## 37話 新しい仲間と、職人たちの「本気」
## 37話 新しい仲間と、職人たちの「本気」
〈クララには本当に驚かされる……。でもおかげで契約は滞りなく全部終わった〉
ルンルンのクララと、「5歳児とは一体……」と哲学的な悩みに入っている父さん――ゴードン。まだガハハと笑っているマルタのおっちゃんを横目に、俺は次のタスクを頭の中で整理していた。
1. エリーナさん一家(母エッタ、妹ミナ)との面談
2. ヤト(テトの弟)との面談
3. 馬と馬車(中古)の引き取り
4. リバーシ20セットの製造・納品
〈……もう一仕事、必要だな〉
「……はあ」
父さんが、今日一番深いため息をついた。
「なんとか、全部終わったな……」
「うん!」
俺が満面の笑みで頷くと、父さんは俺とクララを交互に見て、疲れ切った顔で言った。
「ライム。もう、お前たち5歳児が何を考えてるのか、俺には分からん。……だが、今日みたいに事を起こす前には、絶対に俺に相談しろ。いいな?」
「分かってるよ!」
「がっはっは!」
隣でマルタのおっちゃんが豪快に笑う。
「ゴードンも、たいした息子を持ったもんだ!しかも、こっちの嬢ちゃんも面白すぎるぜ!」
「『ぷろじぇくと』のお手伝いしたら、おなかすいちゃった!」
クララが、フリフリのワンピース姿で、お腹を押さえてみせる。
俺は、この頼もしい仲間に――父さんの苦労はよそに――満足しながら、マルタのおっちゃんに向き直った。
「おっちゃん、さっきはありがとう!それで、正式にお願いしたいんだけど」
「おうよ」
「まず、酒札を400個。色は3色でお願い。それと、組合長に頼まれたリバーシ20セット分のコマ。あと、弁当箱を、まずは200個。……これ、全部お願いできる?」
「任しとけ!」
マルタのおっちゃんは、ニヤリと笑う。
「カチの旦那にも話は通しておく。費用は、まあ、リバーシが売れた後でいいぜ。月末にまとめて請求する」
「いや」
父さんが、懐から革袋を取り出した。
「銀貨80枚。……弁当箱の発注代だ。カチさんへの委託とマルタさんの作業代は、これで足りるか?」
「おお……律儀だねえ、ゴードン。確かに預かったぜ。酒札とリバーシ代は月末に集計して請求するな」
マルタのおっちゃんは、ずっしりとした革袋を受け取ると、「じゃあな、嬢ちゃん!」とクララの頭をわしゃわしゃと撫で、自分の店へ戻っていった。
――それから2日後。
朝食後、開店準備で忙しい厨房をのぞくと、テトが裏口でジャガイモの皮むきと格闘していた。
〈……こいつ、本当にこれしかやることないのか?〉
「よう、テト」
「お!ライム坊!来たか!」
テトがニキビ顔を輝かせる。
「ヤトのことなんだけどさ、手紙の返事が来て!『明後日』、鉱山の休みが取れたから、挨拶に来たいって!」
「本当か!よかった!」
「おう!……それで、鉱山のことなんだけど」
テトが声を潜める。
「俺もヤトから聞いて驚いたんだが、今までの鉄の鉱山だけじゃなくて、最近、その近くに『銅の鉱山』が見つかったらしいんだ。だから、領都からどんどん人が投入されてて、人手がいくらあっても足りないんだってさ」
「銅鉱山……!」
〈どこかで聞いたような……でも忘れてた。銅!鉄より加工しやすくて、熱伝導もいい……。鍋や食器はもちろん、もしかしたら、蒸留酒も……!〉
俺の頭に、新たなビジネスの種が浮かぶ。
「ライムー!」
考え込んでいると、店の入口からクララが走ってきた。
「お、クララ!どうしたんだ?」
「エリーナお姉さんからの伝言!エッタおばさんとミナお姉さん、『明後日』にお店に来るって!」
「え!明後日!?」
俺はテトと顔を見合わせた。
「ヤトと同じ日だ。ちょうどいいや。クララ、明後日、俺と父さんで面接するんだけど、クララも一緒に見るか?」
「見る!『ぷろじぇくと』のお手伝い、する!」
「あとね!」
クララは続ける。
「マルタさんから『酒札とリバーシは、もうすぐ終わる。弁当箱は、カチさんとラークさんが頑張ってるけど、まだかかる』って!」
「……そ、そうか。ありがとう、クララ」
〈……すげえ。完璧な伝言だ〉
いつの間にか、クララは俺の「優秀なアシスタント」に変貌していた。
父さんに明後日の面接のこと――もちろんクララも同席だ――を伝えて、俺は市場に行く旨を告げて店を出た。
市場に着き、まずは「マルタの薪屋」へ向かう。
店の前では、マルタのおっちゃんが汗だくで巨大な斧を振るい、薪を割っていた。
「おっちゃん!こんにちは!そういえば薪割りは従業員にやらせないの?」
「おう、坊主!やっぱ汗かかねえとな!」
マルタのおっちゃんは、隆々とした腕の筋肉を見せつける。
「俺はこの薪割りから、この店をデカくしたんだ。……俺がいなくても店がちゃんと回る仕組みは作ってあるが、これだけはやめねえ!」
〈すげえ……!この人、筋肉だけじゃなくて、経営者としても本物だ!〉
「よっしゃ、カチの旦那のところに行くぞ。ラークの奴が、お前に見せたいものがあるって、昨日から張り切ってたぜ!」
二人で「カチ鍛冶屋」へ移動し、いつもの防音室へ。
すぐに、カチさんとラークさんが、興奮した様子で入ってきた。
「おう、坊主!見てくれ!」
ラークさんが、誇らしげに木箱をテーブルに置いた。
「これ……!」
木箱の中には、試作の弁当箱が並んでいた。
それは、先日見た試作品とは比較にならないほど精巧で、すべてが寸分違わぬ同じ形をしている。
「これが、俺の人生初めての作品……弁当の金型です!」
ラークさんが、緊張と喜びで顔を赤くしている。
「弁当を詰めやすいように、間口を広く。でも持ちやすいように、重さのバランスも調整したんです!」
「すごい……!すごいよ、ラークさん!最高だ!」
俺が心から賛辞を送ると、ラークさんは「へへへ」と照れ臭そうに笑った。
「こっちもできてるぜ」
マルタのおっちゃんが、麻袋を二つ、ドン、ドンと置いた。
「酒札500個と、リバーシ5セット分のコマだ!」
袋を解くと、完璧にプレスされ、美しく塗装されたコマが溢れ出してきた。
「カチさん、マルタのおっちゃん、ラークさん……!本当にありがとう!」
「がっはっは!」
「ふん。当然だ」
「任せとけ!」
職人たちの、無骨だが力強い笑顔に、俺は胸が熱くなる。
〈この人たちとなら、何でもできそうだ〉




