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異世界で社長になる。   〜5歳児から始める異世界ビジネス革命〜  作者: Mizunoki.Kawai


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## 49話 領都エステルと5歳社長

## 49話 領都エステルと5歳社長


翌朝。


テーブルの上には、相変わらず山のような朝食が並んでいた。


「……母さん、これ、明らかに皿の面積オーバーしてない?」


「何言ってんだい、ライム社長はこれくらい食べてもらわないと!」


母さんが、どや顔で胸を張る。

「社長」のところだけ、妙に声が大きい。


「母さん、その呼び方まだ慣れない……」


向かいの父さん――ゴードンが、少しだけ口元を緩めた。


「社長になるんだ。これくらい食っとかねぇとな」


「……うん」


父さんがスープを一口すすり、ゆっくりと口を開いた。


「今日は、アイザットさんのところに行くぞ。昨日、最後まで話を聞けなかったからな」


〈届出の続きか〉


「時間は昨日と同じでいい?」


「そうだな。昼前くらいに行こう。……また呼びに来てくれ」


いつものやり取り。

でも、昨日の“すれ違い”を越えたせいか、その空気はほんの少しだけ柔らかくなっていた。


〈こういうの、悪くないな〉


そう思いながら、俺は山盛りの朝食をどうにか片づけるのであった。


――


約束の時間。


「行ってくる、母さん」


「おう、しっかり聞いておいで、ライム社長」


母さんに背中をドンと押され、俺は店を出た。


父さんは、店の前で腕を組んで待っていた。

父さんの表情は、昨日よりずっと落ち着いている。


〈父さんも、少しは腹をくくった顔になってきたな〉


「ライム」


「ん?」


「昨日の……その、結論だが」


組合へ向かう道すがら、父さんは少し言いづらそうに頭をかいた。


「本当にいいんだな。お前が代表人をやる、ってことで」


「うん」


俺は即答した。


「怖くないって言ったら嘘だけど……やりたい」


「なら、いい」


ぽつりとそう言ってから、父さんは少しだけ顎を上げた。


「お前の好きなようにやれ。

何かあったら――親父として責任は取ってやる」


「父さん……」


「だからその代わり、分からないことは何でも相談しろ。

1人で抱え込むのだけはナシだ」


「……うん」


胸の奥が、さっきよりもう一段、ぎゅっと熱くなる。


俺たちは市場組合へと向かった。


――


「こんにちは!」


石造りの組合の扉を押し開けると、受付カウンターの向こうで書類を整理していたエリーナさんが、ぱっと顔を上げた。


「あら、ゴードンさんにライム君。こんにちは」


「昨日の続きで、組合長のところに」


俺が答えると、エリーナさんは「ああ」と納得したように頷いた。


「組合長もお待ちよ。奥の部屋、どうぞ」


「ありがとうございます」


2人で頭を下げて、奥へ進む。


――


組合長の部屋に入ると、今日も机の上には例の白黒の盤が広げられていた。


「組合長、こんにちは」


「お邪魔します」


「おお、ゴードンさんにライム君。待ってたぞ」


大柄な体に立派な髭の組合長――アイザットさんが、嬉しそうに立ち上がる。


「話はまとまったかな?」


父さんが、一歩前に出て頭を下げた。


「昨日は途中で席を立ってしまい、すまなかった」


「構いませんよ。あれは即答できる話じゃない」


アイザットさんは、ゆっくりと首を振った。


「むしろ、ちゃんと家族で話してから来てくれて、ほっとしましたよ」


そう言ってから、少しだけ表情を引き締める。


「で――今日、ここにまた来たということは?」


促すような視線を向けられ、俺はこくりと頷いた。


「うん。俺が、代表人をやることになったよ」


アイザットさんの眉が、わずかに上がった。


「父さんと母さんが、俺の後見人。

それで……組合長には、その、保証人をお願いできないかな」


言いながら、自分でも分かるくらい、声がほんの少しだけ上ずっていた。


一瞬の沈黙。

そして――。


「……それは良かった」


アイザットさんの顔に、ゆっくりと笑みが広がった。


「正直、それが一番いい流れだと、私も思っていました」


「本当ですか?」


「ええ。保証人の件も、もちろん引き受けましょう。

面白そうだしな」


最後に悪戯っぽく笑うのは、この人らしい。


「ありがとうございます!」


俺と父さんの声が、またぴったり重なった。


――


「では、昨日の続きに入りましょうか」


アイザットさんは、机の上の書類を整えながら言葉を続けた。


「登録商会――法人の届出の件です」


「はい」


