## 85話 サント酒造への口説き方
## 85話 サント酒造への口説き方
「こうなったら、『サント酒造』も、『ガラワ組』も、みんな一遍に取り込んでやる!」
気づいたら、通りの真ん中で叫んでいた。
〈あー、スッキリした〉
〈ん? レノ、なんか言ったか? まあいい。やるって決めたんだ。行けるところまで行く〉
今の俺に、まず足りないのは――。
〈味への確信と、ガラワ組の情報〉
「……よし。まずはベック爺さんのところ、行こう」
炎の鍋亭へ帰る足を、そのまま酒屋のほうへと向ける。
――
戸を開けると、いつもの木の樽と酒の匂いが鼻をくすぐる。
「ベック爺さーん」
「おう?」
奥から、聞き慣れたしゃがれ声が返ってくる。
「ライム坊か。今日はどうした」
「この前の『新しい酒』、ちゃんと飲んでもらいたくてさ」
俺は大事に抱えてきた2本の瓶を、カウンターの上にそっと置いた。
「『エステルのエール』で作ったのと、『サント酒造のエール』で作ったやつ。比べてみてほしいんだ」
「ほう……」
ベック爺さんの目が、すっと真面目になる。
小さなグラスが3つ並べられた。
まずはエステル産エール由来のウイスキーから、ほんの少し。
ひと口含んで、ゆっくり飲み下す。
「力もあるし、喉に来る感じも悪かねぇ。ちゃんとした酒だ。美味いぞ」
「よかった」
次に、サントエール由来のウイスキー。
グラスに注いだ瞬間、香りがふわっと立つ。
ベック爺さんが、ゆっくり鼻を近づけた。
「……ふむ」
短く唸る。そのまま、ひと口。
しばらく目を閉じて、味を確かめるように黙り込んだ。
「どう?」
思わず身を乗り出す。
「こっちはサントじゃな」
「分かる?」
「分からんわけがないわい」
くしゃっと笑って、グラスを置いた。
「同じように強い酒なのに、香りがまったく酒精に負けておらん。
それから奥に甘みがあって、あとからじわっと広がる。
エステルのほうも悪うないが――別物じゃ」
その一言で、胸の中の何かがカチッとはまった。
〈やっぱり、サントだからこそ出せる味がある〉
〈これなら、堂々とサントと組みたいって言える〉
ベック爺さんが、にやりと笑う。
「ライム坊。味のほうは、わしが太鼓判押しといたるわ」
「ほんと?」
「ああ。サントのエールで作ったウイスキーは、売り物になる。
あいつらのエールは、それだけのもんじゃ」
その言葉が、何より心強かった。
〈サント酒造へ、正式に話を持っていく〉
〈そのための武器は、ちゃんとある〉
「ベック爺さん」
「なんじゃ」
「もう一度、サント酒造に行きたいんだ。
このウイスキーと、これからの話を――ちゃんと伝えに」
一拍おいてから、続ける。
「……一緒に行ってくれる?」
ベック爺さんは、顎に手をあてて少しだけ考え、それからこくりとうなずいた。
「よかろう。どうせ放っておけん相手じゃしな」
くしゃっと笑う。
「2日後じゃ。朝、またここに来い。わしからも一言、言ってやる」
「ありがとう!」
隣でレノも、静かに頭を下げた。
「同行させてください。ライムさんとサント酒造の話は、最後まで見届けたいので」
〈サント酒造へ、正式に話を持っていく〉
そのためのウイスキーと、酒のプロの後押し。
必要なものが、ひとつ揃った。
俺は、2本の瓶を抱え直しながら、心の中でそっと呟いた。
〈やるって決めた〉
〈あとは、行くだけだ〉




