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異世界で社長になる。   〜5歳児から始める異世界ビジネス革命〜  作者: Mizunoki.Kawai


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## 53話 社長の段取り

## 53話 社長の段取り


母さんとクララのやり取りを見て、俺がポカンと固まっていると、母さんがぱん、と手を叩いた。


「ほら、あんたはあんたで、やることやりなさいな」


「……は、はい」


〈なんか、母さんとクララのタッグが一番強い気がするな……〉


そう思って居間に戻ろうとしたところで――。


「おーい! ライム!」


裏口のほうから、元気な声が響いた。テトだ。


「ヤト来たよ!」


「お!」


慌てて厨房に顔を出すと、そこにはニキビ顔のテトと、その隣に少し緊張した面持ちの少年が立っていた。


「テトとヤト! ヤト、待ってたよ!」


「ど、どうも。これからお世話になります」


ヤトは、テトによく似た目元で、きっちりと頭を下げた。表情はまだ硬い。


「いやいや、こっちこそ。よろしくな」


俺も、できるだけ「社長さん」っぽくならないように気をつけながら、笑顔で応じる。


「早速なんだけどさ」


本題に入る。


「明日から、ランチボックスの試験運転と、洗い屋さんの配達を本格的に始めてほしいんだ」


「おう」


テトが、いつもの調子で頷いた。


「その話ならクララに言われてる。配達先の引き継ぎは、もう始めてるよ」


「え?」


「『ヤトお兄ちゃんが来る前に、テトお兄ちゃんが一緒に回っておいてくれるといいと思う』ってさ。

だから、ここ2日くらい、洗い屋の配達ルートを一緒に回ってる」


〈……クララさんの差し金だったか〉


さっきの「明日みんな集めてください」という交通整理力といい、本当に侮れない。


「ランチボックスも了解だぜ」


テトが続ける。


「ヤト、後でちゃんと説明するな。荷物の積み方とか、回る順番とか」


「うん、わかった」


ヤトはまだ硬いが、その声にはやる気が乗っていた。


「よし」


テトが腰に手を当てる。


「じゃあ、洗い屋に行ってくるよ。ヤトの挨拶も済ませてくる」


「頼んだ」


厨房から通りへ出ていく2人の背中を見送る。


〈これで、現場の方は大丈夫だろう〉


配達と馬車、洗い屋との連携。

テトとヤト、クララの家族。

俺が一から全部指示しなくても、もう動き始めている。


〈なら、俺は……俺のやることをやらないとな〉


――


母さんも「ゴードンと一緒に声かけてくるよ」と言い、それを見送ったあと、俺は2階の居間に上がる。


テーブルの上に羊皮紙とインク壺を並べた。


明日の会議――クララが仕掛けてくれた「ライムの今後の説明会」に向けて、頭の中をちゃんと形にするためだ。


〈……さっき、クララに話したから、だいぶつっかえが取れた気がする〉


あのリバーシ盤の前で、一通り言葉にしたことで、自分でも「何に追われているのか」が見えてきた。


「えーと、まずは……」


ペンを手に取り、羊皮紙の上に項目を書き出していく。


『1. 法人届を出す理由』


なぜ、わざわざ「法人」にするのか。みんなには、ちゃんと説明したい。


・炎の鍋亭だけじゃなく、洗い屋やマルタ、カチさんたちと一緒にやる仕事が増えてきたこと。

・これから先、リバーシやランチボックスみたいな新しい商売をする時に、「店」じゃなく「組織」として動いたほうがやりやすいこと。

・責任を曖昧にせず、「ここまではこの法人が請け負う」と線を引けるようにすること。


……あたりか。


〈難しい言葉は抜きで、“みんなが安心して一緒に動ける箱”だって伝えたい〉


「で、その法人届を出しに行く日程だな」


『2. 領都行きのスケジュール共有』


母さんの話だと、ノール川を使ったルートで――


・行き:川下りで丸1日。

・帰り:川を遡るから3日。

・泊まり:母さんの実家――領都の商会――。


「つまり、移動だけで4日。

それに、向こうの役所回りとか、母さんの実家との挨拶とか考えると……」


