表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で社長になる。   〜5歳児から始める異世界ビジネス革命〜  作者: Mizunoki.Kawai


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/195

## 73話 弁当箱とサント酒造の情報集め

## 73話 弁当箱とサント酒造の情報集め


市場通りを抜けて、マルタの薪屋に着く。


店先では、今日もいつもの音が響いていた。

ガコン、と小気味いい音を立てて、太い丸太が真っ二つに割れる。


「おう、坊主! よく来たな」


マルタのおっちゃんが、斧を肩に担いでニッと笑う。


〈相変わらず、広背筋の芸術点高いな……〉


上半身だけで、見事に『力仕事のプロ』って感じだ。


「おっちゃん、弁当がけっこう人気でさ。増産を考えてるんだ」


「そうかそうか。俺らも、いつも助かってるぜ!」


おっちゃんは、薪を転がしながら笑う。


「ただよ、いつも同じ味だからよ。他の味も出してくれよ」


「うん。今回のタイミングで、もう1種類増やす予定だよ」


「そりゃありがてえな。……で、『弁当箱』だろ?」


「察しが早くて助かるよ」


「がはは。まあな!」


おっちゃんは鼻で笑ってから、ふと思い出したように言う。


「それとだ。プレス機のほうも、もうカチの旦那から受け取ったぜ。うちでバリバリ使えるようになってる」


「そうなんだ!」


〈仕事早いな、この人やっぱり〉


「テンドーのやつが『まだかまだか』ってうるせえしよ。ラークのやつも、あれだけ張り付かされちゃ可哀想だしな。

それで――何個必要なんだ?」


「とりあえずは200。

しばらくしたら、もっとたくさんお願いすることになると思う」


「おう、任せとけ! できたら、うちからテトに渡しておくな」


「うん、お願い!」


「金額は、前に言った通りだ。200で銀貨80枚だな」


「それでお願いします」


金額の確認を終えると、おっちゃんは奥から紙束を持ってきた。


「それとよ。昨日の『契約書』も、もうできてるぜ」


2部の紙を、どさっとテーブルに置く。


「こっちとそっちで1部ずつだ。

家に持ち帰って読んでから、判を押して持ってきてくれりゃいい」


〈仕事早すぎ問題〉


「おっちゃん、本当に仕事早いね」


「おうよ! お前もだがな」


おっちゃんはガハハと笑うと、斧をまた構え直した。


「あと、テンドーのやつにな。『明日からリバーシ50セット、いける』って言っといてくれ」


「了解」


そこから少し世間話になった。

最近は、夜な夜なカチさんと一緒に、ウイスキーの『うまい飲み方』の研究をしているらしい。


〈あの2人、イメージ通りの酒好きだな。早く、一緒のテーブルで飲みたい〉


そんなことを考えながら、薪屋をあとにした。


次は、テンドー商会だ。

サント酒造のことを、もう少し詳しく聞いておきたい。


――


テンドー商会に行くと、店の中は相変わらずの賑わいだ。

テンドーさんは客の相手をしていたので、邪魔にならないように端で待つ。


「では、入荷しましたら、こちらにお届けしますね」


ひと区切りついたところで、声をかけた。


「テンドーさん、こんにちは」


「ああ、ライム君! こんにちは」


柔らかい笑顔で迎えてくれる。


「マルタのおっちゃんが、『明日からリバーシ50セットいける』って」


「おお、それは助かります。わざわざ知らせに来てくれて、ありがとう」


「ううん。それでさ、昨日の『サント酒造』なんだけど。どんな人たちがやってるの?」


俺が腰をかけながら聞くと、テンドーさんは少し表情を引き締めた。


「そうですね……この辺では、古くからある酒造ですよ。

今は旦那さんと奥さん、それから息子さん。

あとは従業員が何人かいて、主に仕込みと樽の管理をしています」


「前は違ったの?」


「少し前までは、従業員が10人くらいいましたね。

けれど、ここ数年でだいぶ減りました。やはり、厳しいんでしょう」


〈やっぱり、領都エステルの『大きい酒造』に商圏を取られている流れか〉


価格競争で勝てない。

それでも味は悪くないから、細々と続いている――そんな絵が浮かぶ。


「旦那さんは、とてもいい人ですよ」


テンドーさんは、柔らかく笑う。


「ただ……隠居している『先代』がいましてね。その方が、なかなか頑固です」


〈なるほど〉


〈注意しないと、『今の主人がOKでも、先代の一言でひっくり返る』パターンもありえるな〉


「先代には、私も何度か苦労させられましたよ」


テンドーさんは、苦笑しながら続ける。


「新しい道具を入れようとすると、『昔からこれでやってきた』と一喝されてしまいましてね。まあ、悪い人ではないんですが」


「そっか……」


〈M&Aの難しさ、そこだよな〉

〈数字だけの話じゃなくて、『感情』と『プライド』が強く絡んでくる〉


「それで、ライム君はどう進めるつもりなんです?」


「正直、俺も『買収』なんてしたことないからさ。どうしようかなって感じなんだ」


「そうですねえ……」


テンドーさんは、少し考え込む。


「かくいう私も、そんなことを経験したことはありませんからね。

ただ、何かお手伝いできることがあれば、遠慮なく言ってください」


「ありがとう」


礼を言って、店をあとにする。


――


帰り道。

夕方にはまだ少し早い街並みを歩きながら、頭の中でまた帳面を開く。


〈M&Aか〉


〈数字だけなら、『この条件なら得です/損です』で済むけど……実際は、人の感情に大きく左右される〉


〈代々続けてきた誇りとか、家族の生活とか、『この蔵を手放したくない』って気持ちとか〉


〈きっと、『お金だけじゃないインセンティブ』を用意しないと、誰も納得しない〉


例えば、家族をそのまま雇い続けること。

酒の名前を残すこと。

先代のこだわりを、どこかの形で引き継ぐこと。


〈数字は、あとからいくらでも調整できる。でも、『相手の気持ち』は、最初にちゃんと聞いておかないとな〉


そんなことを考えながら、俺はクララの家――洗い屋のほうへと足を向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