## 38話 合同面接と、5歳の上司
## 38話 合同面接と、5歳の上司
あれから2日後。いつものように山盛りの朝食を胃袋に詰め込みながら、俺は父さんに声をかけた。
「父さん、今日は面接の日だね」
「……おう。わかってる」
父さんの返事は、どこか上の空だ。ここ数日、父さんは組合長からもらった「法人化」だの「事業届」だのという難しい書類を読みふけっており、若干疲れ気味だった。
〈……まあ、難しい書類仕事は父さんに任せよう。落ち着いたら法人化についても話し合おう〉
昼前。店のテーブル席に、俺と父さん、母さん、そして当然のように俺の隣に座るアシスタントのクララが揃っていた。
そこに、テトが弟を連れてやってくる。
「親方!ライム坊!弟のヤトです!」
「ヤトです!よろしくお願いします!」
ヤトは、テトを少し小柄にした感じの、人の良さそうな少年だった。緊張でガチガチだ。父さんが、どう切り出すか迷っている。
そこで――
「はい!」
クララが、またしても、ぴん!と手を挙げた。
「ヤトさん!これからライムが始める『ぷろじぇくと』の説明をします!」
クララは、この数日ですっかり板についた完璧なプレゼンを、ヤトに向かって披露し始めた。ヤトは、5歳の女の子が語る壮大な事業計画に、ポカンと口を開けて固まっている。
「……という訳で、テトお兄ちゃんと一緒に、馬車の運転と、お弁当の配達をお願いします!」
クララがビシッと締めくくる。
「……は、はい!」
ヤトが、半分パニックになりながら頷いた。父さんが咳払いし、後を引き取る。
「そういうことだ。給金は、テトとヤトの2人で、1日合わせて銀貨15枚になる。……そして、この仕事の『上司』は、ライムだ」
「えっ」
「ライム坊が……?」
「はい!ヤトさん、よろしくお願いします!」
俺が笑顔で言うと、ヤトは慌てて頭を下げた。
「は、はい!こちらこそ、よろしくお願いします、ライム……さん!」
「あ、さん付けはいいよ。ライムで。これからよろしくな、ヤト」
「う、うん!よろしく、ライム!」
俺は、さっそく情報収集に入る。
「ヤトは、ついこの前まで鉱山にいたんだよな?大変だった?」
「うん……。俺、体あんまり強くないから……。それに、最近、新しい鉱脈が見つかって、人がすっごく増えて……」
「新しい鉱脈?」
「元々は鉄の鉱山で200人くらいだったんだけど、最近『銅』が見つかって、領からも人が送られてきて、今は300人くらいいるんだ。もう、中はごちゃごちゃで……」
「300人……!」
父さんが、呻くように言った。
「……どうりで、街の何もかもが忙しくなる訳だ」
「そっか、大変だったな。……その鉱山のこと、今度またゆっくり教えてくれ。ヤトは、いつから働けそう?」
「うん!鉱山の人にはもう相談してて、来週末からでも!」
「わかった!よろしくな!」
「「はいっ!」」
テトとヤトが、嬉しそうに声を揃えた。
「じゃあ、テト。実家に挨拶に行く件だけど、今週中には行きたいな」
「おう!うちはいつでも大丈夫だぜ。馬車で行って半日くらいだから、朝に出て、挨拶して、馬をもらって、うちで1泊して、次の日に帰ってくるのがいいと思う」
「1泊ね」
母さんが父さんを見て、目を輝かせる。
「ゴードン、大丈夫?」
「ああ、構わん。1泊と言わず、ゆっくり行ってこい」
「わかったわ!楽しみね」
テトとヤトが帰ると、すぐに入れ違いで、今度はエリーナさんが2人の女性を連れて店に入ってきた。
「ご、ごめんください……!」
エリーナさんの母のエッタさんと、妹のミナさんだ。2人とも、ガチガチに緊張している。
「いらっしゃい!よく来てくれたわね!」
母さんが、いつもの調子で2人を迎える。席に着くや――
「はい!」
クララが、緊張をほぐすように、またしても手を挙げた。
「エッタさん、ミナさん!これからライムが始める『ぷろじぇくと』の説明をします!」
〈デジャヴ……!〉
クララによる、本日2度目の完璧なプレゼンが始まる。案の定、エッタさんとミナさんは、5歳の女の子が語る事業計画に、あんぐりと口を開けて固まった。
「……え、えーっと……」
エッタさんが、なんとか我に返る。緊張はどこかへ行ってしまったようだ。
「私は、前の仕事でも料理や会計の手伝いはしておりましたので、お役に立てると思います。この子も、手先は器用で、私の手伝いをよくしてくれていました」
「はい!」
ミナさんが、緊張しながらも、はっきりと答える。
「母さんは足を怪我していますので、その分、私が頑張ります!」
父さんが頷き、条件を提示する。
「給金は、お二人合わせて日当銀貨15枚で考えているが、いかがかな?」
「本当に、そんなに頂いても……!?」
エッタさんが、恐縮して目を潤ませる。
「大丈夫です!」
クララが、なぜか自信満々に胸を張る。
「ライムが、何かあったら何とかしてくれるので!」
「ははは……」
俺は苦笑いするしかない。
「クララの言う通り、大丈夫です。市場の人たちは、本当に昼ごはんに困ってるので。こちらこそお二人の力を貸してください。それで、いつから働けそうですか?」
「本当にありがとうございます!私たちは、仕事がなくて困っておりましたから、いつでも!」
「わかった」
父さんが頷く。
「では、色々と厨房の説明もある。明日から早速来てもらえるか」
「ライム君、本当にありがとう!」
話がまとまり、エリーナさんが俺の手を握ってくる。
「うちの妹、可愛いでしょ!もらってくれてもいいのよ!」
「も、もらっ……!?」
ミナさんが、顔を真っ赤にして俯く。
その瞬間、俺は隣から、ジト〜ッとした視線を感じた。クララが、無言で俺の袖を、きゅっと掴んでいる。
「お、俺はまだ5歳だからっ!」
俺の必死の叫びに、エリーナさんと母さんの高らかな笑い声が店に響いた。
〈……よし、これで新しい仲間3人は確保だ〉
俺は、クララに掴まれた袖を気にしつつ、次のステップ――テトの実家への訪問――に、思考を切り替えるのだった。




