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異世界で社長になる。   〜5歳児から始める異世界ビジネス革命〜  作者: Mizunoki.Kawai


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## 46話 農家の朝と炎の鍋丼

## 46話 農家の朝と炎の鍋丼


朝、鶏の鳴き声と、軋む床板の音で目が覚めた。

農家の朝はどこの世界でも変わらず早いようだ。

外からは、誰かが牛舎へ向かう足音や、井戸の滑車が回るギーギーという音が聞こえてくる。


居間に降りると、すでに大きなテーブルの上は皿で埋まっていた。

焼きたてのパンに、昨夜のシチューを少し伸ばしたスープ、こんがり焼けたベーコンが山になっている。


その周りを、子どもたちが走り回っていた。


「ライム坊、おはよう!」


「「「「おはよー!」」」」


テトの兄貴らしい男と、その奥さん、そして子どもが4人。

さらにテトの両親と俺と母さんが加わって、テーブルの周りはぎゅうぎゅうだ。


「ほら、座んなさい。冷めちゃうから」


テトの母さんが手を叩くと、子どもたちは慣れた動きで自分の席に滑り込んだ。

テトの兄貴は、眠たそうにあくびをしながらパンをちぎっている。


「ライム坊は、よく眠れたか?」


テトの父さん――カトさんが笑う。


「はい。藁のベッド、思ったよりふかふかで気持ちよかったです」


「そうだろう。……ほら、朝飯も食え。うちの手作りベーコンうまいぞ! 食べてみなさい」


「ほんとだ。これ、自分のところの豚ですか?」


「ええ、そうよ」


テトの母さんが誇らしげにうなずく。


「昨日見てもらった豚小屋のね。あれを塩漬けして、燻したやつなの」


〈完全にちゃんとした農家モーニングだな。

自家製パン、自家製ベーコン、自家製卵……めちゃくちゃ豪華だ〉


母さんも、目を細めてパンをかじる。


賑やかな声と、パンのちぎれる音、皿のこすれる音。

しばらくの間、テーブルの上は、街とは違う種類の活気で満ちていた。


楽しい時間は、あっという間に過ぎる。


食後の片付けが一段落すると、俺たちは居間に集まった。


「じゃあ、そろそろお暇しないとね」


母さんが立ち上がる。


「昨日は泊めていただいて、ありがとうございました」


俺も、深く頭を下げた。


「こちらこそ。テトがいつもお世話になってます」


テトの母さんが、少し名残惜しそうにうなずく。


テトは、昨日選んでもらった栗毛の馬の手綱を握り、

俺と母さんは、昨日と同じ乗合馬車で街まで戻ることになった。


「じゃ、俺は馬で先に行ってるな。馬の足だとちょっと早いから」


「うん。組合の方に預けておいて」


「任せとけ!」


テトは、馬の首を軽く叩いた。


「ライム坊、サラさん、またいつでもおいで」


「今度は、うちの亭主も連れて来るわ」


母さんが笑う。


「その時は、もっとたくさんごちそうを用意しないとね」


テトの母さんが、わざとらしくため息をついてみせる。


名残惜しさを胸にしまい込み、俺たちは村のはずれまで送ってもらって、乗合馬車に乗り込んだ。


御者の掛け声とともに、馬車はゆっくりと走り出す。

窓から見える畑の風景が、少しずつ遠ざかっていった。


「はぁ……帰りたくないなぁ」


思わず声に出る。


「そんなに楽しかった?」


母さんがくすっと笑う。


「うん。初めての農家体験、楽しかった」


馬車に揺られながら、今回の遠出の収穫を整理していく。


〈まず、組合長の知り合いの商店――の奥さんハンナさん親子に会えた。

リバーシの広まり方と、“どこで買えるか”って情報の重要さを再確認。

それから、テトの実家への挨拶は無事完了。

テトの実家が思った以上に多角経営で、小麦、大麦、根菜、葉物、馬、豚、鶏。

うちの店やランチボックス作戦と組める要素は、正直いくらでもある〉


「ねえ、ライム」


母さんが、窓の外を見ながら尋ねる。


「今回の遠出で、何が一番の収穫だった?」


「うーん……」


少し考えてから答える。


「テトが、実家に胸張って帰れるようになったことかな」


「そうねぇ」


母さんの横顔が、いつもより少しだけ柔らかく見えた。


