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異世界で社長になる。   〜5歳児から始める異世界ビジネス革命〜  作者: Mizunoki.Kawai


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## 59話 銅管とお礼のハンカチ

## 59話 銅管とお礼のハンカチ


気持ちを新たに、俺はカチ鍛冶屋へ向かう。


通りを抜けると、いつもの金属を打つ音が響いていた。

カチさんは、今日も汗だくの弟子たちに檄を飛ばしている。


「すいませーん! すいませーん! すいま――」


「うっせぇ、あっちで待ってろ!」


〈はい、今日もありがとうございます〉

怒鳴られると、むしろ安心するあたり、ちょっとおかしい。


工房の一角、商談用に片付けられた小部屋で待っていると、

しばらくしてカチさんとラークが入ってきた。


「小僧。昨日はいいもん見せてもらったぜ」


「全体が聞けて、すごく助かりました」


確かに、カチさんとラークは、それぞれ自分のところの話しか知らなかったかもしれない。

クララの『交通整理会議』のおかげで、みんなの頭の中が同じ地図を持てるようになったんだろう。


内心でクララに感謝しつつ、本題に入る。


「アレ、もうできてるの?」


「おう。例のアレだ」


カチさんはニヤリと笑うといったん裏へ引っ込み、焦げ茶色の液体が入った瓶を持って戻ってきた。


「これだ。お前が言ってた蒸留器で、エールを分離してみた」


「貸して!」


思わず、瓶をひったくってしまう。

コルクを抜き、匂いを嗅ぎ、掌に少し垂らして舐める。


「お、おい!」


カチさんの制止が耳に入らない。


〈こ、これは……〉


喉を焼くような強さ。

麦の甘みの奥に、覚えのある香り。


〈ウイスキー……!〉


荒々しいけど、間違いなく蒸留酒だ。

これを樽で寝かせて、5年、10年……。


〈これは金のなる木だ。10年後、クララと乾杯だな〉


「坊主! 聞いてんのか!」


ハッと我に返る。


「あっ、やべ……!」


慌てて瓶を置き直し、頭を下げる。


「すごいよ、カチさん! あの説明だけで、本当に蒸留器ができちゃうなんて!」


「落ち着け」


カチさんは鼻を鳴らす。


「あぁ、お前さんの言葉で銅管を作る方法にピンときてな。

だいたい500度くらいまで熱すると、銅がいい具合に柔らかくなるんだが――」


言いながら、手で円を作って見せる。


「金型に押しつけると、きれいな管になる。まあ、お前の言う『むにゅ』ってやつだな」


〈押出工程……!〉


前世で見た図と、カチさんの指が重なる。


これで、銅を「管」だけじゃなくて「線」でも扱えるようになった。

〈これがあれば、あんなことも、こんなことも――〉


「あんな説明で、よくここまで……ホントすごいよ」


「……まあな」


ちょっと照れたように視線をそらす。


「結構苦労はしたが、なんとか形にはなった。

しかし、お前、酒の機械にずいぶん喜ぶな」


〈やっべ〉


前世で毎日ハイボール飲んでたとは言えない。


「う、うん……もちろん強いお酒も嬉しいんだけど、それだけじゃなくてさ」


慌てて言葉をつなぐ。


「蒸留って、香りの強い部分を集めたり、成分を分けたりする技なんだ。

だから、香水とか薬にも使えるんだよ」


「ほう。酒だけじゃねえのか」


「うん。それに――」


つい口が滑りそうになる。


「この銅の加工ができれば、いずれ『モーター』も作れるし、『発電』だって――」


「もーた? はつでん?」


カチさんが眉をひそめる。


「おい、今の詳しく教えやがれ」


〈あ、やっちゃった〉


どこまで言うか迷う。


「え、えーと……その、次の商売のタネになるなって、ちょっと思っただけ」


「ふん」


じっと俺を見て、ふっと口の端を上げる。


「まあいい。また面白いもんが浮かんだら、わしんとこに持ってこい。

それより坊主、この酒はわしも飲んでいいのか?」


〈よかった。興味が酒に戻った〉


「うん。本当は樽に入れて何年も寝かせたほうが美味いけど、これでもアリだよ」


「ほう……!」


カチさんの目が輝く。


「製品になったら、わしにも卸してくれよ?」


「もちろん。

それで、蒸留器の代金なんだけど……」


「そんなもんは別にいいんだがな」


と、言いながら苦笑する。


「……お前さんは嫌なんだろ?」


「うん。炎の夜明けとしても、ちゃんと取引にしたいから」


「なら、そうしろ」


腕を組み、少し真面目な顔になる。


「これはな。素材の銅もそうだが、押し出す設備も必要だし、金型も特殊だ。

管を曲げる工程もいる。製品として作るとなったら――」


指を折る。


「金貨20枚はくだらんかもしれん」


〈金貨20枚……〉


ざっくり200万円。

今までほぼサービス価格だったということか。


〈……ありがとう〉


「……ありがとう。本当に、ありがとう」


「礼を言うのはまだ早ぇよ」


そっぽを向き、


「ちゃんと面白い結果を持ってこい。それが一番嬉しい」


と言って、瓶を大事そうに持ち直した。


――


カチ鍛冶屋を出ると、日が傾きかけていた。


〈結構、話し込んじゃったな〉


まだ午後には余裕があるが、このあとはクララのところへ行く予定だ。


〈お礼、ちゃんとしなきゃ〉


昨日の『交通整理会議』。

あれがなかったら、領都行きの段取りも、商談も、蒸留器の話も一気に進まなかった。


〈んー……お礼って何がいいんだろう〉


お菓子? アクセサリー?


クララは5歳。俺も5歳。

高価な装飾品は違うし、センスもない。


〈おもちゃ……いや、リバーシはもう持ってる〉


そんなことを考えつつ市場を歩いていると、カラフルな布製品が目に入った。


屋台の一角に、小さな織物屋の店。

布バッグやハンカチが並んでいる。


「あら、可愛いお客さんね!」


明るい声が飛んでくる。


「こんにちは! これって手作りなんですか?」


手に取ると、布はしっかりしていて縫い目も丁寧だ。


「ええ、そうよ。うちは織物屋でね」


布を指さしながら説明してくれる。


「今日は、友達にお礼をしたくて」


「まぁ! 友達ねえ?」


おばさんはニヤニヤ笑う。


「彼女かい?」


〈友達って言ったのに……〉


「ち、違います! 俺、5歳ですから!

えっと、その子も幼馴染みで同じ5歳で」


「まぁまぁ。幼馴染みねぇ。うふふ」


おばさんは楽しそうだ。


「だったら、こういうのなんかどう?」


取り出したのは、小さなハンカチだった。


白地に淡い縁取り、片隅に小さな花の刺繍。


〈……かわいい〉


「お礼ならちょうどいいよ。銅貨5枚だね」


〈銅貨5枚……いける〉


クララがこれを手にしている姿を想像して、即決する。


「これください!」


「毎度あり!」


麻紐でくるっと縛り、蝶々結びにしてくれる。


「その子、きっと喜ぶよ。ちゃんとありがとうって伝えるんだよ?」


「はい!」


ハンカチを受け取り、胸の前でぎゅっと抱きしめる。


〈よし〉


これでクララに「ありがとう」が言える。


花の刺繍入りのハンカチをポケットにしまい、

洗い屋――クララの家へと向かった。

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