「代表人と、後見人。そして保証人。

この全員で、商工会に出向いて届け出をする必要があります」


「全員で、ですか」


父さんが思わず聞き返す。


「ええ。書類だけ送って済むような話ではありません」


「で、その商工会ってのは……ロンドールにもあるのか?」


父さんの問いに、アイザットさんは首を振った。


「ありません」


そこで一拍置いてから、ゆっくりと言う。


「一番近いのが――領都エステルです」


「……領都」


父さんが小さく呟く。


〈領都!〉


俺の頭の中では、なぜか効果音付きでその文字が跳ね回っていた。


〈異世界のでかい街きた!〉


急に胸がドキドキし始める。


アイザットさんは、そんな俺の顔を見て、ふっと口元を緩めた。


「やっぱり、そういう顔をすると思っていましたよ、ライム君」


「え?」


「顔がにやけていますよ?」


図星すぎて、目をそらした。


「……そんなことないよ?」


「はは、否定になってないぞ」


父さんが苦笑する。


アイザットさんは、椅子の背にもたれかかりながら、窓の外にちらりと視線を向けた。


「せっかくですし、少しだけ補足しておきましょうか。

世界の広さの、感覚の話です」


そう前置きしてから、指を1本立てる。


「まず、ここロンドール。

人口は、おおよそ4万人前後です」


〈4万人〉

〈この街にいる人、だいたいそれくらい、か〉


「一方、領都エステル。

こちらは、15万人ほど。

この国でも有数の大きな街です」


「人が集まる場所、というのはそれだけで金の匂いがしますからね」


アイザットさんは、楽しそうに俺の顔をのぞき込む。


「ちなみに、王都はおよそ40万人。

さすがに桁が違います」


「よ、40万……」


父さんが軽く引きつる。


〈15万人の街でも十分でかいのに、そのさらに倍以上か〉


頭の中で、前世の記憶と、この世界の規模感を必死に照らし合わせる。


「エステルは大きな港も抱えていて、この国の重要な貿易拠点でもあります。

陸と海、両方から物と人が集まる。

商会の登録も、そういう場所にまとめた方が都合がいいんでしょう」


「港……」


〈海があるのか。

ってことは、塩も魚も、流通もぜんぶ――〉


「ライム」


はっとして顔を上げると、父さんがじっとこっちを見ていた。


「……そんなにニヤニヤして、何を考えてる?」


「べ、別に? ただの観光だよ、観光」


「嘘つけ」


父さんとアイザットさんのツッコミが、綺麗にハモった。


「まぁ、ライム君が色々考えているのは分かります」


アイザットさんが笑う。


「ですが、まずは法人の届出です。

そのついでに街を見るのは――そうですね、“下見”くらいにしておきなさい」


「……はい」


下見。

その言葉だけで、また胸がわくわくしてしまう。


アイザットさんは、机の上に数枚の紙――羊皮紙を並べた。


「届出の日程や、同行する人員、道中の宿の手配……。

そのあたりは、こちらでもある程度手伝えます。

急ぎではありませんが、そうのんびりもしていられない」


「どれくらいのうちに行った方がいいです?」


父さんが真面目な声で尋ねる。


「そうですな。

予定と相談しながらですが、ひとまず『いつ頃行けそうか』を、数日のうちに決めてください。

大枠が決まれば、こちらから商工会にも話を通しておけます」


「分かった」


父さんが深く頷く。


アイザットさんは、改めて俺の方を向いた。


「ライム君」


「はい」


「昨日も言いましたが――これは決して軽い話ではありません。

だが、それでも前に進もうという目をしている」


組合長は、ゆっくりと笑みを浮かべた。


「5歳の社長には、ちょうどいい冒険かもしれないな」


「……うん」


胸の奥で、何かがまた1つ、カチリと噛み合った気がした。


〈ロンドールの外。

エステルって街。

15万人の人と、港と、商人たち〉


〈夢は――まだまだ、広がる〉


「よろしくお願いします、組合長!」


「こちらこそ。

いい顔になりましたよ、ライム社長」


そうして、俺たちは新しい目的地を胸に刻んで、組合長室を後にした。


――


石畳の廊下を歩きながら、父さんがぽつりと言う。


「領都、か」


「行ったことあるの?」


「若い頃にな。

人と店の多さに、目が回りそうだった」


父さんは、少し懐かしそうに笑った。


「今度は――うちの社長のお供として行くことになるとは、な」


「変な言い方やめてよ」


そう言いつつ、頬が緩むのを自覚していた。


〈5歳の社長として。

領都エステルへ〉


新しい地図が、頭の中に描かれ始めていた。




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