## 44話 乗合馬車と南の畑道
## 44話 乗合馬車と南の畑道
朝の食卓は今日も変わらず山盛りだ。いい匂いに釣られて席に着く。
「いよいよ、今日はテトの実家ね!」
母さんが嬉しそうに言う。
「手土産はカバンに入れたか。忘れ物はないな」
父さんが念を押す。
「大丈夫よ。ライム、出発前にもう一度カバンを確認しておいて!」
「了解。……よし、入ってる」
〈父さんは相変わらず抜かりない。母さんは完全に遠足モードだな〉
朝食をできるだけ胃袋に詰め込み、身支度を整え、荷を背負う。扉を閉める音が、いつもより少しだけ大きく聞こえた。
「じゃあ、乗合馬車のところに行こう」
テトが先に立つ。
「久しぶりの街の外ね。ふふ」
母さんもご機嫌だ。
市場通りを抜け、乗合馬車の出発地へ。広場は朝から賑やかだ。行き先の木札が並び、御者が声を張り、馬が鼻を鳴らす。街道のあちこちへ人が散っていく――まるで駅みたいな場所だ。
「南側行きは……あった。受付で手続きするね」
テトが木札を見上げる。
「料金はこれで足りる?」
母さんが銀貨の入った袋を渡す。
「足りる。……よし、出発だ」
手続きが済み、俺たちは乗合馬車に乗り込んだ。俺とテトと母さんの他に、母と子の二人組が乗ってくる。板のベンチに腰を下ろすと、御者の掛け声とともに馬車はゆっくり動き出した。
城門を抜けると、ひんやりとした風が頬を撫でていく。
街の外へ出ると、道はまっすぐ。両脇には畑、畑、畑。黒い土の帯が遠くまで伸びている。支柱に絡む蔓、風に揺れる穂、ところどころに立つ案山子。電線も車もなく、馬の蹄と木車の軋む音だけが響く。
「ここから南は、ずっとこんな畑の風景が広がってるよ。だいたい5時間くらいで、うちの実家のあるオルサ村だ」
「5時間……」
〈北海道みたいな広さ、って言っても伝わらないか。本当に“異世界”だな〉
「遠出は久しぶりね。気持ちいい」
母さんが外を眺めながらつぶやく。
向かいの母親が、にこやかにこちらを見る。
「あなたたちも、オルサ村へ?」
「ええ。あなたたちも?」
母さんが応じる。
「うん! おじいちゃんちに遊びに行くんだ!」
元気よく答えた子どもは、前のめりでこちらを見ている。
「いいね。……じゃあ、時間つぶしに、これやろうか」
俺は袋から盤と白黒のコマを取り出した。
「わぁ! それ、リバーシだよね! やろうやろう! お父さんが最近買ってきたんだ」
〈ということは、組合長の知り合いの線だな〉
「主人はロンドールで小さな商店をやってましてね。市場組合の組合長さんから教えてもらって、それからはずっと」
母親が微笑む。
〈やっぱり最強の広告塔、効いてる。しかも商店……組合長が言ってた人かも〉
「そうなんですね。一緒にできると楽しいですよ。僕は炎の鍋亭のライムっていいます」
「まあ、炎の鍋亭の。いつもゴードンさんにはお世話になってます。うちから厨房道具を仕入れてくださってるわ」
「ねえ、はやく置いて! 先手は黒でしょ?」
「ごめんごめん! 負けないぞー」
コマが「コトン」と鳴るたび、木車の軋みと混ざって心地いいリズムになる。母さんはハンナさん――と名乗ったその母親――と世間話をして、ときどき盤面を覗き込む。テトは前方の道と馬の足取りをじっと見ていた。
しばらくして、テトが身を乗り出す。
「ライム! 村が見えてきたよ。着いたら歩いて30分くらいだ」
「いよいよだね」
御者に礼を言い、ハンナさんとノアに別れの挨拶をして馬車を降りる。土の匂いがいっそう濃くなる。低い屋根が集まるのが見えた。
〈テトの実家。異世界農家。楽しみだな〉