道は行きと同じように、ひたすら畑の中をまっすぐ続いていく。

黒い土の帯、風に揺れる穂、遠くの案山子。

馬の蹄と木車の音を子守唄にしていると、時間の感覚がぼやけてくる。


やがて城門が見え始め、街の輪郭が近づいてきた。


無事にロンドールへ戻った頃には、太陽はだいぶ傾き、影が長く伸びていた。

店に着くと、ちょうど16時。夕営業の準備が本格的に始まる少し前だ。


「ただいまー」


「おう、帰ってきたな」


カウンターの向こうで、父さんが鍋の様子を見ている。


「どうだった?」


「無事、挨拶できたよ。馬も受け取ってきた」


「楽しかったわよー」


母さんが、どこか名残惜しそうに言うと、父さんが笑う。


「母さんはちゃんと真面目な感じで挨拶できるんだね」


俺がからかうと、母さんがすぐさま振り向いた。


「当たり前じゃない! 私をなんだと思ってるの?」


「いつもの母さんしか知らないからさ」


「こら」


言いながらも、母さんはどこか得意げだ。


「サラは元々、領都の商店の娘だからな。

いつもは……こんなだが、しっかりしてる部分もあるんだ」


父さんが付け足す。


「『こんなだが』は余計!」


母さんの拳骨が、軽く父さんの腕に入る。


そんなやり取りをしていると、横で仕込みをしていたエッタさんとミナが、こちらを振り向いた。


「ライム!」


ミナが、目を輝かせて駆け寄ってくる。


「みんなでいろいろ試して、メニュー考えたよ。食べてみる?」


「早っ」


思わず笑ってしまう。


カウンターの上には、小ぶりなどんぶりが並んでいた。

どんぶりの上には、1cm角くらいに切った豚肉と、玉ねぎとニンジンを煮込んだ具が、どさっと盛られている。


「これ……」


「元々、うちのつまみメニューにある煮込みを、ちょっと変えたんだ」


父さんが説明する。


「酒にもパンにも合うから出してたやつだが、米に合うように味を少し変えてみた」


一口、どんぶりの端をすくって口に運ぶ。


柔らかく煮えた豚肉。

玉ねぎの甘みと、ニンジンのほくほく感。

つゆがライスに染み込んでいて、ちゃんと“丼もの”っぽい。


「……うん。普通においしい。いや、かなりおいしい。

肉の量もいい感じだし、満足感もある」


正直な感想が口をついて出た。


「原価も、銅貨1枚半分くらいかしら」


エッタさんが、ちらりと自分の帳面を見る。


「具は元々、店のメニューの人気商品の1つだ。

とりあえずはこれでいいだろう。ライスに合うように改良は続けていく」


父さんがどんぶりを覗き込む。


〈元々はパンとか酒と合うように作ってるからな。

しょうゆがあれば完璧なんだけどな〉


そう、この世界ではまだ「醤油」に出会っていない。


「うん! でも、まずは動き出さないとね!」


どんぶりを平らげてから、改めて言う。


「馬も手に入った。メニューも決まった! いつから始められるかな」


「まだヤトが来てないだろう」


父さんが指を折って数える。


「ヤトは2日後に鉱山を辞めて、こっちに来る予定だ。

だから、実際に動かし始めるのは、その次の日――3日後にしよう」


「3日後か」


「それまでに、味の調整をしておきたい。

米との相性、冷めた時の味、持ち運びしてからの状態……試すことはいくらでもある」


「よし!」


俺は拳を握った。


「じゃあ、3日後からランチボックス作戦始動だ!」


「それとな」


父さんが、少しだけ真剣な顔つきになる。


「そろそろ法人届もやらなきゃいけないが……なかなか資料が分かりにくくてな。

どうやら俺は炎の鍋亭で届けを出しているから、社長になれないようなんだが、よくわからん」


「社長になれない……?」


〈個人商店と、法人の社長の兼ね合い、みたいなやつか?〉


「明日あたり、組合に一緒に行けないか?」


「全然大丈夫!」


即答する。


「説明してくれる人がいれば、何とかなるだろうし」


「助かる」


父さんが、少しだけ肩の力を抜いた。


「じゃあ、明日は市場だ」


俺は、どんぶりの余韻を舌に残しながら、そう宣言した。


炎の鍋丼と、ランチボックス作戦と、法人届。

異世界の「会社ごっこ」は、少しずつ、本物になりつつあった。




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