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異世界で社長になる。   〜5歳児から始める異世界ビジネス革命〜  作者: Mizunoki.Kawai


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## 83話 学院エリートとガラワ組の影

## 83話 学院エリートとガラワ組の影


「ところで……」


カチ鍛冶屋を出ようと、瓶を抱え直したところで、レノが口を開いた。


「あの、サント酒造というのは……それと、その液体は?」


「あ、そういえば『ちゃんと説明する』って言って、してなかったね」


俺は、腕の中の2本の瓶を見下ろす。


「そうだ、レノって歳いくつ?」


「私は18です」


「18か。……あれ? 学校って『15まで』じゃないの? 今年卒業なんだよね?」


「学校はそうですね。

ただ、『学院』というのは王立学院のことで、15歳から18歳まで通います」


「王立学院?」


ぴくっと、隣のカチさんの眉が動いた。


「お前さん、学院に行っとるのか」


「はい。まだ在学中です」


「優秀なんじゃな」


「え、そんなにすごいの?」


俺が聞き返すと、カチさんが鼻を鳴らす。


「ああ。王族や貴族、官僚候補が行くようなところだ。一般生も、ほんの一部おるがな。

まあ、この国の最高学府じゃ」


〈さっき『ノーラさんと同じくらい成績がいい』って言ってなかったか〉

〈それってつまり、『超エリート兄妹』ってことでは……〉


レノには、本当に驚かされてばかりだ。


「じゃあ、もうお酒飲める歳だね」


俺は、抱えていた瓶の1本を少し持ち上げる。


「とりあえず、ちょっとだけ飲んでみてよ。

こっちが、エステルの酒造で仕入れたエールを蒸留したやつ」


カチさんが、棚から小さな木のコップを出してくれた。


レノは、真面目な顔で香りをかいでから、ちょっとだけ口に含んだ。


「……これは」


目を見開く。


「なんて強い酒なんだ。

けれど、嫌な強さじゃなくて……身体の芯が熱くなる感じです。

これも、ライムさんが?」


「うん。カチさんに蒸留器を作ってもらってね。

エールを蒸留して作った、『ウイスキー』って酒なんだ」


「すごい……」


レノは、感心したようにコップを見つめる。


「じゃあ、こっちは?」


今度は、サント酒造のエールで作ったほうを、同じように注いで渡す。


レノは、慎重に香りを確かめてから、少しだけ舐めた。


「なんと言えばいいのか……同じくらい強い酒なのに、奥に甘みがあって……

香りがぜんぜん負けていない。

お、美味しい」


「サント酒造のエールは、もともといい酒なんだ」


俺は2本の瓶を見比べる。


〈この反応を見る限り、やっぱり違いははっきり出てるな〉

〈ヤブタさんにも、絶対飲んでもらおう〉


カチさんに改めて礼を言って、俺たちは鍛冶屋をあとにした。


――


向かった先は、ロンドール市場組合だ。


「こんにちはー」


ドアを開けると、すぐに明るい声が返ってきた。


「あら、ライム君。久しぶりね」


受付のカウンターには、エリーナさんがいた。


「……で、そちらのイケメンさんは?」


「こんにちは。そういえば、最近顔を出せてなかったですね」


俺はレノの隣に立つ。


「こちらはレノ。今、引率してくれてます」


「はじめまして。レノです。ライムさんの引率をさせていただいています」


「まあ、きちんとしてるわね」


エリーナさんが、にこっと微笑む。


「私はロンドール市場組合のエリーナよ。よろしくね」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


「組合長いる?」


俺が聞くと、エリーナさんは奥をちらっと見た。


「ええ。今テンドーさんと打ち合わせしてるわ。

入って大丈夫なはずだから、一緒に行きましょうか」


「テンドーさん?」


〈なんだろう。リバーシの追加発注かな〉


俺たちは、エリーナさんの後ろについて、組合長室へ向かった。


――


「組合長、テンドーさん、失礼します。ライム君です」


ノックのあと扉を開けると――。


そこでは、組合長とテンドーさんが、真剣な顔でリバーシを挟んでいた。


「そこだ! ひっくり返して――」


「ちょ、待っ……!」


黒と白のコマが、ばさばさと裏返る。


「ら、ライム君、こんにちは」


組合長――アイザットさんが顔を上げた。


「おや? そちらは、もしかして」


