、真剣な顔でこっちを見ていた。


ベック爺さんが、ここで大きく笑う。


「ヤブタよ、言うたじゃろうが。

こいつはお前らを『救う』ってな。

もっと言やあ、『お前らの酒を世界に連れてってくれる』かもしれん」


レノが隣で静かに頷いた。


「ライムさんは、計り知れない方です。本当にやりかねません」


〈やりかねないって〉

でも、不思議と嫌じゃなかった。


〈サントと、炎の夜明けが『同じ方向』を向いた〉

その第一歩だけは、はっきりと踏み出せた気がした。


――そしてこのあと、話は『気持ち』から、『数字の現実』へと進んでいくことになる。

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