〈最低でも“1週間”は店を離れることになる〉


父さんが言っていた通り、「1週間後からの1週間、不在」という前提で話を組み立てる。


「出発までの1週間でやることを、ちゃんと整理しないとな」


ペン先が、さらさらと紙の上を走る。


『3. 出発までにやること』


・ランチボックス作戦と、洗い屋との連携の本格スタート。

 → テトを中心に、ヤトとクララの家族と組んで動いてもらう。

 → メニューと値段、配達の範囲を、この1週間で試す。


・家族が不在の間の炎の鍋亭の運営準備。

 → 厨房は父さん不在を前提に、「エッタさん+ミナ+見習いたち」で回せる形に。

→ エッタさん中心に、開店時間やメニューを少し絞るかどうかの相談。

→ 帳簿は、完全にエッタさんに任せる。母さんは……お役御免だ。


・リバーシの扱い。

 → 今まで通りラークには1日10セットの製作をお願いする。

 → 新規分については、販売開始まではエッタさんが予約表に追記していく。


・テンドー商店への説明。

 → 「販売店」として、リバーシや今後の商品を扱ってもらいたいこと。

 → 今後、正式な販売契約の条件を詰めたいこと。

 → 明日の説明会では、「まずは口約束で方向性を共有する」とこまで。


書き出してみると、頭の中のモヤモヤが少しずつ形を持ち始める。


〈よし、出発までの“段取り”はこんなもんか〉


「で……」


ペン先を一度止める。


「問題は、ここからだな」


『4. 法人としての“ビジョン”』


――法人として、何をしたいか。


これは、明日の説明会で、みんなの前でちゃんと言葉にしなければならない。

クララは間違いなく、そこを一番聞きたがるだろう。


〈どんどん仲間を増やしたい〉


マルタ、カチさん、洗い屋の家族、テトとヤト、エッタさんたち。

今、俺の周りには「一緒に何かをやろう」と思ってくれている大人たちがいる。


「世界を、少しずつ便利にしたい」


魔法もドラゴンもいない、ただの中世レベルの世界。

それでも、前世の知識を使えば、もっと楽に、もっと安全に、もっと豊かにできるはずだ。


〈そして、行けるところまで行きたい〉


炎の鍋亭一軒で完結する話じゃない。

ロンドールの中だけでもない。

領都、その先の街……。


漠然としているけれど、その「遠く」に届きそうな気配が、今の俺の周りには確かにある。


「……うん。まだざっくりだけど、こういう話をちゃんとしよう」


羊皮紙の端に、「仲間」「便利」「遠くまで」と大きく書き込む。

キーワードだけでも、明日読み上げればきっと思い出せる。


そして、最後の項目にペンを向けた。


『5. 法人名』


ここは、もう迷っていない。

前からずっと、心の中で温めていた名前がある。


「……よし」


誰にも聞こえないような小さな声でつぶやきながら、

俺は、羊皮紙の一番下に、その名前を書き込んだ。


〈これは――明日の場で、みんなの前で言おう〉


クララも、父さんも、母さんも、テトもヤトも、洗い屋の2人も、マルタもカチさんも、テンドーさんも。

あの場に集まる全員に、「この名前で一緒にやっていきたい」と胸を張って言いたい。


インクが乾くのを待ちながら、羊皮紙の束を見直す。


〈よし。あとは――〉


みんなに伝わるように、順番を整えて、言葉を選ぶだけだ。


「……やるか」


俺は姿勢を正し、羊皮紙を新しく1枚引き寄せた。


タイトルの行に、大きくこう書く。


『ライムの、これからの話』


その下に、さっき書き出した項目を、今度は「人に話す」ための順番に並べ替えていく。


父さんが聞いたらどう思うか。

母さんはどこで茶々を入れてくるか。

テトとヤト、エッタさんたちは、どこで不安になりそうか。

テンドー商店やマルタ、カチさんたちは、どこで「商売としてどうなのか」を見てくるか。


一人一人の顔を思い浮かべながら、言葉を削り、書き足す。


気がつけば、窓の外の光が少し傾きかけていた。


〈明日、ちゃんと話せるように〉


インクで黒くなった指先を見つめて、俺は小さく息を吐いた。


〈よし――社長としての、最初のプレゼンだ〉



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