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異世界で社長になる。   〜5歳児から始める異世界ビジネス革命〜  作者: Mizunoki.Kawai


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## 50話 工房回りとムニュ管

## 50話 工房回りとムニュ管


組合を出て、父さんと一緒に市場通りを歩く。


〈せっかく外出してるしな〉

頭の中には、もう別の顔が浮かんでいた。


「父さん」


「ん?」


「俺、このあとマルタさんとカチさんのところ回ってくるよ。

リバーシのこととか様子も見ておきたいし」


「そうか。なら店には先に戻ってる。

あんまり遅くなるなよ」


父さんと別れて、俺は市場通りの外れ――マルタの薪屋の作業場へ向かった。


――


マルタの薪屋では、今日も「ガコン、ガコン」と景気のいい音が響いていた。


腕っぷしのいいおっちゃんが、汗を飛ばしながら斧を振り下ろしている。


「おっちゃーん!」


「おう!」


斧を肩に担いで振り向いたのは、もちろんマルタだ。


「久しぶりだな、坊主! 5日ぶりくらいか」


「そんなに経ってたか」


言われてみれば、テトの実家に行ったり、法人相談したりでバタバタしていた。


「テトの実家に行ってたのもあるし、その後、色々あってさ」


「色々?」


〈これはちゃんと話しておかないとな〉


俺は、法人届のことと、社長になったことをかいつまんで説明した。


「――ってわけで。

俺が代表人になって、父さんと母さんが後見人で、組合長が保証人」


「坊主が、社長?」


一瞬、間を置いてから。


「……がははははははは!!」


作業場中に響き渡る大爆笑が返ってきた。


「そんな笑う!?」


「がはは! いや、悪ぃ悪ぃ……。

とんでもねえガキだとは思っていたが、まさか5歳で代表人になるとはな。こりゃ傑作だ!」


笑いながら、マルタは近くで薪を運んでいた兄ちゃんたちに怒鳴る。


「おい、お前ら! こいつぁライム社長だ!

リバーシで登録法人になった、大した坊主だぞ!」


「え、社長?」

「マジっすか」


力仕事担当の兄ちゃんたちが、わらわらと集まってくる。


「こんちわーっす!」

「これからお世話になりやーす!」


口々にそう言いながら、やたらペコペコ頭を下げてくる。


「ちょ、ちょっとやめてよ!」


こいつら揃いも揃って、いじる気満々じゃないか。


〈おぼえてろよ。なんかのタイミングで仕返しするからな〉


マルタはそれを見て、さらにおかしそうに笑った。


「がーっはっは!

