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異世界で社長になる。   〜5歳児から始める異世界ビジネス革命〜  作者: Mizunoki.Kawai


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## 62話 エステルのただいまとはじめまして

## 62話 エステルのただいまとはじめまして


ノール川を下ること丸1日。

荷舟が速度を落とし、石造りの桟橋が何本も並ぶ船着き場が見えてきた。


ここが、領都エステル。

ロンドールとは比べものにならない人と荷物の量に、思わず息をのむ。


「お、お……下が……大地が揺れてる……」


船を降りても、父さん――ゴードンはふらふらだ。


「やっと着いたわねぇ。3年ぶりかしら。懐かしいわ」


母さん――サラは、川沿いの街並みを眺めて目を細めている。


船着き場は石畳の大通りにつながっていて、そこを商人や荷車がひっきりなしに行き来していた。

魚、穀物、香辛料、油の匂いが、ごちゃ混ぜになって鼻をくすぐる。


〈これが……人口15万人の領都か〉


「では、予定の確認をしておきましょう」


案内役の組合長――アイザットさんが、俺たちに振り向いた。


「今日は皆さんは、サラさんのご実家へ行ってご挨拶。

 私はいつもの宿がありますので、ここで解散です」


「うちに泊まっていけばいいのに。本当にいいの?」


母さんが首をかしげる。


「はい。私も顔を出したい先がありますし、家族の団らんを邪魔するわけにもいきませんから」


「段取りから何から、色々ありがとうございます」


「良いんですよ、ライム社長」


アイザットさんは軽く笑ってから続けた。


「明日は、10時にエステルの商工会で。登録商会の申請を済ませましょう。

 三日目は観光して、15時の船で帰る――そんな流れです」


「お、おう……10時だな……」


まだ足もとがおぼつかない父さんが、なんとか返事をする。


「では、私はここで。また明日」


そう言って、アイザットさんは人混みの中に消えていった。


「じゃあ、行きましょうか。うちに」


俺たちは荷物を背負い直し、母さんの後について川沿いの道を歩き出した。


――


川から一本入った通りに、目的の店はあった。


「着いたわよ」


母さんが立ち止まる。


そこには、テンドー商会をひと回り大きくしたような店があった。

入口には麻袋に入った麦や豆が積まれ、店の中には大きな壺や木箱がきれいに並んでいる。


〈なるほど……穀物などの食料品の商会って感じか〉


「いらっしゃ――」


カウンターの奥から顔を上げた中年の男が、途中で言葉を切る。


「……サラ!」


母さんの父――オルドだ。


「ただいま、お父さん」


「よく帰ってきたな!」


オルドさんはカウンターを回り込んでくると、大きな声で奥に声をかけた。


「おーい、リーネ! サラが帰ってきたぞ!」


「え、本当?」


ぱたぱたと足音が近づき、きびきびした雰囲気の女性が現れる。

サラの母――リーネだ。


「サラ! おかえりなさい!」


それから、父さんのほうを見てにっこり笑う。


「ゴードンさんも、お久しぶり。元気だった?」


「ご無沙汰してます。……ちょっと船にやられましたが」


「ふふ。あなたはそうだったわね。

 そして――あなたがライムね!」


今度は、俺に視線が向く。


「は、はじめまして……」


「はじめましてじゃないのよ?」


リーネさんはくすっと笑った。


「あなたが生まれたての頃、私もロンドールに手伝いに行ってたのよ。

 抱っこして、お世話してたんだから。覚えてない?」


〈もちろん覚えてる。

 すごく可愛がってくれて、『知性があることを出したらまずい』ってビクビクしてた……〉

もちろん言えない。


「母さん、覚えてるわけないじゃない。赤ん坊だったんだから」


「それもそうね。ふふ」


オルドさんが、改めて父さんに向き直る。


「ゴードンさんも、遠いところをようこそ。

 部屋はもう用意してある。荷物を置いてくるといい」


「お世話になります」


俺たちは二階の客間に通され、荷物を置いてから、一階の居間へ戻った。


――


居間では、リーネさんが手際よく夕食の準備をしている。


「お母さん、お姉さんたちは?」


母さんが尋ねる。


「マインたちは配達よ。しばらくしたら戻ってくるわ」


大きな籠を指さして、肩をすくめる。


「アイシャは言ってなかったっけ?

 旦那さんの転勤で、今は王都暮らしよ」


「え、そうなの?

