## 4話 効率化と市場の喧騒
## 4話 効率化と市場の喧騒
朝食を終えた俺は、水場で口をゆすぐ。
前世のような歯ブラシなど、この世界にあるはずもない。
指に粗塩をつけた湿った布きれを巻き付け、小さな歯をキュッキュとこする。
5歳の子どもにしては、妙に手慣れた仕草だろう。
〈さて、どう動くか〉
塩辛い水で口をすすぎながら、俺は今日の最難関である「薪の受け取り」について思考を巡らせる。
いつもは、うちが契約している薪屋が、従業員を3人も使って炎の鍋亭まで薪を担いで運んでくる。
当然、その3人分の人件費は、薪の代金に上乗せされているはずだ。
〈非効率だ……〉
そこで、だ。
まず、市場の元締め――組合――に行って、馬車を借りられないか聞いてみる。
もし借りられるなら、次は薪屋のおっちゃんとの交渉だ。
「馬車はこちらで手配する。運ぶ人間も俺が手配する。あんたのところの従業員3人分の時間が浮くだろ?その分、薪の値段を少し引いてくれ」と。
浮いた3人分の時間が、彼らの店――薪割りや森での伐採作業――に回せるメリットは大きいはずだ。
交渉が成立し、値引き額が馬車のレンタル代と、運搬を手伝う人間(例えばテト)1人分の手間賃の合計より安くなれば、俺の勝ちだ。
〈ついでに……〉
馬車を借りられるなら、そのままベック爺さんの酒屋に、空き樽を運んでもらうこともできるかもしれない。
そうなれば、一石二鳥どころじゃない。
〈よし、ダメ元で行ってみよう〉
5歳の子どもが何を言っているんだと笑われるかもしれないが、前世の営業知識――というほど大したものじゃないが――が通用するか、試してみる価値はある。
「母さん、父さん!市場に行ってくる!」
「おー、気をつけなよ!」
「まっすぐ薪屋に行ってこいよ!」
両親の声を背に受け、俺は店の分厚い扉を押し開けた。
ひんやりとした朝の空気が頬を撫でる。
ロンドールの目抜き通りは、すでに活気づき始めていた。
この街は、南の平野部からの農産物と、北の森や山からの資源が集まる中継地だ。
最近は、北の山で鉱脈でも見つかったのか、ゴツゴツとした体つきの鉱山労働者らしい男たちの姿も、酒場――うちの店も含む――でよく見かけるようになった。
人は確実に増えており、街は活気に満ちている。
〈早く終わらせて、クララと遊びたい〉
それが俺の最大のモチベーションだった。
幼馴染の顔を思い浮かべ、俺は小さな足で石畳を駆け出した。
市場は、街の広場一帯を占拠するように開かれている。
朝一番の喧騒――それが俺は嫌いじゃなかった。
野菜を山と積んだ荷車、生きた鶏がけたたましく鳴く籠、鍛冶屋が打った刃物を並べる露店。
人々の怒号に近い呼び込みの声と、埃っぽいが食欲をそそる匂いが混じり合っている。
「邪魔だぜ、坊主!」
「わっ、と」
荷物を担いだ男をすり抜け、俺は人混みをかき分けて進む。
目指すは、市場の奥の一角にある、薪や炭を専門に扱うエリアだ。
〈……あった〉
大量の薪が、まるで砦のように積み上げられた店が見えてきた。
看板にはマルタの薪屋とある。
店の前では、いつものように無骨な顔のおっちゃんが、斧で力強く薪を割っている。