まぁ坊主。社長になるってことは、こういう連中も含めて『全員自分の手下』だ。

自分の好きなように、遠慮なくやれ!」


「……全員部下、か」


〈そうだよな。

責任を取るのは俺で、その上で好きなようにやる〉


さっき父さんが言ってたことが、別の角度から繰り返された気がした。


「で、今日はその報告か?」


「うん、それもあるけど――」


俺は背負ってきた袋をちょいと持ち直す。


「リバーシの受け取りにも来た。

あれから、12、3セットくらいできてる?」


「おう、それなんだがな」


マルタはニヤリと笑った。


「盤を買いたいってやつが、思ったより結構来てな。

ラークと相談して、少し増やして作った。

今、20セットできてるぞ」


「20も!?」


予想の倍近い数字に、思わず声が裏返った。


「ありがとう! ……それと販売所のこと、ちゃんと考えてなくてごめん」


「いいってことよ」


マルタは大きく手を振って笑い飛ばす。


「誰もこんなになるとは想像できなかったろ。

どれだけすごい商品か、こっちも肌で感じられたぜ」


「……そう言ってもらえると、ちょっと嬉しいな」


「続きの話は、カチのところに移動してからだな。

あいつにも声をかけてやらねぇと、そろそろヤバいことになってるぞ」


「ヤバいこと?」


「行きゃ分かる。ついてこい、坊主社長」


「だからその呼び方やめてってば……」


おっちゃんに文句を言いながらも、俺はマルタと一緒にカチの鍛冶屋へ向かった。


――


「入るぜー!」


マルタが遠慮なく扉を開けて中に入る。


熱気と、鉄と炭の匂い。

火の粉が散る音が、耳に心地いい。


「おう、マルタか!!」


奥から、よく通る声が響いてきた。


「……おお、小僧! 来たか!」


姿を現したカチさんは――。


「……目の下の隈がすごい」


思わず口から本音が漏れた。


「うるせぇ! 今いいとこなんだ!」


言うが早いか、俺は腕をつかまれて、ずるずると商談室兼休憩スペースに引きずり込まれる。


「おい、見ろ坊主。お前の言う『蒸留器』だがな――」


そこには、金属で組み上げられた、見慣れた形があった。

大きな鍋状の部分に、蓋。

そこから伸びる管。

下には受けの壺。


「ほとんど蒸留器」と言っていい形だ。


「すご……」


「そこそこ形にはなったんだが――問題はここだ」


カチさんは、ぐい、と管の部分を指さした。


「どうしても、この曲がってるところがな。

叩いて成形して曲げようとすると、微妙に隙間ができやがる。

そこから蒸気が漏れちまうんだ」


確かに、よく見ると、継ぎ目のところに細かい隙間が残っている。


〈ここまで1人で作ったの、本当にすごいんだけどな〉


「カチさん、すごいや! あの説明で、よくここまで」


「すごいとか褒めてる場合じゃねえ。

俺が聞きてぇのは『管』だ。

なんかいい方法、知らんのか」


ぐいっと顔を寄せられて、思わずのけぞる。


〈うーん。カチさんは、多分叩いて整形してるんだろうけど……〉


前世で見た銅管は、もっと滑らかで、継ぎ目もなかった。


〈あれってどうやって作ってるんだろう。

なんか、最初から管の形でできてるような……〉


頭の中で、うろ覚えの銅管の映像が再生される。


「俺も詳しくは分かんないけどさ」


少し考えてから、ゆっくりと言葉を選ぶ。


「叩いて管を作るのは、なんか違う気がするんだ。

熟練のカチさんでも難しいなら、そもそも方法が違うんだと思う」


「ふむ」


「多分だけど……

『最初から管の形でできてる』感じだと思うんだよね。

えっと……焼き菓子の生地をさ、袋からムニュって絞り出すみたいに。

ムニュッて押し出したら、そのまま管になる、みたいな」


「そのまま、管……」


カチさんの目が、ぎらりと光る。


「ムニュって、管……柔らかい……押し出す……」


ぶつぶつと呟きながら、視線が遠くを見始めた。


〈あ、これ完全に『あっちの世界』に行ったやつだ〉


さっきまでの疲れた顔が、逆に怖いくらい生き生きしている。


「カ、カチさん? あの、リバーシの件なんですけど――」


「…………」


ぴくりとも反応がない。


「ライム坊」


横から、聞き慣れた声がした。


振り向くと、ラークさんが溜息をつきながら立っていた。


「ありゃもう、耳に何も入ってねぇ。

形になるまでは、戻ってこねえぞ」


「みたいだね」


ラークさんは肩をすくめる。


「リバーシの話なら、俺が聞く」


「ありがとう……」


俺は気を取り直して、ラークさんの方を向く。


「えっとね、リバーシなんだけど。

思ったより売れてるみたいでさ」


「だろうな」


「だから、1日10セット……だいたい650個分くらい、作りたいんだ」


「今のだいたい3倍か」


ラークさんは、顎に手を当てて少し考え込んだ。


「まぁ、何とかはなるな。

ただ、最近は親方もずっとこんな調子だし、鍛冶屋の本業もある」


ちらっと、まだぶつぶつ言っているカチさんの方を見る。


「これ以上増やす、ってなると、さすがに無理だ。

1日に10セットを上限だと思ってくれ」


「ストレートに言ってくれて助かるよ」


変に見栄を張られるより、ずっとやりやすい。


「そんじゃあ、その条件で回してみよう。

――ってことで、マルタのおっちゃん」


さっきから壁にもたれて様子を見ていたマルタに、俺は振り向いた。


「この前言ってたみたいに、これ以上増やすなら、マルタのおっちゃんのところで、って話になるのかな」


「おうよ」


マルタはニヤリと笑う。


「坊主社長。この前言った通りだ。

うちで専属でやるなら――」


ここで、わざとらしく溜めを作ってから続けた。


「1人雇うことにして、月額金貨1枚ってところだな」


「金貨1枚かぁ……」


思わず唸ってしまう。


「1人雇うから固定でかかるのは分かるんだけどさ。

1日中ずっとプレスしてるわけでもないのに、金貨1枚?」


「お前さん、やっぱり鋭いねぇ」


マルタはにやにや笑いながらも、指を1本立てた。


「だが、その中にはな――

プレスの世話だけじゃなくて、機械のメンテナンス代。

材の運び込みと運び出し。

それから、袋に小分けする手間賃も入ってる」


「袋に小分け……」


「今まで袋詰めはサービスでやってたんだぜ?

本当なら、あれだけで銅貨何枚かもらってもいい仕事だ」


〈この人には敵わないな〉


ちゃんと筋が通ってる分、ぐうの音も出ない。


「う、その節は。本当に助かってます」


素直に頭を下げるしかなかった。


「まぁ、今すぐ決めろとは言わねぇさ」


マルタは豪快に笑う。


「鍛冶屋のほうで回るうちは、ラークのところで作ればいい。

それでも足りねぇくらいになったら――その時は、すぐ言え」


「うん。必要になったら、真っ先に相談する」


「がはは、それでいい」


マルタは俺の肩をがしっとつかみ、ぐらぐらと揺すった。


「しかしまぁ、本当に坊主が社長さんになるとはな。

こりゃ、うかうかしてると、あっという間に置いてかれちまうかもしれねぇ」


「そんなことないよ。

俺ひとりじゃ、何もできないし」


「そう思ってるうちは大丈夫だ」


マルタは、少しだけ真面目な顔になった。


「社長ってのはな、自分ひとりで全部やるもんじゃねぇ。

誰と一緒にやるかを決めるのが仕事だ。

俺は木を割るし、カチは鉄を叩く。

坊主は――考えて、決めりゃいい」


「……うん」


さっき組合長室で感じた「カチリ」という感覚が、また1つ増えた気がした。


「よし、それじゃあ今日はこのへんにしとくか」


マルタのおっちゃんが大きく伸びをした。


「坊主社長、また状況が変わったら顔出せ。

こっちも面白そうな話があれば、声かけてやる」


「だから坊主社長はやめてってば……。

――でも、うん。また来る」


そう返しながら、俺は工房を後にした。


カチさんの「ムニュ……管……」という呟きだけが、いつまでも背中に追いかけてくる。


〈やることがどんどん増えていくな〉


ため息をつきながらも、口元は自然と笑っていた。



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