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異世界で社長になる。   〜5歳児から始める異世界ビジネス革命〜  作者: Mizunoki.Kawai


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## 81話 ノーラの弟レノ

## 81話 ノーラの弟レノ


あれから2日後。

俺はいつものように、洗い屋の片隅でクララとリバーシを挟んでいた。


「やったー! 勝った!」


盤面の黒と白が、ほとんど白一色になっている。

クララについに2度目の敗北を許してしまった。


「5歳ってなんなんだろうな」


「ライムも5歳でしょ!」


クララが胸を張る。

言い返せない。


そんなやり取りをしていると、入り口のほうから聞き慣れた声が飛んできた。


「ライム」


振り向くと、母さんが立っていた。


「お客さんよ。店で待ってもらってるわ。来られる?」


「えーと、俺に『お客さん』? 誰だろう?」


「初めて見るわよ。レノさん、だって」


「レノさん……?」


まったく心当たりがない。


〈まあ、話せば分かるか〉


「今行くね。ごめんクララ、ちょっと行ってくる」


「私も行く!」


〈まあ、クララなら別にいいか〉


「じゃあ、一緒に行こうか」


俺とクララと母さんの3人で、炎の鍋亭へ戻る。


――


店の中に入ると、カウンター近くに、すらっと背の高い青年が立っていた。

短く整えられた髪に、まっすぐな姿勢。

剣の鍔に手を置いていても違和感がない、そんな雰囲気だ。


「座ってなさいって言ったのに、立ってたのね」


母さんが、半分あきれたように言う。


「ああ。立って待つ、と……」


父さんが、困ったように笑った。

どうやら、父さんも座るように勧めたらしい。


俺は、一歩前に出て頭を下げる。


「こんにちは。ライムです」


「こんにちは! 私は洗い屋のクララです!」


クララも負けじと名乗る。


青年は、きちんとした所作で一礼した。


「突然すみません。私はレノと申します。

姉からの紹介で、挨拶に伺いました」


「姉……?」


思わず、〈誰だろう〉という顔をしてしまったのだろう。

レノさんは、慌てて言葉を継いだ。


「失礼しました。姉はノーラと言います。

エステル商工会で職員をしています」


「あー! ノーラさん!」


思わず声が大きくなる。


「そういえば、目がそっくりですね。

でも、『紹介』っていうのは……?」


俺は、レノさんに「座ってください」と促し、自分も席に着く。

父さんと母さんも横に座り、クララは俺の隣でじっと耳を澄ませている。


レノさんは姿勢を正し、落ち着いた声で話し始めた。


「私は、来年から『軍』への内定をもらっているのですが……

本当は、バルドさんに仕えたいと思っておりました」


バルド支部長の名前が出てきて、思わず背筋が伸びる。


「ですが、バルドさんには

『自分には、ノーラがいてくれるだけで十分すぎる』と言われまして。

代わりに軍の方を紹介していただき、

本心ではないまま春から『軍に務める予定』になっています」


〈あの支部長、そんなこと言うんだ。らしいといえば、らしいけど〉


「その後で、姉から手紙が届きました。

『面白い少年がいる。

お前がもし気に入ったなら、そこで働いてみるのはどうか』と」


そこで一度、言葉を区切る。


「手紙には続きがありました。

『お前がライムさんを気に入って、そこで働くことになれば、

バルドさんも、私も嬉しい』と」


レノさんは、こちらをまっすぐ見た。


「それで、一度挨拶をして、直接お会いしてみようと思い……

今日はお邪魔しました」


〈ノーラさん……〉

あの人は、俺がこれから人が必要になるって分かって、声をかけてくれたんだろうな。

本当にありがたいことだ。


「そうなんですね」


俺は、ゆっくりうなずく。


「面白いかどうかは分からないですけど……

レノさんは、どんなことができますか?」


「はい」


質問を想定していたのか、迷いのない答えが返ってくる。


「読み書き、計算などの学業は、学院で『上位』の成績でした。

姉と同じくらいだと言われています。

あとは、軍に入るために、剣術と馬術も修めています」


〈ノーラさんレベルの事務能力に、戦闘力まで付いてるってことだよな〉

喉から手が出るほど欲しい。

けれど――。


「えっと……『気に入ったら働く』ってことだよね?」


「はい」


レノさんは、少し申し訳なさそうに眉を下げた。


「国のために働くというのも、大きな務めだと思っています。

ですので……

ライムさんのもとで働きたい、と思えたなら、

そのときは『仕えさせていただきたい』のです」


〈侍かなんかかな〉

でも、その考え方は嫌いじゃない。


〈『人に言われたから』じゃなくて、『自分がそうしたいかどうか』で決める〉

俺でも、そうする。


「分かりました」


俺は、正面からレノさんを見る。


「俺も、『誰かに言われたからそうします』っていう人は、ごめんなんだ。

主体性のない人に、ついてきてほしいとは思えないからね」


「……はい」


レノさんの表情が、少しだけ和らぐ。


「それで――どうしようか?」


そこで、隣のクララがピンッと手を挙げた。


「はい!」


「クララ?」


「ライムは、すごくすごいです! 一緒にいれば、すぐ分かります!」


「ふふ」


母さんが、くすっと笑う。


「そうねぇ。しばらく一緒に行動してみたらどうかしら?

そうすれば、この子がどんなことをしてるかも分かるでしょ?

レノさんも、そのほうが決めやすいんじゃない?」


「……確かに」


レノさんは、少し考えてからうなずいた。


「もし、ご迷惑でなければ。

しばらく『同行』させていただけるなら、とてもありがたいです」


「じゃあ――そうしてみますか」


俺も笑って答える。


「しばらく、一緒に動いてみてください。

そのうえで、『ここで働きたい』と思ったら、改めて話そう」


「はい。ありがとうございます」


そのとき、父さんが口を開いた。


「なら、しばらく『ここに泊まっていく』といい」


「え?」


「客間が空いてる。街の宿屋に泊まるより、うちから通ったほうが楽だろう」


「あの……よろしいのですか」


レノさんは、目を見開いた。


「いいのよ」


母さんが、さらっと言う。


「引率もいらなくなるなら、こっちも助かるわ」


〈母さん、大変だったんだな……〉


「ライムの『突拍子もない話』は、聞いてるだけで疲れるのよ」


「違いない」


父さんも同意する。


「2人ともひどいって!」


そう言うと、今度はみんなが声を出して笑った。


笑いの中で、レノさんがもう一度深く頭を下げる。


「では、お言葉に甘えて……しばらく、お世話になります」


「こちらこそ。よろしくね」


こうして――。


ノーラさんの弟、レノ。

炎の夜明け商会にとって、たぶん『とんでもなく大きい一手』になる男が、

炎の鍋亭に迎え入れられることになった。

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