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異世界で社長になる。   〜5歳児から始める異世界ビジネス革命〜  作者: Mizunoki.Kawai


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## 74話 洗い屋とヤマトの味

## 74話 洗い屋とヤマトの味


朝にした約束通り、昼過ぎにもう一度洗い屋へ向かう。


桶を洗う音と、水の跳ねる音が聞こえてきたところで、声を張った。


「クララ、戻ってきたよ! 遊ぼう!」


「ライム! おかえり! リバーシやろう!」


奥から、ぱっと顔を輝かせたクララが飛び出してくる。


「ライム君、今日もありがとうね」


サクラさんが、いつものように柔らかく笑った。


洗い場の片隅、いつもの一角に木箱で簡易の台を作って、その上にリバーシ盤を広げる。


黒と白のコマを並べながら、俺たちは自然と近況報告モードに入った。


エステルで見たこと。

支部長とノーラさんの話。

帰ってきてからの増産会議。

今日の弁当のこと。


クララと話していると、頭の中の情報がひとつずつ整理されていく感じがする。


コマをひっくり返しながら、ふと思っていたことを口にした。


「それでさ、サント酒造のことなんだけど、どう進めるか考えてるんだ」


「サントさんって、お酒作ってるの?」


クララが首をかしげる。


「うん。昔からある酒造でね。みんなの話を聞く限りだと、『味はいい』らしいんだ」


「クララも飲んでみたい!」


「ふふ。2人とも、お酒は15歳になってからよ」


横からサクラさんが、くすっと笑う。


「それにしても、酒造を丸ごと買ってしまうだなんてねぇ」


「サクラさんはさ」


俺は、少しだけ姿勢を正した。


「もし俺が、『洗い屋を買いたい』って言ったら、どう思う?」


「そうねぇ……」


サクラさんは、少しだけ考えるような顔をしてから、あっさりと言った。


「ライム君なら、いいわよ」


「え?」


思わず、変な声が出た。


「どこの誰かも分からない人だったら、そりゃあ心配だけどね。

ライム君なら、悪いようにはしないでしょ? 私たちにも、クララにも」


「う、うん……」


〈なんか、ありがたいけど、妙なプレッシャーも感じる〉


でも、それが『買う側の責任』ってやつなんだろう。


「わたしも、ライムと一緒にお店大きくしたい!」


クララも、何の迷いもなく言ってくる。


「うふふ。ライム君と一緒にね」


サクラさんが楽しそうに笑う。


〈その『うふふ』はやめてほしい〉


「そ、そうか。

でも、まずはサント酒造の人たちに『炎の夜明け商会』のことを知ってもらわないとね。

向こうのことも、ちゃんと知りたいし」


「そうね」


サクラさんは、真面目な顔に戻ってうなずく。


コマをひとつ置いてから、前から気になっていたことを聞いてみた。


「そういえばさ。サクラさんって、この辺じゃ珍しい髪の色だよね。

実家は遠いんだっけ?」


「そうよ」


サクラさんは、少し遠くを見る目になった。


「エステルから海をずっと東に行ったところにある、別の国よ。

『ヤマト』っていうの」


〈出たよ、絶対どこかで聞いたやつ〉


「そ、そうなんだ。

この前の『緑茶』とかも、その国のものなの?」


「よく覚えてるわね。

緑茶も、ライスも、もともとはヤマトから広がったものよ」


「もしかしてさ、『黒くてしょっぱい調味料』も?」


「醤油のことかしら?」


サクラさんが、くすっと笑う。


「よく知っているのね」


〈出たーーー! あっちゃったよ、醤油!〉


俺の脳内に、牛丼と生卵と味噌汁が一瞬で並んだ。


「それって、こっちでは買えないの?」


「そうねぇ……少なくとも、この辺りでは見かけないわね。

人気がないのかもしれないし、運ぶのが大変なのかも。

緑茶は、たまーに入ってくるのよ?」


〈緑茶は乾物で日持ちするしな。

この国にも『お茶文化』はあるし、輸出しやすいんだろう〉


〈でも、醤油があるってことは――真の牛丼が、ちらっと見えてきたな〉


「ねえ、ライム!」


クララが、白いコマをくるくる回しながら言う。


「わたし、お酒の工場も見てみたい!」


「そうだね」


俺も、黒いコマを盤に置きながらうなずく。


「まずは、サント酒造にちゃんと挨拶して。

こっちのことを知ってもらって、向こうの話も聞いて――それからだね」


醤油は、また別のタイミングの話だ。


今は、サント酒造。

まずは顔を合わせて、話を聞いて、少しずつ信頼を積み上げていくのが一番の近道だ。


そんなことを考えていたら――。


「やった!」


クララの手で、俺の黒いコマが一気にひっくり返された。


盤の上が、白だらけになる。


「……え?」


数えてみるまでもなく、俺の負けだった。


「今日、初めてライムに勝った!」


クララが、嬉しそうに両手を上げる。


〈これは……醤油のせいだな〉


心の中で、謎の責任転嫁をしつつ。


俺は、素直に初黒星を認めることにした。

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