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異世界で社長になる。   〜5歳児から始める異世界ビジネス革命〜  作者: Mizunoki.Kawai


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## 65話 著作権という盾

## 65話 著作権という盾


 登録申請の一連のやり取りがひと段落して、支部長室の空気が少しだけ和らいだタイミングで――気になっていたことを、思いきって口にした。


「バルド支部長、一つ聞いてもいいですか」


「ん?」


 バルド支部長が、眉をわずかに上げる。


「自分で作ったものを……勝手に真似されたり、使われたりしないようにする仕組みってありますか?」


「ふむ」


 支部長は一拍おいてから、口の端を上げた。


「まず、ここでは『支部長』はやめろ。バルドでいい」


「は、はい。……バルドさん」


「で、今のは『著作権』だな。ノーラ、説明してやれ」


「はい」


 ノーラさんが、すっと一歩前に出る。さっきまでと同じ落ち着いた声だけど、その瞳は少し楽しそうだった。


「著作権というのは、『製品や仕組みを作った人の権利』を守る仕組みです」


 机の上の紙を一枚引き寄せ、さらさらと図を描いていく。


「新しい製品や遊戯具、技術の一部などを『著作物』として商工会の支部に登録していただくと――その製品に、『著作物である』ことを示す印を押すことができます」


「印……」


「はい。この印が押されたものを、他の商会が使いたい場合は――制作者と契約を結び、売上に応じて一定の使用料を支払う必要があります」


 ノーラさんは、俺の顔を見ながら続ける。


「逆に、その印のない『模倣品』については、商工会を通じて賠償請求を行うことができます。炎の夜明け商会さんの『リバーシ』で言えば、登録していただければ――すべてを完璧に守ることはできませんが、相当数の模倣品は防げます」


〈よかった。これは……ものすごく大事な仕組みだ〉


「それは、マリストル王国の中だけの仕組みですか?」


 続けて、気になっていたことを重ねて聞く。


「いいえ」


 ノーラさんは、首を横に振った。


「多くの国で、著作権という仕組みは共有されています」


「ただし――」


 バルド支部長が、そこで口を挟む。


「中には、『よそが決めた仕組みには乗らん』と、著作権を認めない国もある。それに、国境を越えての著作権の侵害は、著作者が感知できないことも多いだろう」


 肩を軽くすくめる。


「だから、完全な盾ではない。だが、何もしないよりは、はるかにマシだ」


〈国をまたいだ仕組みだけど、遠く離れた場所でやられたら気づかないかもしれない〉


 でも、少なくとも「先に動いた側」にちゃんと権利がある。リバーシに関しては、プレス機なしで真似されても、たぶん粗悪品しか作れないだろう。


「リバーシは……登録しますか?」


 ノーラさんが、改めて尋ねてくる。


「お願いします」


「承知しました。では、書類を作りますので、少々お待ちください」


 ノーラさんは机の端に移動し、てきぱきと書類を書き始めた。ペン先が走る音が、心地よく耳に入る。


「しかし、その『リバーシ』というのは……」


 バルド支部長が、ふと顎に手を当てる。


「アイザットからも話は聞いていたが、どんな遊びなんだ?」


 その質問を待っていたみたいに、アイザットさんがすかさず動いた。


「ちょうど良かった」


 革袋を一つ取り出し、机の上に置く。そこには、見慣れた炎の夜明けのロゴ。


「これが、その『リバーシ』です。最近、ロンドールで売り始めたセットですね」


 袋から盤とコマを取り出し、支部長の前に並べていく。


「盤の中央に、白と黒をこう置きまして――」


 アイザットさんは簡潔にルールを説明していく。


「……最後にたくさん自分の色が残っていたほうの勝ちです」


「……ふむ」


 バルド支部長は、腕を組んだまま盤を見つめる。


「やってみますか?」


 アイザットさんが、にやりと笑う。


「黒が先攻です。バルドさん、どうぞ」


「よかろう」


 支部長は一手、コマを置く。そこから数手、アイザットさんが相手をしながら、打つたびに挟み方を説明していく。


 数分後――。


「……なんだこれは」


 支部長は、ひっくり返ったコマの山を見て、目を細めた。


「形は簡単だが、なかなか頭を使うな。これなら酒場でも、家でも、どこでも遊べる」


「気に入っていただけましたか?」


「これは、興味深いどころじゃない。……エステルでも手に入るのか?」


「しばらくは、ロンドールでの販売を優先します」


 俺は、はっきりと答える。


「そのあと、エステルにも広げていく予定です。販売までの仕組みは、もう整えています」


「そ、そうか……」


 支部長が、少しだけ残念そうな顔をした。


「バルドさん、こちら」


 間髪入れずに、アイザットさんが革袋をもう一つ差し出す。


「今日は、5セット持ってきました。よろしければ、支部長の知り合いの商会長や、役所の方とも遊んでみてください」


〈この人は……久々に見た、最強の広告塔だな〉


 支部長室から、エステルの上層部にリバーシが広がっていく未来が、少しだけ見えた気がした。


「お待たせしました」


 そこへ、ノーラさんが書類を抱えて戻ってくる。


「著作物登録の書類、一式できました。本来であれば、王都に回して正式な承認を得てから、という流れになるのですが――」


 ノーラさんは、ちらりと支部長を見る。


「今回のリバーシに関しては、現時点で同名の登録もありませんし、構造も明らかに独自性があると判断できます。ですので、先行登録扱いとして、こちらで印章の使用を許可します」


「そんなことをしていいのか?」


 父さんが思わず口を挟む。


「問題ない。必要なら、あとから王都にはいくらでも説明できる」


 バルド支部長が、代わりに答えた。


「では――」


 ノーラさんが、小さな金属の刻印を俺のほうに差し出す。


「これが、リバーシが炎の夜明け商会の著作物であることを示す印です。今後、リバーシの正式な製品には、この印を焼き印なり刻印なりで入れてください」


 小ぶりな炎のマークの横に、小さく記号のような文字が刻まれている。


「これを、登録していない製品や、他人の商会の製品に勝手に押した場合――悪質と判断されれば、法人資格の剥奪までありえます。その点は、よく理解しておいてくださいね」


〈すご……〉


 きっちりしているのに、柔軟さもある。さすが、支部長付きの書記だ。


「ありがとうございます」


 俺は、両手で印章を受け取った。


〈これで、リバーシは、炎の夜明けの正式な『財産』になった〉


 こういう仕組みをちゃんと使っていけるかどうかが、世界一の富豪への道のりの、第一歩なんだろう。小さな印章の重みが、急に現実味を帯びて感じられた。

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