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異世界で社長になる。   〜5歳児から始める異世界ビジネス革命〜  作者: Mizunoki.Kawai


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## 61話 ノール川の船着き場で

## 61話 ノール川の船着き場で


クララにお礼をしてから、6日が経った。


今、俺たちはノール川の船着き場に立っている。

父さんと母さん、そして案内役のアイザットさん。

川面を渡る風が、少しだけひんやりして気持ちいい。


――出発を待ちながら、ここに至る6日間のことを、自然と思い返していた。


―――


その6日間は、とにかく「あっという間」だった。


まずは、ランチボックスと配達だ。


テトが手綱を握り、隣にはちょっと緊張顔のヤト。

荷台には、炎の鍋亭で詰められたランチボックスと、配達用の洗濯物の入った桶が積み上がっている。


「じゃ、行ってきます!」


ヤトの声も、日ごとに大きくなっていく。


馬車は、まず薪屋と鍛冶屋、それから市場組合へ。

そこに「いつものランチボックス」を届けながら、洗濯物の集荷も済ませていく。


「このランチボックス、また頼むぞ!」


「これ1つで昼が済むのは、本当助かるわ」


そんな声が少しずつ増えていって、

決まった数を配り終えたあとは、広場の一角で「残り分」を売るのが日課になった。


「ランチボックス、あと5つでおしまいでーす!」


テトの声に、周りの職人や商人たちが集まってくる。


売り切れたら、そこからは、大口の得意先に洗濯物の配達と集荷をして回る。


ランチボックスと洗濯物の流れが、1つの線になって街の中を巡っていく。


テトは馬車の扱いに完全に慣れ、

ヤトも、地図を見なくても道順を言えるようになってきた。


洗い屋のほうでは、ハインズさんとサクラさん、クララの3人が、ほとんど一日中店にいられるようになった。


「前は、配達で外に出てる時間が長かったからねぇ」


ハインズさんは、洗い場の様子を見守りながら、しみじみと言う。


「今は、洗うことと受け渡しに集中できるから、助かるよ」


サクラさんは帳場で紙を整理し、

クララは、お客さんの案内や荷物の受け渡しを手伝っている。


前より少し、店の中の空気がゆったりしてきたように見えた。


―――


炎の鍋亭では、父さんの「不在中モード」への引き継ぎが進んでいた。


厨房の隅には、父さんが書いた簡易レシピ帳が積まれている。

その横で、エッタさんが新しい帳面を開き、ミナが真剣な顔で書き写していた。


「ここはね、ゴードンさんの勘の部分だから、分量はこうして決めましょう」


「は、はい!」


エッタさんは、父さんの料理を何度も味見してきた分、

「いつもの味」を言葉と数字にするのが上手い。


父さんは腕を組んで、そのやり取りを見守っている。


「……これなら、なんとかなるか」


「大丈夫ですよ」


エッタさんが、いつもの落ち着いた笑みを浮かべる。


「メニューも少し絞りましたし。あとは、ミナと見習いさんたちとで、回せるようにしておきます」


「頼んだぞ」


父さんは、珍しく素直に頭を下げた。


母さんはと言えば、カウンターで「不在中の注意書き」をしたためつつ、

お客さん一人ひとりに「来週はうちの子が領都デビューなのよ」と宣伝していた。

あれはあれで、立派な広報活動だと思う。


―――


ロゴも、あっという間に形になった。


柔らかい線で描かれた炎が、すっと上に伸び、

根元から三本の光が広がっていく。


炎の夜明け商会――「ここから先へ伸びていく」印。


そのロゴが、最初に製品として形になったのは、リバーシだった。


テンドー商会・ロンドール本店の店内。

道具類の棚の一角に、革袋入りのリバーシと、盤セットが並ぶ。


シンプルな木箱の表面には、ミナの炎が焼き印で刻まれていて、

革袋の端にも、小さく同じマークが押されていた。


「これが、例のリバーシか」


「おお、思ったよりちゃんとした品物だな」


道具を見に来た大工や、鍋を買いに来た主婦たちが、興味深そうに手に取る。


「炎の夜明け商会……?」


「なんか、かっこいい名前ね」


その日、実際に何セット売れたかは、まだ分からない。

でも、棚に並んだそれを見た瞬間――胸の奥がじんとした。


〈遊びじゃなくて、製品になったんだな〉


―――


その裏側で、マルタのおっちゃんとカチさんは――

どこかの倉庫の隅で、こっそりと茶色い液体を分け合っていたという。


「……くぅぅぅ!」


マルタのおっちゃんが、喉を押さえて目を丸くする。


「どうだ」


カチさんが、ニヤリと口の端を上げる。


「なんだこれは……! 喉が焼けるのに、香りが残る……!」


「坊主が『ういすきー』とか言ってたな」


「名前はどうでもいいが、これは……売れるぞ」


「だろう?」


2人は顔を見合わせ、にやりと笑う。


「問題は、わしらが飲み尽くす前に製品にできるかどうかだ」


「はは、それが一番の課題かもしれねえな!」


―――


そして俺は、この6日間で、クララとたくさん遊んだ。


リバーシを打ちながら、ランチボックスの話をしたり。

ときどき、クララが「KOMやります!」と言い出して、

2人と1人(たまにミナも混ざる)で、ミニ説明会ごっこをしたり。


「ライムは、領都に行って、何をしてきますか!」


「えー……登録商会の手続きと、母さんの実家への挨拶と、

それから――おいしい料理と面白いものの調査です」


「はい! がんばってください!」


クララは、最初こそ少し寂しそうだったけれど、

最後には「早く帰ってきて、エステルの話いっぱい聞かせてね」と笑ってくれた。


―――


そして――6日後。


ノール川の船着き場。


大きめの荷舟が、川べりに繋がれている。

荷台には、領都へ運ぶ荷物と一緒に、俺たちの荷物もくくりつけられていた。


「忘れ物はないか?」


父さんが、いつもの調子で確認してくる。


「うん、大丈夫」


俺は、腰の小さな袋をぽん、と叩く。

そこには、小さなロゴの紙が入っている。


アイザットさんが軽く笑った。


「まあ、気負いすぎずにな」


旅慣れた装いの、いつもの商人スタイルだ。


「今回の旅は、商会の登録だけじゃない。

領都エステルの空気を感じて、何があって、何が足りないか、自分の目で見てくるんだ」


「はい」


ぐっと拳を握る。


ロンドールで始まった、炎の夜明け。

その最初の一歩を、今から外の世界に刻みに行くんだ。


「じゃあ、行こうか」


アイザットさんの合図で、ロープが外され、櫂が水をかく。


ロンドールの街並みが、少しずつ遠ざかっていく。


こうして俺たちは、ノール川を下る船に乗り――

領都エステルへ向けて、最初の航路を踏み出した。



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