## 33話 天才幼馴染の「おてつだい」
## 33話 天才幼馴染の「おてつだい」
〈よし、今日のタスクはクリアだ。明日のアポも取った〉
テトが「責任者」という言葉の響きに固まっているのを横目に、俺は厨房を後にした。
残った時間、俺は一番の癒しを求めて隣の洗い屋へ向かう。
「ごめんくださーい!」
店をのぞくと、クララが一人で店番をしていた。
「あ、ライム!」
「ようクララ。今日は一人なんだな。よし、一緒に店番してやるよ」
「うん!リバーシやろう!」
俺たちは入り口の隅に盤を広げ、さっそくリバーシを始めた。
パチリ、パチリと木片のぶつかる音だけが響く。
「……ライム、最近すごく忙しそうだね」
ゲームの途中、クララがふと顔を上げた。
「え?」
「なんか、街のみんなが困ってるからって、いろいろ考えてるんでしょ?」
俺は驚いて、コマを置く手を止めた。
「なんで知ってるんだ?」
「いつもお話してくれてるからわかるよ!えっとね……」
クララは指を折りながら、俺の行動を整理し始める。
「まず、街に人が増えて、みんな大変になってる」
「お父さんとお母さんも、配達の仕事で全然帰ってこれない」
「薪屋のマルタのおじさんたちも、ごはん屋さんが忙しくて、お昼ごはんに困ってる」
「だからライムが、馬車と、テトのお兄ちゃんの運転で、みんなの配達とか、お弁当を届けるお仕事をするんでしょ?」
「そのために、この前見せてくれた酒札とか、お弁当の箱を、カチさんのところのプレス機で『ガコン!』って作って」
「お店の計算が合うようにして、請求漏れもなくして、その機械でリバーシもたくさん作るんでしょ」
俺は唖然とした。
〈……この子、本当に転生者なんじゃないか?〉
俺がここ数週間で必死に集めてきた情報も、計画の全体像も、断片的な会話だけでここまで整理してしまうとは。
しかも全部、ほぼ正確だ。
「すごいな、クララ。全部その通りだ」
「えへへ」
「それでね」とクララは続けた。「今、ライムはその考えてることを、みんなに順番に説明しに行こうとしてるんでしょ?」
「ああ。明日は父さんと一緒に、クララの店や、マルタのおっちゃん、カチさん、組合長のところに挨拶に行くんだ」
するとクララは、ぱあっと顔を輝かせた。
「じゃあ、私も手伝う!」
「え?」
「だって、ライムがやろうとしてること、すごく大変そうだし、お父さんたちにもちゃんと説明しないとでしょ?私も一緒に行くよ!」
〈いや、君のその理解力、5歳児のレベルじゃないんだが〉
俺は、この聡明すぎる幼馴染に、ためしに聞いてみる。
「クララ、『プロジェクト』って言葉、知ってる?」
「ぷろじぇくと?」
クララはこてんと首を傾けた。
「……なあにそれ?新しいリバーシ?」
〈ああ、よかった。そこは普通の5歳児だ……〉
内心ホッとする俺。
「いや、リバーシじゃないよ。『みんなで一緒にやる、大きな仕事』って意味だ。……それで、クララもそのプロジェクト、本当に一緒に来るか?」
「行く!お手伝いしたい!」
「よし、わかった。じゃあ明日は父さんと一緒に市場に行こう!」
「やったー!」
ちょうどその時、奥の扉が開いて、クララのお母さん――サクラさんが戻ってきた。
「あら、ライム君、いらっしゃい。クララと遊んでくれてたのね」
「お母さん!お帰りなさい!」
クララが駆け寄る。
「あのね、お母さん!明日、私、ライムとゴードンおじさんと一緒に、市場に行ってもいい?」
「え?市場に?」
サクラさんは一瞬驚いたが、すぐ優しく微笑んだ。
「ゴードンさんが一緒なら、まあいいわ。ライム君、ちゃんとクララのこと見ててくれる?」
「もちろん!大丈夫だよ、おばさん!父さんも一緒だから安心!」
「ふふ、そうね。じゃあクララ、くれぐれも迷惑をかけちゃだめよ?」
「はーい!」
俺はクララに手を振り、洗い屋を後にした。
店に戻ると、ちょうど父さんが厨房から出てきたところだった。
「父さん、ただいま。あのさ、明日の挨拶回りなんだけど、クララも『お手伝いしたい』から一緒に行きたいって」
「……クララちゃんもか」
父さんは、もう驚きもしないという顔で苦笑する。
「まあ、いいだろう。子供が一人増えようが二人だろうが問題ない。アインズたちには、俺からも話を通しておく」
〈よし、これで明日の準備は完璧だ〉
こうして、5歳のプロジェクトマネージャーと、5歳の超優秀アシスタントによる、異世界初の契約ツアーが始まろうとしていた。