「アイザットさん。お久しぶりです。レノです」


レノが、まっすぐに頭を下げる。


「やっぱり! 大きくなったね。

まさかロンドールで会うとは思わなかったよ。……それで、どうしてライム君と?」


レノは、ノーラさんからの手紙のこと。

バルド支部長のこと。

『興味が持てたら、ここで働いてみたい』と思っていることを、ていねいに説明した。


「なるほどね……」


組合長は腕を組み、ふむと唸る。


「バルドさんとノーラさんが、君をロンドールに送ったわけか。

君、確か剣術もかなりやっていたよね?」


「はい。学院でも、武技の成績は悪くないほうだと思います」


「だとすると――」


組合長は、ちらっと俺のほうを見る。


「これは、あくまで勝手な想像だけどね。

ライム君の将来を考えて、『護衛』の意味も込めているのかもしれない」


「俺の……護衛?」


〈そんな先のことまで考えてくれてたのか、あの2人〉


レノは少し考えてから、うなずいた。


「それは、あるかもしれませんね。

姉もバルドさんも、『ライムさんのところで働いてくれると嬉しい』とのことでしたから」


「まあ、いずれにせよ――君の意思で決めるといいよ」


「はい。ありがとうございます」


ひと区切りついたところで、組合長がこちらを向き直る。


「それで、ライム君。今日はどうしたんだい?」


俺は、抱えていた2本の瓶をテーブルの上に置いた。


そこから――。


ウイスキー事業の構想。

サント酒造の工場見学で見たこと。

そして、門前で借金取りに出くわしたこと。


順番に話していった。


「……ガラワ組、ですか」


組合長の顔が、はっきりと曇る。


「組合としても、対応に困っていてね」


テンドーさんも、難しい顔でうなずいた。


「金融業そのものは、必要なんだ。

設備投資をするとき、手元の現金だけじゃ回らないからね。

でも、あそこはやり口がひどすぎる」


「組合からも、何度も注意はしているんだよ」


組合長は、机に指をとんとんと打ちながら続ける。


「けれど、表向きは『合法な貸し付け』の形を取っているから、取り締まるにも限界がある。

まさにイタチごっこだ」


「金利に関する法律はないんですか?」


俺は、前の世界の記憶を引っ張り出しながら尋ねる。


「金利の上限は定めがない」


組合長は、首を横に振る。


「『借りなければいいだろう』という考えなんだろうね。

『どうしても困っている人』が、最後にあそこへ行ってしまう」


〈この世界だと、まだそこまで法整備が進んでないのか〉

〈『貸し過ぎたほうが悪い』って発想も、まだないんだろう〉


組合長は、少し身を乗り出した。


「ライム君。ガラワ組は危ない。

だから、関わらないほうがいい。

残念だけど、サント酒造のことも――他の酒造を考えたほうがいいかもしれない」


言っていることが、俺の身を案じてくれているからこそだってことは分かる。


だけど。


「……俺」


思わず、声が強くなる。


「サント酒造のヤブタさんと、ガレンさんが、

どれだけ誇りを持ってお酒を作ってるか、見たんだ」


工場見学での光景が、頭に浮かぶ。


水車。

酵母の部屋。

樽の列。

『時間と手間の味だ』と言ったヤブタさんの横顔。


「ここまで守り抜いてきた味を、金だけの話で手放してほしくない」


一度、息を吸い込む。


「俺は、あの人たちと一緒にやりたいんだ」


組合長は、しばらく黙って俺を見ていた。


やがて、ふっと表情を緩める。


「……そうか」


組合長は、静かにうなずいた。


「もし、どうしてもガラワ組と話す必要が出てきたら――」


真っ直ぐな目で、俺を見る。


「必ず、私に声をかけてほしい。

絶対に、1人で関わらないと約束してくれ」


「……うん。分かった。約束する」


「よろしい」


組合長は、少しだけ安心したように笑った。


「力になれる範囲は限られているけれど、それでも盾くらいにはなれると思うからね」


「ありがとうございます」


〈くそ……〉


〈自分に力がないのが、悔しい〉


そのあとの細かいやり取りは、正直あまり覚えていない。


テンドーさんが、エステルの市場の話をしてくれたこと。

組合長が、ロンドールの金の流れを教えてくれたこと。


どれも大事な話だったはずなのに、胸の奥がざわざわして、うまく頭に入ってこなかった。


その日は――。


ウイスキーの瓶を抱えたまま、俺は大人しく炎の鍋亭へ帰ることにした。

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