## 39話 「製品」としてのリバーシ
## 39話 「製品」としてのリバーシ
次の日の朝。いつものように山盛りの朝食を胃袋にかき込みながら、俺は父さんに声をかけた。
「父さん、酒札の調子はどう?」
「ああ」
父さんは満足そうにお茶をすすり、頷く。
「ライム、あの酒札は本当に効果てきめんだ。導入してから、客からの『勘定が合わない』って声が一切なくなった」
「本当!?」
「どうやら、お前の言う通り、こっちの請求漏れがかなりあったらしい。あれだけで、うちの売上も馬鹿にならん額が改善されてる」
「よかった! カチさんとマルタのおっちゃんにも伝えておくよ!」
「ああ、そうしてくれ。二人によろしく伝えておいてくれ」
そう言って父さんは、目の前の羊皮紙の束――組合長からもらった法人化の書類――に目を戻し、深いため息をついた。
「……こっちはさっぱり分からん」
「そ、そうだ、母さん」
俺は話題を変える。
「テトの実家に行くの、明後日から1泊でどうかな?」
「いいわね! 決まりよ! 久しぶりの遠出だわ!」
母さんは嬉しそうに目を輝かせた。
「わかった。じゃあ、テトにも伝えておくね」
「あと、父さん。俺、今日組合長のところに、頼まれてたリバーシを届けに行こうと思うんだ」
「おお、そうか。わかった」
父さんは何か思い出したように指を立てる。
「ライム、組合長に渡すなら請求書を忘れるなよ。金をもらうなら、ちゃんと証文を残すんだ」
「あ、危ない! 忘れるところだった! わかったよ!」
「それと、組合長に『法人化』の件で近いうちにまた相談に伺う、と伝えておいてくれ」
「了解!」
〈よし、今日の予定は――まずテトに挨拶の日程を伝える。次にマルタのおっちゃんのところでリバーシ15セットを受け取り、組合長に20セット納品。最後にカチさんのところで弁当箱の状況確認、だな。忘れずにこの前の5セットも持っていかなきゃ〉
一階に降りると、テトが開店準備の掃除をしていた。
「よう、テト。お疲れ様」
「おう、ライム坊。今日は皮むきじゃないぜ!」
テトは、厨房で忙しそうにしているエッタさんとミナさんを顎で指し、嬉しそうに笑う。
「今日からエッタさんたちが来てくれたからな!」
「よかったな! それでさ、テトの実家への挨拶なんだけど、明後日から1泊で行けそう?」
「おお! 本当か! わかった、実家にも手紙で伝えておくよ!」
「よろしく! それで、俺、今から市場に行くんだけど、テトも来るか?」
「仕事が……いや、今は俺、仕事ないんだった。行く行く!」
俺はテトを連れて、市場へ向かった。まずは「マルタの薪屋」だ。
「おっちゃん! こんにちは!」
「おう、坊主! テトも一緒か。どうした?」
「組合長に頼まれてたリバーシ、もうできてるかな? 20セットのやつ」
「おうよ! 残りの15セットできてるぜ!」
「さすが! 仕事早すぎ!」
「がっはっは! 当たり前だ! ……坊主。ちょっと待ってろ」
マルタのおっちゃんが店の奥から麻袋を2つ抱えて戻り、ドンと置く。
「これが注文の品だ。この前の5セットと合わせて20セットな。全部、1セット65枚のコマごとに袋に分けて入れてある。これはこの前の5セットの分の袋だ」
〈うわ、やべえ。袋のことなんて何も考えてなかった! この前の分までありがたい……〉
さらに、おっちゃんは布で包まれた箱を差し出した。
「おっちゃん、これは?」
「開けてみな」
布をめくると、蓋つきの木箱。蓋の表面には、寸分の狂いもないマス目が彫られている。蓋を開けると――
「すげえ……!」
中には、コマがぴったり収まるよう仕切られた収納。見た目も機能も、完璧だ。
「……完璧なリバーシ盤だ」
「いいだろ?」
マルタのおっちゃんが、職人の顔でニヤリと笑う。
「坊主。モノを売るってのはな、『中身』だけじゃダメなんだ。『外側』――つまり、どう見せるかも大事なんだぜ」
「……!」
〈このおっちゃん、すごすぎる……! 俺は袋のことなんてすっかり忘れてたのに、おっちゃんはそれを商機と見て箱になる盤を用意していたのか!〉
「こいつは、組合長にサンプルとして渡しとけ。『マルタ印のリバーシ盤』として、この盤が欲しい奴はうちに直接注文しろ、ってな。この盤の値段は、銀貨10枚だ。どうだ?」
「ありがとう、おっちゃん! さすがだ!」
「がっはっは! 商売の基本よ!」
俺は、父さんに書いてもらった請求書――リバーシ20セット分――を握りしめ、おっちゃんの商魂に感動で手を震わせながら、テトと共に組合本部へ向かった。