 知らなかった……」


「あんたたち、もっとちゃんと連絡取り合いなさいよ、まったく」


ぶつぶつ言いながらも、どこか楽しそうだ。


「そんなことより、ライム君。疲れたでしょ?

 店じまいして、マインたちが帰ってきたら、みんなで晩ごはんにしましょう。

 ロンドールの話、たくさん聞かせてね」


「はい。ありがとうございます」


〈……すごい。ずっと喋ってる〉


サラとリーネさんの掛け合いを聞いていると、この家の『主導権』がどこにあるのかよく分かる。


――


日が暮れきった頃、表の戸が勢いよく開いた。


「ただいま戻りましたー!」


大きな籠を抱えた女性――マインおばさんと、その旦那さん。

それから、女の子が2人、ぱたぱたと続く。


「おかえり。ほら、サラが帰ってるわよ」


「え、本当!?」


マインおばさんが居間にかけてくる。


「サラ! 久しぶりねぇ!」


「マイン姉さん!」


2人は抱き合って、きゃあきゃあ言いながら再会を喜んでいる。


その横で、女の子2人がこちらをじっと見ていた。


「この子たちは、うちの娘よ。

 上がリタ、10歳。下がミア、5歳」


「よろしくね!」


「よろしくー」


「よろしく。ライムです」


ほどなくして、オルドさんも戻ってきて、全員が居間にそろった。


テーブルには、パン、スープ、肉の煮込み、豆料理、サラダ――

料理がぎっしり並んでいく。


「じゃ、それじゃあ」


リーネさんが立ち上がる。


「みんな、手をつないで、目を閉じてください」


〈ん?〉


言われるままに、隣の父さんと、反対側のリタと手をつなぐ。


「日々の恵みに感謝して――エリス様に、感謝を」


「感謝を!」


俺と父さん以外、全員の声がぴたりと揃う。


「じゃあ、いただきましょう」


ぱっと手が離れ、食器の音が一斉に鳴り始めた。


〈こういうの、初めてだな〉


ロンドールでも教会はあったけど、ほぼ素通りしていた。

当然、この世界にも宗教があって、こういう家もある。


少し不思議な気持ちで、俺もパンをちぎった。


――


しばらくして、料理が一段落した頃――

リーネさんが改めて俺に向き直った。


「ライム」


「はい?」


「サラから手紙をもらったのよ。

 『うちの子が商会の代表人になる』って。

 すごいじゃない!」


〈母さん、その書き方はハードル高いんだって〉


「はい。『炎の夜明け』っていう商会を立ち上げます」


父さんと母さんをちらりと見てから、

ロンドールでのことと、これからやる事業の話を、かいつまんで説明する。


ランチボックスと配達のこと。

リバーシとテンドー商会。

蒸留器とカチさん。

登録商会の手続きと、この旅の目的――。


「……父さんと母さんが後押ししてくれたおかげで、ここまで形になりました。

 だから、ちゃんとやれるように頑張ります」


話し終えて顔を上げると、テーブルの上から音が消えていた。


全員、フォークやスプーンを持ったまま固まっている。


「……手紙にはね」


マインおばさんが、何とか再起動して口を開く。


「『うちの子は超神童よ』って書いてあったの。冗談半分だと思ってたんだけど……

 冗談じゃなかったのね」


「当たり前じゃない!」


母さんが胸を張る。


「私はつまんない見栄は張らないの!」


〈いや、それは冗談にしか見えない。まぁ説明のしようもないけど〉


「えーとね」


リーネさんが、なんとも言えない顔で笑う。


「赤ん坊のときから、ちょっと変わってたものねぇ。

 不気味なくらい全然泣かないし、おむつも『あー』って分かりやすく合図してくれるし。

 手のかからない子で助かったけど……」


〈え、かなり『普通の赤ちゃん』を意識したつもりなんだけど〉


「それが普通じゃないの?」


母さんが不思議そうに首をかしげる。


〈ヤバい。もし弟か妹ができたら、ごめん。

 うちの両親、子育ての基準ズレてるかもしれない〉


そんなことを考えていると、リタがフォークを置いてこちらを見た。


「ねえ」


「ん?」


「さっきから出てくる『リバーシ』って、なに?」


「りばーし?」


ミアが、言葉だけ真似して首をかしげる。


「リバーシはね――」


俺は笑って、パンくずを指で払った。


「食べ終わったら、一緒にやろうか」


新しい街での、最初の夜。

エステルでの『ただいま』と『はじめまして』は、こうして賑やかに始まったのだった。

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