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異世界で社長になる。   〜5歳児から始める異世界ビジネス革命〜  作者: Mizunoki.Kawai


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## 5話 組合の馬車とWin-Win

## 5話 組合の馬車とWin-Win


マルタの薪屋の看板を視界に捉えながらも、俺は踵を返した。


〈いや、順序が違う。先に組合だ〉


交渉の基本は、外堀を埋めることから。

手ぶらで「安くしろ」では、ただの子どものわがままだ。


俺は人混みを再びかき分け、市場の中央にどっしりと構える、石造りのロンドール市場組合の建物に飛び込んだ。


中は、市場の喧騒とは打って変わって、紙――羊皮紙だが――の束とインクの匂いがする、事務的な空間だった。


「あの、すみません」


カウンターの向こうにいた、栗色の髪をきっちりまとめた綺麗なお姉さんに声をかける。

5歳の背丈では、カウンターに必死に掴まなければ顔も見えない。


「あら、可愛いお客さん。どうしたの?迷子?」


お姉さんは、にこやかに屈んでくれた。


「迷子じゃないよ。ええと、組合で馬と荷車を借りることはできる?」


「馬車?君がかい?」


「ううん、うちの店――炎の鍋亭が。薪を運ぶのに使いたいんだ。御者の人も一緒に借りると、いくらになる?」


俺が、できるだけ流暢に、前世の記憶を頼りに「業務連絡」風に尋ねると、お姉さんは目を丸くした。


「……炎の鍋亭って、ゴードンさんのところの?ええと……」


5歳児からのあまりに具体的な商談に、彼女は一瞬固まったが、すぐにプロの顔に戻った。


「はい、もちろんお貸しできますよ。馬と荷車、それに御者を1人つけると、半日拘束で銀貨20枚くらいかしら。馬車だけなら銀貨10枚でいいけれど、誰が引くの?」


〈銀貨20枚ってことは、だいたい20,000円相当か〉


「銀貨20枚ね。わかった、ありがとうお姉さん!」


よし、予算ゲットだ。


俺は礼を言ってカウンターから飛び降り、組合を後にした。


【組合受付:エリーナの視点】


「……行ったわ」


あの小さな嵐のような少年を見送ったエリーナは、呆気に取られたまま、カウンターの奥に声をかけた。


「組合長、今の子、見ました?炎の鍋亭の……」


「ああ、ゴードンとサラさんのところのライム君だろ。5歳にしては、やけにハキハキしていたな」


奥から現れた髭面の組合長――アイザットが、面白そうに窓の外を眺める。


「それが、『馬車と御者を借りて薪を運ぶ』算段を、銀貨20枚で見積もって行ったんですよ?一体何を企んでるのかしら……」


「わっはっは。ゴードンの堅実さと、サラさんの突飛なところを両方受け継いだってわけだね。これは面白くなりそうだ」


――


【ライムの視点】


俺はマルタの薪屋に全速力で戻った。


無骨な顔のマルタのおっちゃんが、ちょうど斧を振り下ろしたところだった。


「マルタのおっちゃん!今週の薪の注文、持ってきたよ!」


「おう、坊主か。早いな!よし、お前ら!炎の鍋亭の分だ、準備しろ!」


マルタのおっちゃんが声をかけると、店の奥にいた従業員たちが「へい!」と返事をして、薪を担ぐ準備を始める。

いつも通りの光景だ。


「おっちゃん、ちょっと相談があるんだけど!」


「……あ?」


マルタのおっちゃんが怪訝な顔で俺を見る。


「いつも配達で3人もつけてくれるだろ?作業を止めるし、大変じゃないかと思って。ちょっと、提案があるんだけど」


「なんだと?」


「いつも3人で運ぶ人件費、だいたい銀貨25枚くらいだろ?」


俺はカマをかけた。銀貨20枚の馬車代より上でないと交渉にならない。


マルタのおっちゃんの眉がピクリと動く。


〈当たり、か〉


「……それがどうした」


「組合で、馬車を借りると半日で銀貨20枚だった」


俺はマルタのおっちゃんの懐に飛び込むように一歩前に出た。


「おっちゃんのところは3人分の手間が浮く。その3人は薪割りとか別の仕事ができる。こっちは銀貨20枚で馬車を借りる。だから、薪の代金から、銀貨25枚、値引きしてくれ!」


マルタのおっちゃんは、しばらく俺の顔をジーッと見つめていた。


「……待て待て。坊主んとこの儲けは銀貨5枚だけだぞ。馬車を手配する手間を考えたら割に合わん」


「こっちは少し安く薪が手に入る。おっちゃんは従業員を別の仕事に回せる。どっちも得だろ?Win-Winってやつだ!」


「……うぃん?うぃんうぃん?なんだそりゃあ、酒の名前か?」


「違うよ!ええと、『どっちも勝つ』って意味だ!どっちも損しない!」


マルタのおっちゃんは、俺の言葉を頭の中で反芻しているようだったが、やがて腹を抱えて笑い出した。


「がっはっは!どっちも勝つ、か!面白い!坊主、本当にゴードンの息子か!?度胸だけはサラ譲りだな!」


彼は笑いながら、従業員たちに「お前ら、面白いもん見れたぞ」と手を振った。


「気に入った、坊主!その『うぃんうぃん』とやら、乗ってやる!」


「本当!?」


「来週の注文からな。坊主が馬車を手配しろ。そしたら銀貨25枚、きっちり引いてやる。どうだ?」


〈よし、来週からの契約は取り付けた!〉


「わかった!来週からはそうする!約束だぞ、おっちゃん!」


「おうよ!」


〈完璧だ。組合で借りるのは馬車だけ――銀貨10枚。御者はうちの見習い、テトに頼もう。あいつなら駄賃で銀貨5枚もやれば喜んで引き受けるはずだ。これで差し引き銀貨10枚(10,000円相当)のコスト削減になる!しかも、馬車が使えるなら、あのクソ重い酒樽の返却も一気に片付けられる!〉


マルタのおっちゃんは従業員たちに「よし、お前ら!坊主と一緒に炎の鍋亭まで運んでやれ!」と指示を出す。


俺はいつも通り、薪を担いだ従業員たちと一緒に炎の鍋亭への帰路につくことになった。


「効率化」は、来週からという条件付きだが、上々の滑り出しと言っていいだろう。





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